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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第五話 憎悪と欲望

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5.6 スリースクッシュ


 依頼書によると、スリースクッシュからのドロップ品セルサイトの納品は、特に期日は決まっていないようだ。なるべく早めに、ということ以外は依頼の報酬が一万ガルドというくらいだ。

 スリースクッシュが出るのは川。ノキアの街から一番近いのはマオゲヌ山とアルグネ山の間にあるセヴェン川だ。

 ノキアからは北門を出ると近い。そこへ行くまでの道すがら、聞いた。

「ブライス様。こういう依頼されるやつって、どれくらいが報酬の目安ですか」

「どうかな。おれも指名依頼を受けたことがないからわからない。ただ、スリースクッシュがドロップするセルサイトの価値を考えると、かなり破格の値段だと思う」

「セルサイトって、三五〇ガルドですよね」

「鉱石だから、リオナ嬢なら二倍の値段になるんじゃないか」

「それにしても、七百ガルド。確かに一万ガルドは破格ですよねぇ」

「セルサイトは、確か粉末にすると睡眠薬として使えるんだったか。病院からの依頼なのかもしれない」

「なるほど! それなら納得です。わたしは使ったことがないですけど、睡眠薬って必要な人には大切な薬ですもんね」

 話ながら歩いていると、セヴェン川についた。川でありながら周囲に森はなく、広範囲に開けている場所だ。マオゲヌ山とアルグネ山の方から流れる川は、二つの山の中間付近で交わる。日によって流れの向きが変わる、特殊な川だ。

「さて、どこに(ビンドウ)を仕掛けようか」

「そうですね、あの岩の辺りなんてどうでしょう」

 リオナが指差したのは、元は橋脚を支えていた土台の岩だ。

 セヴェン川は、もし渡れればオルハルガルの街へ行く近道となる場所だ。しかし川の幅は広く、日によって変わる流れがうねりを生み、何度も橋は壊れてしまった。

 だから今オルハルガルへ行くには、テフィヴィへ行き、ロンガースを経由して行かなければいけない。マオゲヌ山を回り込むように行けば多少は早くいけるが、周囲に沼地があり歩ける場所は限られている。結果、遠回りでも街を経由して整えられた街道を進む方が早い。

「なるほど。あそこなら川の流れを少し緩やかにするから、集まりやすいかもしれない」

「罠を仕掛けるよりも、ぽんぽん倒しちゃう方が早いですけどね」

「……いや、それができるのはリオナ嬢くらいだよ」

 スリースクッシュは、鋭い歯を武器に飛んでくる翼がある魚だ。水音に反応し、飛びかかって噛みついて獲物を眠らせる。だからわざと水音を立てれば、大量に討伐できるのだ。

「でも不思議ですよねぇ。鉱魔って水気があるところに出現するのに、川の周辺にいないなんて」

「確かに。鉱魔はまだ判明していない情報もある。スリースクッシュのように、何かしらの条件があるのかもしれない。もしくは、多すぎる水には逆に反応しないとか」

「その説なら、確かに川に鉱魔があふれない理由がわかります」

 ブライスが要領箱から罠の材料を取り出し、作り始める。藁を手早く編んでいき、円錐形の部分を二つ、それをはめ込む蓋無しの箱のようなものを二つ作った。

「器用ですね」

「まあ、野営するときによく魚を捕まえていたからね。でもまさか、スリースクッシュまでこれで捕まえられるなんて思いもしなかった。リオナ嬢が提供してくれた情報のお陰だ」

「翼がついてますからね。一度入ってしまえば、返しがあって外には出られません」

「リオナ嬢の情報がなければ、コープス達三種類やユウトピアラのことも考えないといけないからね。それらのことを気にしなくていいのは楽だよ」

「わたしの情報、というよりは、ジェイコブさんが教えてくれた情報ですけどね」

 話ながら、ブライスが二つの罠を仕掛け終えた。水の流れで浮き沈みをし、水音を出す仕組みだ。これで準備は整った。あとは一晩経ってから回収しに来ればいい。スリースクッシュに限らず、水中にいる鉱魔は水から出せば勝手に死ぬ。


 一度ノキアへ戻り、迎えた翌日。

 罠を回収してスリースクッシュを討伐し、セルサイトもドロップ。納品して、初めての指名依頼を終えた。

 難しくない依頼。それがまさか、あんなことになるなんて思いもしなかった。



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