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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第五話 憎悪と欲望

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5.7 拉致監禁①


 年末と年の初めに数日の休日があった後、アルフォンスの魔法でノキアの噴水広場周辺は無事修繕された。

 アルフォンスも自由に移動できるようになり、リオナもC級になったということで容量箱を取りに行くことに。しかし、出発しようとした日の朝、またアルフォンスが縮んだ。

 宿の部屋でアルフォンスが足を抱えて落ちこんでいる。

「何でだ……体は鍛えているのに……」

「アルフォンス様! 元気出してください。前のときと比べると日数が開いています。たぶん、もう少しですよ!」

「ありがとう、リオナ……その言葉があれば頑張れるよ……」

 落ちこんでいるアルフォンスは、リオナに弱々しい笑顔を向ける。

「わたしに何かできればいいんですけど……わたしは、レイジネスシードを得るときにいない方が良いんですよね?」

「ごめんね、リオナ……内容は知られているけど、リオナに聞かれるのは恥ずかしい」

「わかりました。ではまた別行動ですね。あ、そうだ。せめて浄化された綺麗な水を作ります。少し待っていて下さい」

 キャクタスフラワーから落ちるモルデナイト。あれをブライスから借りた手巾に包んだままだった。アルフォンスに預けていたためそれを受け取り、器を借りるため部屋を出ようとする。

「ちょっと待って、リオナ。ぼくも一緒に行くよ」

「大丈夫ですよ。ここは高級お宿ですし、何も危険はないです」

「いや、リオナはかわいいから、一人でいたら危ない」

「かわっ……あ、ありがとうございます」

 リオナが照れていると、アルフォンスが立ち上がった。断るのも忍びないため、一緒に行く。

 宿の一階は食事処も兼ねているため、その厨房へ器を借りに行く。しかし訪ねた時間が朝食を作る時間だったため、大きめの器を借りて裏庭にある井戸から汲むことになった。

 忙しない厨房から出て進む。裏庭に出る扉があり、何の警戒もなしに外へ出ようとした。

「ちょっと待って。さすがに誰もいないと思うけど、宿の外は危ない。ぼくが先に行って様子を見てくる」

「わかりました」

 一応扉を閉めておいてという指示に従う。

 アルフォンスの警戒心を少しは見習った方がいいのだろうか。そんな風にぼんやりと考えていると、アルフォンスの荒げるような声がし、どさり、と音がした。

「アルフォンス様? どうかしました……」

 扉を開けると、倒れているアルフォンスが数人の男に囲まれていた。大きめの器が手から落ちる。

「アルフォンス様に何をしたんですか!!」

 アルフォンスが倒れているということで、周囲をよく見ていなかった。いや、警戒心がなかったというべきか。

 アルフォンスに駆け寄ったリオナは、背後から布で口を塞がれ、猛烈な眠気に襲われた。


(うぅ……頭がもやっとする……)

 猛烈な眠気は、薬を嗅がされたのだろうか。どれだけ劣悪な環境でも体調を崩したことがなかったリオナは、もちろん薬の類いを使ったこともない。だからだろうか。意識を取り戻したはずなのに、まるで霞でもかかているかのように視界が定まらない。

 何度か頭を振る。そうしてようやく、両手を後ろで縛られているとわかった。柔らかい布のようだから、端を見つければほどけるかもしれない。

(アルフォンス様は!?)

 意識がはっきりしてくると、あの場にいたアルフォンスの行方が気になった。

 窓には板が張られているのだろうか。細い光の筋のような明かりが部屋に入っている。その角度からすると、まだ部屋の中がわかるような時間帯らしい。

(何か、情報を得ないと……)

 目の前に大きな壁のような何かがある。だから見えないが、この部屋に人の気配はないようだ。アルフォンスが無事ならば良い。しかし、なぜこんな状況になったのかわからなかった。

 腕を拘束している布を外せないかと端を捜していると、誰かの足音が近づいてくる。リオナはとっさに目を瞑り、まだ眠っていると装う。

 ザッザッザッ。カチャカチャ。ギィーー、バタン。コツコツ。

 リオナの目の前まで、誰かが来た。

(どうする!? ここで目を開けたらたぶん誰かわかるけど、起きていることがばれたら……)

 警戒心がなくて捕まってしまった。だから今、リオナがするべきことは状況把握だ。それは目の前の人物の正体を知ることもそうだが、まずは周辺環境がどうなっているかを知らないといけない。

(っ、気持ち悪いっ)

 ローブから出てしまっていたのだろう。目の前の人物が、リオナの足を触る。触られていると思った瞬間、寒気がした。

「ん……」

 思わず体を震わせてしまったため、とっさに寝返りを打つ。リオナが起きると思ったのか、目の前にいた人物は何度か取っ手を回した後、そそくさと部屋から出て行った。

「……」

 少し時間を置く。すぐに戻ってこないでと思いながら、目を開けて体を起こした。そして、改めて周囲を確認する。

 今いる部屋の床は板。そして人物が入ってきた様子からすると外は土もしくは砂利が混じった土。そして鍵が掛かっている様子はない。

(……たぶん、外に出られる。でも外の様子はわからない。ここがどこだかわかればもう少し対策できるんだけど……)

 後ろで拘束されている手をどうにか前に持ってこれないかと奮闘している内に、目の前の壁のような障害物に当たった。そして、コロンと何かがリオナの頭に落ちてくる。それがこの場所の手がかりになると思い、転がっていった何かをじっと観察した。

(……何の種類かはわからないけど、もしかして光石?)

 光石は、光や熱に弱いものもある。だから鉱石も光石も、影に置いておく。そんな置き方をするのは、研磨師がいる工房くらいだ。

(ここはどこかの工房の、倉庫……?)

 手がかりらしきものを得たが、リオナはオルゴーラ工房しか知らない。オルゴーラ工房であれば、確かに今いるような倉庫もある。

 何かもっと、特定できるような何かがあれば。そう思い、光石が積まれていると思われる障害物に体をぶつける。

 ばらばら、ばらばら、といくつかの光石がこぼれてきた。

(……光石は傷つきやすいやつもある。こんな保管の方法じゃ、受注した製品を作るにしても価値が下がるのに……)

 こんな保管方法をするなんて研磨師の資格を返上しろと文句を言おうとした、そのとき。また何度かカチャカチャと取っ手を回して誰かが入ってきた。

 体は起こしてしまっている。今から横になっては起きていることが相手にばれてしまう。だからリオナは、壁に寄りかかるような体勢になってから目を閉じた。

 コツコツ、コツ。

 入ってきた人物が、リオナの行動に疑問を持っているかのような足音だ。

(起きていること、ばれた!?)

 幸い、足は自由だ。それならば多少の不便はあっても逃げ出せる。なんだったら、リオナを監禁している人物を蹴ってもいい。

 どうするかと思っていると、扉が開いた。

「オトコル。師匠が呼んでるぞ、早く来い」

「わかった」

 倉庫から、人の気配がなくなる。そして、今いる場所がどこだか判明した。オルゴーラ工房の、倉庫だ。




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