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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第四話 絡まり、空回る心

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4.4 事故と事件①


 テンプティテンプティは、コンコアドラン森林で深夜に出る。だからリオナの昇級が決まるまでは夜型の生活だ。

 リオナは元々、一晩中動いていても支障はなかった。しかしアルフォンスやブライスは違うようで、朝型から夜型に移行できるまでで五日ほど経過。ぽやんとした意識の中でも、アルフォンスとブライスは周囲に気を配ってくれていた。

 鉱物眼を発動しつつ、テンプティテンプティを倒してショールを集めれたのは一日四つ。それが五日で二十個。まだまだ昇級まで時間がかかりそうだ。

「えっ!! アルフォンス様、以前の姿に戻ってしまったんですか!?」

 今日もテンプティテンプティ狩りだと宿を訪れたら、絶望しているように壁に顔を向けているアルフォンスがいた。縮んで――レイジネスシードを使う前の身長に戻ってしまったアルフォンスは、ぴったりの長さだった黒いズボンの裾を何度か折り曲げている。

「どうしましょう? 願いを助けてもらいたい本人じゃないと、レイジネスシードは効力を発揮しません」

「リオナ嬢、今だから聞くけど……身長を伸ばすような体に作用する場合って、どうすればそのまま願いが叶ったままになるんだろうね」

「そうですね……願いの内容は人それぞれですが、こう、願いを叶えた後の生活の仕方……でしょうか」

「例えば?」

「お金が欲しいと願った人は、お金を得られるのでしょう。でもそのお金は、何のために欲しいと願ったのでしょうか。お金持ちになるため? 遊ぶお金のため? それとも他の目的のため? 何度もキャクタスフラワーを倒して、その度にレイジネスシードを得られれば良いですけど……」

「もの凄く効率が悪いな?」

「そうなんです。そりゃ、すぐに倒して毎回ドロップ品として出てくれば良いですけど、使えばレイジネスシードはなくなります。どれくらいのお金がほしいのかはわからないですが、お金を得てもお金を使う時間が取れなくなります。だから、気づくと思うんです。願いを助けるレイジネスシードを何度も取るよりも、他の鉱魔のドロップ品を狙う方が良いって」

「確かに。金を欲しがる人物がどの階級かわからないが、リオナ嬢のようにテンプティテンプティを倒した方が早く資金を貯められるし、何より冒険者ならドロップ品を換金して昇級を目指せる」

「そういうことです。なので、身長を伸ばしたいと願ったアルフォンス様がすべき行動は……成長に合った体を作る、ことですかね」

「なるほど。筋肉をつけて、きちんと食べて、体の成長に筋肉とか骨とかが追いついたら、願った姿のままいられるのか。その可能性はある」

 聞いていたか、アル。そんなブライスの呼びかけに、アルフォンスは未だに青い顔をしながらもリオナを見た。

「了解……でもまずは、またレイジネスシードをドロップしてもらわないとね……」

「わたしも手伝います」

「いや、リオナは自分の昇級のために動いて。ぼくのせいでリオナの昇級が遅れちゃうのは嫌だ」

「でも……」

「リオナ嬢。確か前に、ギルドに護衛を頼めたと言っていたよな? 今回もそれでお願いできないか」

「えっと……今回は、アルフォンス様の願いもわかっていますが」

「そこは、察してくれないか。アルも男だ。リオナ嬢の前で願い事を叫びたくないと」

「そ、そういうものですか?」

「そういうものだと思ってほしい」

「わ、わかりました。では、そのようにしますね。また三人で活動したいので、毎日伺う……のは、止めた方がいいでしょうか」

「んー、それは……どうする、アル?」

「レイジネスシードを獲得できたら、ぼくらがギルドまで行くよ」

「わかりました。お待ちしてますね」

 こうして再び別行動を始めた。

 それから五日間、リオナはギルドで護衛を雇ってテンプティテンプティを狩りまくった。

 そして六日目。

 夜よりも昼間の方が姿を確認しやすいからと朝型の生活に戻していたアルフォンスらが、ギルドへやってきた。今夜のリオナの狩りに付き合ってから、種をまた飲み込むという。

 アルフォンスが大きな欠伸をする。今にも寝てしまいそうなアルフォンスをブライスが支えていた。

「今日はありがとうございます。アルフォンス様は明日から体の痛みに耐えるんですよね。わたしは何も助けられませんが、せめて今日の分を早めに終わらせます」

 別行動をしてから追加で二十個ドロップ品を得ている。まだ昇級まで時間はかかるが、以前の別行動時の数と合わせてようやく五十個を超えた。

「…………………………ゴロスケホッホ…………………………」

 リオナがテンプティテンプティ狩りを始めると、どこからか声が聞こえたような気がした。しかしその声はかなり小さく、空耳だったと思えばその通りかもしれないと思えるほど。

 リオナは首を傾げつつ、またテンプティテンプティ狩りを続ける。

「……………………ゴロスケホッホ……………………」

「また聞こえた?」

 今度は、先程よりも少し大きく聞こえたような気がする。夜の闇に映えるような鱗粉を散らすテンプティテンプティを討伐しつつ、きょろきょろと周囲を窺う。

「………………ゴロスケホッホ………………」

「やっぱり聞こえる。さっきよりも、近いんだけど……」

 戦いの手を止めているリオナに、ブライスが近づいてきた。

「リオナ嬢? さっきからどうした?」

「すみません。集中してやらないといけないとわかっているんですけど……何か、聞こえませんか?」

「何か?」

 ブライスが首を傾げる。

 聞き間違いだとは思えない。確実に、何かが近づいてきている。

「…………ゴロスケホッホ…………」

「ごろすけほっほ……ハッ、まさか!!」

 ようやく何を言っているのか把握したリオナは、木々の切れ間から夜空を確認する。

 満月だ。リオナが冒険者になろうと決意した日から、一ヶ月経っている。

「……ゴロスケホッホ……」

「ブライス様! アルフォンス様はどこですか!?」

「え? アルなら、そこの木の根元で寝かせて……」

 ブライスの言葉を聞くや否や、リオナはアルフォンスの元へ駆ける。その様子に驚いたブライスも、リオナを追う。

 ブライスと話している間も、近づいてきていた。

「アルフォンス様!!」

 アルフォンスもこちらへ来てくれれば間に合う。そう願って叫ぶ。しかし間に合わない。アルフォンスは、大人の大きさの黒い影の奧にいる。

 グリンッと、黒い影が首を真後ろへ向けた。平時であれば、くりくりの目が可愛いと思えたかもしれない。

 今は、そのときではない。

「アルフォンス様!!」

「アル!!」

 駆けつけるも一歩遅く、アルフォンスは黒い影――大人の大きさの梟、シャドウルに連れ去られてしまった。



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