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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第五話 憎悪と欲望

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35/100

5.4 ライトキャトルの暴走の謎

 少し長めの文章量です


 冒険者カードを見て等級が変わったことにリオナがにやけていると、アルフォンスはまた白魔術師として街の修繕に駆り出されて行った。

 アルフォンスから、単独行動をしないようにいわれているため、ブライスに言う。

「ブライス様。一つ確認したいことがあるので、付き合ってもらえますか」

「つ……わ、わかった。何をすればいいかな」

「ライトキャトルが暴れていた原因を調べたいと思いまして」

 ブライスと一緒に、各門を回ろうと動き出す。しかし当然のことながら、そこには数名ずつギルド職員の制服を見かけた。

(まぁ、門兵の人から話を聞くよね)

 リオナは後ろをついてきてくれていたブライスを見る。

「ブライス様。もう一箇所、付き合ってください」

「わ、わかった」

 一ヶ月前まで毎晩通っていた、東門近くの壁穴に向かう。そこへ行くまでの道すがら、特に何かが壊れた形跡はなかった。

「こんなところに穴が……」

「時間になると門が閉まってしまうので、前までこの穴を通っていたんですよね」

「え、それはどういう……」

「オルゴーラ様から難題を言われることが多くて、ここから外へ行っていたんですよ」

「カールト隧道にいた時も?」

「そうです、そうです。あのときはショールも取れって言われていたんですけど、冒険者になるから関係ないって思ってデューオルチョインを狩りまくっていました」

 何てことはないというような調子で答えたが、ブライスは何か思い悩んでいるかのような顔をしている。時折、やはり何か制裁をと物騒な言葉が聞こえたような気がした。

 何かあれば伝えてくれるだろうと判断し、リオナはローブを汚さないように気をつけながら穴の中を覗きこむ。

「うーん……キャッツアイはあるんだよなぁ……」

「キャッツアイ? さっき誰かが言っていたね。珍しいものじゃなかったのか?」

「珍しいものではありますよ。新月の夜に血のにおいがするところにしか出てこない、ニュムイガーのドロップ品なので」

「それはまた、特殊な出方をする鉱魔だね」

「そうですね。このキャッツアイは、まだジェイコブさんが生きているときに置いてもらったやつです」

「なるほど。それなら、この穴からライトキャトルが入ったというわけではないということだね」

「だと思います。キャッツアイは、物質型と異形型以外には鉱魔避けとして使えますから」

「鉱魔は全部で三十種類。その内の、その二つの種類は何種類いるんだっけ」

「アトゥンツリーとバルンダ、それにイレクトリシールドの三種類ですね」

 少なくとも五年以上は開いている穴からの侵入ではない。であるならば、ライトキャトルはどこからノキアの街に侵入したのだろうか。

「ブライス様。鉱魔は水のあるところに出現しますけど、街は大丈夫なんですよね?」

「各街の中央に、守護石が置かれているはずだよ。そうでなければ、噴水なんて鉱魔発生装置だ」

「守護石。そんなすごい物があるんですね。その石って、わたしみたいな庶民でも確認できますか」

「身分に関係なく、見れるよ」

 申請しなければいけないが、守護石は冒険者ギルドの地下から行けるようになっているらしい。

 ブライスが先頭に立ち、ギルドへ行く。まだ後処理に追われているララを発見し、守護石見学の申請を出した。

 ララは同僚に持ち場を離れることを伝え、先導してくれる。地下に繋がる扉には鍵がかけられており、その先は暗い。三人で協力しながら、壁に設置されているクリオライトを摩擦熱で光らせていく。

「守護石に何かあったのでしょうか」

「何か、異変があったのかもしれません。ライトキャトルが現れたのは、門が閉まっている時間ですし、穴にもキャッツアイが置かれていましたし」

「え、リオナさん。穴って何でしょうか」

「あー、えっと、もう大分前から開いているんですけど……」

 東門の近くにある穴のことを伝える。もうオルゴーラに難題を押しつけられることはないし、冒険者として正式に活動しているから何も問題はないだろう。しかし冒険者ではない時代に、何度も鉱魔を狩っていた。何かお咎めがあるかと思ったが、特に何も言われない。

 リオナが内心ホッとしていると、位置としてはちょうど噴水広場の噴水の下辺りに来た。

 ここでもまた、三人でクリオライトを光らせる。

「おぉ……大きい……」

 そこにあったのは、床に置かれている巨大な鉱石。まるで大昔からこの場所に鎮座していたかのような、そんな威厳を感じる。しかし両手を広げても端まで届かないような巨岩は、あくまで荒削りの鉱石だ。この黄緑色の配色は、見覚えがある。

「テフィヴィ、ノキア、ロンガース、オルハルガルの街の地下に、初めからあったとされています。大昔の人はこの周囲は鉱魔が発生せず安全だとして、街を築いたと言われています」

「へぇ……まさしく、守護石ですね。でも、今のままでも効力はあると思うんですけど……今日、ライトキャトルが出現しました。もしかしたらどこかにヒビが入っているかもしれません。また何かあったときにすぐわかるように、磨いてもいいですか?」

「磨く? この巨岩を?」

「はい。わたしは落ちこぼれですが、研磨師です」

「落ちこぼれ……ということは、リオナさんの夢というのは」

「研磨師試験で受かって、正式な研磨師になることです」

「なるほど。それならば色々と納得です。モルデナイトを欲しがったり、ドロップ品の鉱石が光石になっていたのはそういうことだったんですね。ですが、リオナさんでもこの大きさの鉱石を磨くのは何ヶ月もかかかりますよね。応援の研磨師を呼んできましょうか」

「たぶん、大丈夫です。磨いちゃっても良いんですよね」

「は、はい。ライトキャトルが現れた今、鉱魔対策は冒険者ギルドとして急務です」

「わかりました。では、なるべく早めに終わらせますね」

「あ、いえ、急務というのはリオナさんを急かしたいわけではなくて」

 ララの言葉を聞きながら、リオナは黄緑色の巨岩に近づく。そして両手を向けた。

研磨(グラインドポリッシュ)。カボション・カット、オーバル」

 リオナが詠唱をすると、最初は何も変化がなかった。しかし表面の荒削り部分が、上部からゆっくりと磨き上げられていく。巨岩と言えば聞こえは良いが、歪だった形は楕円形の山型に研磨された。

(やっぱり! 見たことあると思った!)

 黄緑色だった巨岩は金緑色となり、キャッツアイの名にふさわしいような光の帯がはっきりと中央を縦断している。

「すごい……」

 感嘆の声を上げたララも、無言で見つめていたブライスも、リオナが研磨したキャッツアイを見ている。そんな二人に近づく。

「ララさん。これで、もし次に何かあったら変化がすぐにわかると思います」

「あ、ありがとうございます……守護石のこと、ギルド長に伝えておきますね」

 ふらり、と、ララはまだ放心しているような状態で歩き出す。その後に続くようにしてリオナとブライスも外へ出た。



・-・-・-・-・


 ライトキャトルが暴走したことにより、ノキアの噴水広場は深夜になってもざわついていた。

 そんな噴水広場を見下ろせるような、建物。そう、ライトキャトルが突き刺さった建物だ。その建物の最上部の窓際で、灰色がかった茶髪の人物が頬杖をついていた。

(あーあ、失敗かぁ。でも、あの男は使えるかも)

 上機嫌だとわかるように口角を上げているその人物は、()()を養っている男に呼ばれて窓から離れた。


・-・-・-・-・



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