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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第四話 絡まり、空回る心

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4.3 当面の目標②

 少し長めの文章量です。


 座って話そうか、とリオナ用の椅子を引いて待ってくれているアルフォンス。椅子を引いてくれたことに対して頭を下げて、座った。そしてアルフォンスは、リオナのすぐ隣に座る。

「別に改まることでもないんだけどね。ぼく、実はルルケ国の王子なんだ」

「おう……? え、お、王子!? 王子様ですか!?」

「そう。緑系の瞳と髪色は王族の証。受付のお姉さんとか知っている人は知っているけどね」

 おどけて肩をすくめるアルフォンスを見て、リオナは血の気が引く。

(わ、わたし、王族の人に椅子を引いてもらったの!? そ、それに、今までも色々としてしまっているような……)

 自分の行動を反省するよりも先に、リオナは椅子から立ち上がり床に座って額をつける。

「い、今まですみませんでした!」

「ねえ、リオナ。リオナはさ、ぼくが王子だってわかったら一緒にいるのは嫌かな」

「い、イヤというか……」

 返答に困っていると、アルフォンスが椅子から離れ、リオナの前に腰を下ろした。そしてリオナの肩に触れる。

「リオナ。顔を上げて」

 指示の通りにする。目が合ったアルフォンスは、何かを我慢しているかのような悲しげな顔をしていた。そんな顔を見たら、きゅっと心臓が縮まったような感覚になる。

「あのっ……」

 何を言えばいいのかわからない。しかし何かを言わないといけない。そんな心境になったものの、続ける言葉が出てこない。

 膝をついているリオナと、そんなリオナの前に腰を下ろしているアルフォンス。二人の間に、初めて緊張感が生まれる。

 そんな空気を壊してくれたのは、ギルドから戻ってきたブライスだ。

「戻った……って、アル。伝えたのか」

「お帰り、ネイサン。バトムシトムのランク、わかった?」

 明るい声音だ。声質は、アルフォンスの背が伸びても変わらない。高低の中間ぐらいの声だ。それなのに、リオナにはアルフォンスが明るく振る舞っているように聞こえてしまった。

 だから、リオナの前からブライスの元へ移動しようとしたアルフォンスの袖口を掴んだ。

「どうしたの、リオナ」

「あのっ……」

 アルフォンスが、振り返らない。リオナが話したいということはわかっているだろうに、リオナの方に顔を向けてくれないのは初めてだ。

(どうしよう……アルフォンス様は、きっと、勇気を出して自分の身分を明かしてくれたと思うのに……わたしが、アルフォンス様の勇気を踏みにじってしまった)

 アルフォンスの袖口を掴んだまま、動けない。しかしその状態ですら、本来は不敬に当たるだろう。

(わかっているけど……でも、今離したら、もうアルフォンス様と話せなくなるような気がする)

 リオナに顔を向けないアルフォンス。アルフォンスの袖口を掴んだまま動けないリオナ。そんな二人を見ていたブライスが、アルフォンスの頭をぐしゃっと乱暴に撫でた。

「アル。こうなることはわかっていただろ? お前の覚悟はそんなものだったのか」

「そっ、れは……」

 ブライスが部屋の中を歩いて椅子に座る。そんな何気ない行動でも、リオナとアルフォンスの間にあった張り詰めた空気が動く。

(間違えたわたしが、言わないと!)

 リオナが立ち上がり、アルフォンスの正面へ回る。

「アルフォンス様! わたしは、アルフォンス様たちと一緒のパーティーで活動したいです!!」

「リオナ……本当に、良いの?」

「はい! アルフォンス様が例え何者でも、わたしにとっては、生ごみをかき分けてわたしの鞄を捜してくれる、優しい人です!」

 これはただの喧嘩。仲直りしましょうと、リオナはアルフォンスに手を差し出す。

「リオナ……ありがとう」

「っ」

 差し出された手は、アルフォンスの両手に包まれた。まるで大切なものを扱うように、アルフォンスの胸元で抱きしめられる。

 そのとき、アルフォンスが一歩分の距離を縮めた。

 アルフォンスの手が熱いのか。それともアルフォンスの手越しに彼の心音が聞こえているのだろうか。アルフォンスの両手に包まれた右手が、ドクドクと脈打っているように感じた。

(い、今はどれだけ恥ずかしくても、わたしから手を離しちゃいけないっ……!)

