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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第四話 絡まり、空回る心

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4.6 事故と事件③


 コンコアドラン森林は、広い。ノキアの街の近くから、ケルルッサ山やホロロ山の麓の辺りまで続いている。

 今は夜のため、出現場所が被るチャータボークスとは遭遇しないことが救いだ。チャータボークスは黒い鷹で、そんな鉱魔を相手にしながらアルフォンスを捜すことは難しかっただろう。

 シャドウルが好みそうな背の高い木を、満月の明かりだけで捜す。その途中、ブライスが提案をしてきた。

「リオナ嬢がいつも使っている、ミネラルアイ? あれは、手振りをつけないといけないものなのか」

「? どういうことですか?」

「役回り上、リオナ嬢には木を登る役をやってもらうかもしれない。しかし、もしシャドウルに気づかれなかったら、ミネラルアイで弱点を殴れないか」

「ブライス様が、木の下で囮をするということですか?」

「そういうことになるかな」

「んー……どうでしょう。いつも鉱物眼を発動するときは手をつけていたので……ちょっと、やってみますね」

「出来る限り小さい声、もしくは声に出さないで詠唱をできないかも試してみてほしい」

「わかりました」

 ブライスに言われた通り、鉱物眼を発動してみる。発動できたかどうかを確認するため、鱗粉を散らして飛んでいたテンプティテンプティを見た。

(鉱物眼!)

 いつもの手をつけず、心で念じるようにしてみた。すると、今まで声に出したり手をつけていたときと同じように、多方晶系(たほうしょうけい)と出る。

 見えたついでに、テンプティテンプティの背面の鉱石を殴った。

「見えました」

「やっぱり。リオナ嬢がその力を発動しているとき、手をつけていなくても見ている気がしたんだ」

「……手をつけなくてもいいのにつけていたなんて、わたしは何て恥ずかしいことをしていたんでしょう……」

「おれの提案を受け入れてくれてありがとう。それで、気配のことなんだが」

 ブライスが続けて何か話してくれそうだったとき、コンコアドラン森林の開けた場所に出た。そこは円形の広場のような所で、数カ所に板材が積まれている。

「ここからだと見やすいな。背の高い木は……」

「ブライス様! その場で止まって下さい!」

 周囲を見回しながら後ろへ下がっていたブライスが、積まれていた板材に近づいていく。焦ってリオナが声をかけてしまったせいで、ブライスがその板材に足を取られて座るような体勢になってしまった。

 むくり、と()()()()()()()()

「鉱物眼!」

 逃げるよりも討伐してしまおうと、リオナは板材――アトゥンツリーを見た。

等軸晶系(とうじくしょうけい)なら、ここ!)

 立方体の塊が並んだようなアトゥンツリーの、月明かりが反射した鉱石を殴る。鉱石があったのは右の端で、ブライスの真横から殴りつけたような状態になってしまった。

 リオナの攻撃を受けたアトゥンツリーがばらばらになる。夜だと真っ黒い岩にしか見えない鉱石、ガレナをドロップした。アトゥンツリーが操作していた周囲の板材も、指示系統を失ってただの板材に戻る。

「ふぅ。良かった。間に合った」

「……リオナ嬢、すまない。迂闊だった」

「いいえ。アトゥンツリーは触れた相手を追いかけて来ますからね。本格的に動き出す前にブライス様を助けられて良かったです」

 なぜか手で顔を隠すようにしているブライスの様子はさておき、森の広場から周囲を探る。

「んー……ノキアの方よりも、二つの山の方が背の高い木があるみたいですね。アトゥンツリーにまた遭遇する前に、そちらへ行きましょう」

 リオナが進み出す。しかしブライスが足を止めたままだ。

「ブライス様? 早く見つけ出さないとアルフォンス様が危険です」

「あ、ああ……」

 声をかけたが、ブライスはまだ心ここにあらずといった様子だ。

「ブライス様?」

「っ、ちょ、ちょっと、待ってもらえるかな」

「は、はい……」

 リオナがブライスの顔を窺うように下から見た。すると月明かりで一瞬、ブライスの顔が赤くなったように見えた。手を前に出して止められてしまったためにそれ以上顔色を確認することはできない。

 ブライスはリオナに背を向け、何度か深呼吸をした。そして落ち着いたのか、ノキアの街とは反対方向へ進み始める。



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