4.5 事故と事件②
「ブライス様!! アルフォンス様を早く追いかけないと!!」
「ちょっと待った!!」
見失わない内にと駆け出しそうになったリオナの手を、ブライスが掴んだ。その後すぐ、少し気まずそうな顔をして手を離す。
「リオナ嬢がギルドへ提出した情報、全てを把握できていないんだ。まず、あの梟が何か教えてくれないか」
「そ、そうですよね……」
リオナは、シャドウルのことを伝える。出没は満月か新月の夜で、コンコアドラン森林にいると被害に遭う。
「なぜアルフォンスは攫われたんだ」
「シャドウルは、子供か、子供と同じ大きさの人間を連れ去る習性があります」
「リオナ嬢が狙われなかったのは?」
「それは、わたしがブライス様と一緒にいたからだと思います。シャドウルは、人の気配に敏感なので」
リオナから話を聞くと、ブライスは自身の髪をぐしゃっと掻く。
「おれがアルから離れたせいで攫われたのか」
「いいえ! それは違います!! 知識を持っていたのに、対応が遅れたわたしが悪いです」
おれが、わたしが。二人がそれぞれ自分に過失があったと主張する。しかし、その流れを切ったのは、ブライスだ。
「……今回のことは、二人とも注意不足だった。ということで、アルを助け出したい。シャドウルはどこに行ったんだ?」
「シャドウルは、人の気配を嫌います。なので見晴らしの良い木の上にいることが多いです」
「討伐方法は?」
「木に登って注意を向けさせる役と、シャドウルが木を離れた瞬間に仕留める役が必要です」
「なるほど。必ず二人いないといけないなら、なかなかやっかいな相手だ」
「わたしが木に登ります。ブライス様は仕留める役をお願いします」
「いや、それは賛成できない。大人みたいな大きさの鉱魔だ。あいつが暴れたらリオナ嬢が危ない」
「そうは言っても……わたしはどうしても近距離攻撃になってしまいますし、ブライス様が仕留めた方がいいのでは」
「それはそうなんだが……」
苛立つように、ブライスが髪を掻き乱す。
(ブライス様……アルフォンス様のことが心配なんだろうな)
リオナだって心配している。しかし、ブライスはアルフォンスとずっと一緒にいた。その気持ちは比べものにならないだろう。
「ブライス様。このままここで悩んでいても、アルフォンス様は解放されません。一刻も早く捜し出さないと」
「ああ、そうだな。って、解放されないというのは、どういうことだ?」
「シャドウルには恐ろしい習性がありまして……攫った人間を一晩観賞した後、朝が来る前に地中へ連れていってしまうんです」
「……地中へ?」
「そうです。シャドウルは地中から現れ、地中に帰って行くんです」
「いや、ちょっと待て……鉱魔の生態はよくわからないが、人の体は地中には入れないぞ?」
「はい。だから、急がないといけないんです。シャドウルは獲物を掴んだまま、凄まじい速さで地面に向かっていくので」
リオナの言葉で、ブライスの顔がさあっと青ざめた。それもそうだろう。一晩の間に見つけ出さなければ、アルフォンスは死んでしまうのだから。
「た、確か、シャドウルは見晴らしの良い木にいるって言ったな。……くそっ。こんな夜じゃ、どの木がそうかなんてわからない」
「落ち着いて下さい。言葉は悪いですが、今日はまだ幸運な方です。新月の夜は、もっと周囲が見えません」
忙しなく周囲を見るブライスを落ち着かせようと、リオナが手を取った。その、瞬間。
パシンっと手を弾かれてしまった。
「あ、いや、すまない。その、女の子の手には慣れてなくて」
「そうですか。それは失礼しました。昔、幼馴染みが同じように攫われてしまったとき、ジェイコブさんが落ち着かせてくれたので同じ事をしてしまいました。苦手な方もいますよね」
ブライスに頭を撫でてもらったこともあったが、自ら触るのとそうでないのとでは意識も違うだろう。
そう頭を切り換えて、リオナたちはアルフォンスを捜しに出た。




