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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第四話 絡まり、空回る心

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4.7 事故と事件④


「ゴロスケホッホ-」

 森の中を進んでいくと、シャドウルの鳴き声がした。ブライスを見ると、しっかりと頷く。

「ここからは、リオナ嬢の気配を消すからちょっと待って」

「はい」

 ブライスの前で姿勢を正すようにして立つ。

「赤魔術師ネイサン・ブライスが命じる。世界に満ちるマインラールよ、リオナ嬢の気配を消せ」

 ブライスの手が、まるでリオナに見えない枠をつけるように足下から頭へ、反対の方向へと動く。

「これで一晩は鉱魔に気づかれない」

「すごい。こんなこともできるんですね」

「アルが冒険者になりたての頃から使っているから、効果は保証する。おれは囮役だから、このまま気配を残しておくよ」

「わかりました」

 再びブライスとシャドウルを捜す。

「ゴロスケホッホホー」

 シャドウルは見つからないと思っているのか、心なしか上機嫌と思えるような鳴き声を出している。そのおかげで、シャドウルが止まっている木を発見した。

 アルフォンスは、シャドウルの大きな翼に包まれるような状態だ。下にブライスがいるとはいえ、失敗は許されない。

「ゴロスケッ??」

 ブライスが木の下で動くと、シャドウルが周囲を警戒した。ブライスが進んだ方向へ、首を向けている。

 リオナも動いてみた。しかし、反応しているのはブライスの方だけ。

 ブライスと頷き合い、リオナが木を登り始めた。僅かな振動でさえも、シャドウルに伝わってはいけない。そんな緊張感の中、リオナは慎重に木を登っていく。

 上に近づけば近づくほど、シャドウルが機敏に周囲の様子を探っていることがわかった。ばさ、ばさ、と木の葉を揺らすような音が何度もする。

 リオナの手が届きそうな所までくると、片方の翼を広げることもあった。翼の中に捕らわれているアルフォンスと目が合う。

 とっさに、リオナは指を口元へ持っていく。話しては駄目だと気づいてくれたアルフォンスが、頷いてくれた。

(鉱物眼!)

 シャドウルを見ると、斜方晶系(しゃほうしょうけい)と出た。鉱石の場所は、アルフォンスを抱え込んでいる翼にある。

 気づかれないように近づき、アルフォンスを抱え込みながら周囲を窺っているシャドウルの鉱石を殴った。

 シャドウルはばらばらになり、アルフォンスが解放される。

「アルフォンス様!!」

 木の上から落ちそうになったアルフォンスに、木を掴みながら手を伸ばした。肩が引っ張られ、激痛が走る。

「リオナ! 手を離して!」

 アルフォンスに言われるよりも先に、限界がきてしまった。掴んでいた細い枝は大きくしなり、ポキッと折れる。

「リオナ!!」

 掴んでいた手を引き寄せられ、アルフォンスに抱きしめられるような形になった。途中の木の枝を次々と折りながら、アルフォンスが叫ぶ。

「ネイサン! 頼んだ!!」

 そんな短い言葉だけで、ブライスには通じたらしい。詠唱のような声が聞こえたかと思うと、リオナたちは地面に叩きつけられる直前、風に包まれた。そして解除され、地面に倒れ込むような形で着地する。

 ドッドッド、と心臓が口から出てくるんじゃないかと思うほどうるさかった。それはアルフォンスも同じだったようで、目が合うと苦笑する。そして何かに気づいたように、ごろんと仰向けになった。

「リオナも、やってみて」

「は、はい」

 アルフォンスの隣に寝転ぶように、リオナも仰向けになった。

「わぁ……」

 目の前に広がったのは、リオナたちが木の上から落ちてきたことによって開かれた、空の景色。藍色の空にキラキラと星が輝いている。満月は、だいぶ傾いていたようだ。

「星がこんなに綺麗だなんて、忘れてたよ」

「そうですねぇ……ときどきは、こうして空を見上げる時間も大切かもしれません」

「……リオナ。こんな景色を見せてくれてありがとう」

 攫われてごめんでも、迷惑をかけたね、でもない。誰か一人が謝れば、きっと三人全員が謝罪を重ねるだろう。しかしアルフォンスが星空を褒めたことで、そんな重苦しい雰囲気は消えた。

「ほら、ネイサンも。一緒に星を見ようよ」

「あ、ああ……」

 ブライスが、少し気まずそうにアルフォンスの隣に寝転んだ。

 三人で見上げた星空。リオナは改めて、仲間を失わずにすんで良かったと思った。



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