 一度間違えた。だから次は間違えない。そう思ってリオナはアルフォンスが動いてくれるのを待つ。

 その間も、リオナは視線が定まらない。アルフォンスから目をそらしてはいけないような気がするし、かといって見続けるのは違うとも思う。

(っ!!)

 ちら、とアルフォンスを見た瞬間、目が合った。そして破顔される。思わず手を引っこめそうになってしまったが、リオナは耐えた。しかし自由な左手は、弾みまくる心臓を抑えるかのように胸の上に置かれている。

 そんなリオナとアルフォンスの様子を見ていたブライスが、声をかけてくれた。

「よし、解決したな。それなら今後のパーティーの活動計画を立てよう」

 ブライスの声がけにより、リオナはアルフォンスの両手から解放された。それが嬉しいと思う反面、悲しいとも思う。そんな自分の気持ちに首を傾げつつ、アルフォンスの正面に座るようにリオナも椅子に座った。

 アルフォンスは、自分の両手を見つめている。

「リオナ嬢が提案してくれた、バトムシトム。残念ながらBランクだった」

 言いながら、ブライスはギルドでもらったらしい紐で綴じられた冊子を見る。

「B……それなら、わたしはダメですね。そしたらやっぱり、デューオルチョインでしょうか」

「いや、残念ながら、デューオルチョインもBランクだ」

「え、あれってBだったんですか」

「あれだけ瞬殺していたリオナ嬢からすると意外かもしれないけどね。リオナ嬢が提供した情報で、今後は下がるかもしれない。でも今は駄目だ。冒険者になった以上は、ギルドの規定に従わないといけないから」

「それなら、何を討伐しましょう? 他の鉱魔は、一回の討伐で一種類しかドロップ品が出ないですよね」

「リオナ嬢は今E級だから、挑戦できるのはDまでか……ギルドに行って昇級すれば、Cランクまで挑戦できるが」

「ちなみに、Cランクまで含めるとどれくらいの数がいますか」

「そうだな……」

 冊子のページを捲るブライスが、候補の鉱魔を数える。

「Cランクが五種類、それにDランクが六種類。特殊な鉱魔を除くと十一種類だな」

「なるほど。デューオルチョインがBランクですもんね。ウォープランカーあたりがCランクでしょうか」

「そうだな。ただ、ウォープランカーはコープスとウォーチャーと一緒に出てくることが多い。そうなると討伐ランクはAに跳ね上がる。だから、初めから挑戦できないものとして考えた」

「Cランクの鉱魔は、特殊なものが多いということですね。わかりました。それではやはり、昇級よりもドロップ品をさくっと集めることを優先しましょう。それだとどの鉱魔になりますか」

「キャクタスフラワー、ソードラビット、テンプティテンプティ、ライトキャトル、バンテージマン、アトゥンツリー……周囲に強いランクの敵がいなくて、討伐できそうなのはこれくらいか」

「キャクタスフラワーはEランクでしたよね。でも砂漠にはBランクのキングスコーピオンがいる。それならコンコアドラン森林の方でしょうか」

「バンテージマンは、ちょっと場所が離れているしね。リオナなら、テンプティテンプティ一択じゃない? リオナは鉱石を光石にできるでしょ? ドロップ品と、ついでに稼げたら一石二鳥だよ」

 自身の両手を見たままだったアルフォンスが、話に入ってきてくれた。それが嬉しくて、リオナはつい顔がほころぶ。

「アトゥンツリーも捨てがたいですよ? 板材も落としますけど、もう一つ。ガレナも面白いと思います」

「割ると角度が必ず直角になるんだっけ?」

「そうです。今はもう必要ないですけど、ジェイコブさんに鉱石のことを教えてもらうときはよく使っていました」

 ジェイコブの名を出すと、アルフォンスがまるで慈しむかのような表情になる。なぜか妙に恥ずかしくて、リオナは自分で話題を提供したくせに、昇級するためのドロップ品集めはテンプティテンプティのショールに決めた。



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