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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第五話 憎悪と欲望

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5.2 最速昇級①


 リオナはC級を目指していた。そして同時に、テンプティテンプティを倒して稼いでいた。主にアルフォンスとブライスが苦労しながら。

 リオナが冒険者になった日から三週間。あと数日でナナル暦一五一四年が終わる。

 様々な場所が飾られ、クリオライトで照らされ、ノキアの街は年末特有の賑わいを見せていた。

 そんな年末の、冒険者ギルド。今日が仕事納めと決める冒険者で溢れていた。

「……百八、百九、百十……確かに、百十個のショールがあります。ショールは鉱石ではなく光石のため、換金額は二倍となり、合計で二百二十万ガルドになります……?」

 買い取り場所に現れた、リオナたち一行。アルフォンスの容量箱から出されたのは、ショールの山。

 今日担当しているのは今までリオナが換金するときに担当してくれた人とは違うらしい。ララよりは年下で、リオナよりは年上に見える。年末で忙しいのだろう。疲労感が拭えない状態で、重たそうな瞼をこすって目の前のショールの山が現実なのかどうか疑っていた。

「これでE級とD級を卒業ですよね!」

「はい? えぇと……??」

 前に出したように、換金するときに冒険者カードを出す。それを受け取った換金係のギルド職員は、リオナの等級を見てさらに首を傾げる。そして何を思ったのか、キッとリオナを睨みつけた。

「あなた、冒険者としての矜持はないんですか!!」

「えっと?」

 突然の(そし)りに身に覚えのないリオナは、訳もわからず瞬きが増える。そんなリオナを見て、ギルド職員は胸を張るように腕を組んだ。

「冒険者の制度上、確かにドロップ品の数が増えれば昇級できます。ですが、ドロップ品の数というのは冒険者の力を示します。それなのに、パーティーメンバーに取ってもらったドロップ品を自分の成果として出すなんて、恥ずかしいと思わないのですか」

「えぇと、すみません。何を言っているのかわからないんですが……」

「良いですか、冒険者の等級と言うのは、冒険者の命を守るために」

「暴れ牛だ!!」

 換金係のギルド職員が滔滔(とうとう)と冒険者の心構えをリオナに説明しようとしたとき、ギルドの外から悲鳴が聞こえてきた。

 リオナはアルフォンスとブライスと、頷き合い外へ出る。騒ぎは、噴水広場の方らしい。

「ライトキャトルだ!」「誰か倒せよ!!」「キャッツアイ持ってこい!」「そんな珍しいもの、あるわけないだろ!!」「おかーさーん、どこぉ……」

 鉱魔がいる。だからノキアの街だけでなく、他の街にも街の周囲には壁がある。そのはずなのに、街の中央にある噴水広場までライトキャトルが侵入していた。

 ()しくも、街は今、年末の飾りが至る所にされていてとても明るい。そう。今も尚噴水広場で暴れまくっているライトキャトルが落とす品、クリオライトでそこかしこが照らされているのだ。

(ライトキャトルって、こんな感じなんだ)

 ジェイコブからの知識により、ライトキャトルのことは情報として知っていた。しかし実際に見ると驚く。

 全体的に淡く発光しているライトキャトルは、自分よりも明るい光に向かって突進する。それを利用して、深い穴を掘った後で光で誘導し、落として気絶させてから討伐する――というのが、攻略方法だ。しかしここは街中で穴は掘れず、すでに暴れている状態のライトキャトルは非常に危険。

「アルフォンス様! 子供がっっ」

 そんな危険極まりない騒動の中心付近に、親とはぐれたらしい子供が座り込んで泣いていた。今は奇跡的にライトキャトルの突進を免れているが、いつ被害に遭ってもおかしくない。

 ズダン! ズダン! と、明るい光に向かってライトキャトルが突進を続ける。噴水広場の周囲は、その突進によって被害を受けている建物が増えてきた。

(どうしよう。子供を助けてあげたいけど……)

 暴れ回るライトキャトルは、突進し続けたことによってダメージを受けている。時を待てばもっと弱るかもしれない。しかし逆に、手負いの獣は何をするかわからない恐怖がある。

 ふらり、とライトキャトルが体の向きを変えた。ライトキャトルが、リオナたちが立っている方向を見る。来るっ、と思った矢先、ライトキャトルはまた体の向きを変えた。

 その視線の先にあるのは、クリオライトが入れられて明るさが増している篝火。そしてそこまでの直線上に、取り残された子供がいる。

「ブライス様! 援護をお願いします!」

「リオナ嬢!? 何をっ……」

 フスゥフスゥと鼻息の荒いライトキャトルが、篝火に狙いをつける。

 そんなライトキャトルのことを気にしつつ、リオナは座り込んで泣いている子供目指して全力疾走。ライトキャトルが突進する前に、リオナは動いた。だから間に合ってほしい。

 そんな願いを込めて、ひたすら走る。そして子供を抱きかかえ、そのままの勢いで石畳の上を転がった。顔や足にピリッとした痛みが生じる。

「ライトキャトルは!?」

 子供を庇うように前に出て、追撃に備えようとライトキャトルを捜した。噴水広場に集まる人々の視線が、全て同じ方向を見ている。そっちにいるのかとリオナも目を向ければ、四階建ての建物の二階部分にライトキャトルが()()()()()()

(……何があったの?)

 なぜそんなことになったのかわからないまま、子供の母親が子供を迎えにきた。何度もお礼を言われ、対応している内に気づく。母親の腕の中で泣きじゃくっている子供は、以前噴水広場で元気に駆け回っていた子供だと。

「おねえちゃん、ありがと!」

「気をつけて帰ってね」

 泣きやんだ子供が、大きく手を振って母親と一緒に広場を離れていく。子供を助けられて良かったと思っていると、アルフォンスが駆け寄ってきた。




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