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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第四話 絡まり、空回る心

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4.1 お買い物


 昨晩、リオナはアルフォンスがレイジネスシードを手に入れたと聞いていた。だから翌朝、アルフォンスとネイサンが泊まる宿の部屋まで行ったのだが。

(……レイジネスシードって、こういうお願いも助けてくれるんだ……)

 アルフォンスの身長が、変わっていた。以前はリオナと同じくらいの身長だったが、今は頭半個分くらい違う。その身長差は階段を一段上ると目線が合うぐらいの差だ。

 たったそれだけ。それなのに、アルフォンスはアルフォンスなのに、良く似た兄弟ではないかと思ってしまう。

「ね、リオナ。どうかな」

「びっくりしました。レイジネスシードってすごいですね」

「それもそうだけど、ぼくも頑張ったんだ。急激に成長するから、全身が痛くて」

「えっ、今もですか!?」

「いや、今は落ち着いたよ。身長が伸びたから、服の大きさが微妙なんだよね。服を買いたいんだけど、良いかな」

「もちろん!」

 二人で話していると、ネイサンが声をかけてきた。

「よし。次の行き先は決まったみたいだな。ノキアの、服屋へ行こう。リオナ嬢も、ついでに服を買ったら良い。嵩張る荷物は、アルの容量箱に入れてもらえばいいから」

「そうだね。リオナが容量箱を手に入れられるまで、ぼくが荷物担当になる」

「あ、ありがとうございます。大分長い間ご迷惑をかけてしまうと思いますが、よろしくお願いします」

 宿の従業員にネイサンが服屋の場所を聞く。そして店へ向かった。

 店があるのは、噴水広場から北に進んだ場所だ。そこは手頃な値段で買える店や、少し気合を入れないと買えない店まで、様々な種類の店が並んでいる。その中の、最も手前の店に入った。

「うわぁ。たくさん並んでいるんですねぇ」

 店内できょろきょろと忙しなく顔を動かしてしまう。そんなリオナに店員が声をかけようとして、くるりと背を向けた。

 幸いにも、リオナは顔をしかめた店員に気づかなかった。店員の態度をいち早く察したアルフォンスが、店員との間に立つようにしてリオナに聞く。

「リオナは、今まで服はどうしてたの」

「五年前に亡くなった方から頂いた服を着ていました」

「そっか。今もローブの下に着ているものだよね」

「そうです」

 薄いピンクのローブは、ブライスに買ってもらったものだ。だから新品だが、その下の服はボロボロだ。元は白かったのに、黒い服になってしまっている。

「服がたくさんありすぎて、目移りしちゃいますねぇ」

「ねえ、リオナ。ちょっと良いかな」

「はい?」

 アルフォンスに手招きされ、一度店を出る。そして路地裏の方へ行った。

「五年前に亡くなった人って」

「ジェイコブさんですか?」

「そう。ジェイコブさんに、リオナの鞄ももらったんでしょ? その鞄も後でするけど、先にリオナの服に魔法をかけてもいい?」

「何だかわくわくする言葉ですね。構わないですけど、何をするんですか?」

 質問をすると、アルフォンスがリオナの服の袖口を掴んだ。

「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる。世界に満ちるマインラールよ、リオナの服を元に戻せ」

 アルフォンスの詠唱が終わると、掴まれていた袖口から肩へ、反対の腕へ、裾へ、傷も汚れも何もなかったかのようにもらった当時の服に戻っていた。

「す、すごい……白魔術って、こんなこともできるんですね!!」

「白魔術は、傷なんかの回復はもちろん、物の状態を戻すってこともできるんだ。さすがに、亡くなった命を元に戻すことはできないけどね」

「アルフォンス様。ありがとうございます!」

「リオナの、鞄も貸して」

 アルフォンスに鞄を渡す。詠唱が終わり、あっという間に新品のような状態になった。

「良かったな、リオナ嬢」

「はい! 本当に、アルフォンス様には感謝してもしきれません」

「そうだ、リオナ嬢。これからアルの服も見に行くが、その時にアルの服を見立ててやってくれないか。できれば頭が隠れるようなやつを」

「わかりました! きちんと選べるかわかりませんが、やってみます!」

「ありがとう、リオナ。もしかして、誰かに服を選ぶのって初めて?」

「誰かに、どころか、自分の服だって選んだことはないです」

「そっか。初めて服を見立ててもらえる誉れ高き男に選ばれて嬉しいよ」

「そ、そんな大それたものでは……」

 微笑みながら言われ、恥ずかしくなったリオナは、早く行きましょうと路地裏を出る。そして最初と同じ店に入った。リオナを見た瞬間、驚いた店員が一目散に寄ってきたが、リオナはアルフォンスの服選びに夢中になっていて気づかない。

 アルフォンスが、店員に勝ち誇ったような顔を見せたことにも気づかなかった。

「これなんてどうでしょうか」

 リオナが提案したのは、黒のズボンと緑のローブだ。

「アルフォンス様は普段、大きめの白いローブを着ています。ですが、その……髪色が目立ってしまうかと。なので、髪色なのかローブの色なのかぱっと見たときにわからないような似た色味ならどうかと思ったんですが……」

 こそこそと話すようにアルフォンスに伝えつつ、ブライスはどう思うか目線を向ける。頷いてくれ、安心した。アルフォンスに目線を戻せば、納得するように何度も頷いている。

「確かに、黒いズボンなら上も合わせやすい。ありがとう、リオナ。最高の提案だよ」

「良かった。あの、それでこの服なんですが、アルフォンス様にお返ししなくてはいけないお金もあるので、わたしがお金を出してはダメでしょうか」

「そんな、リオナに出してもらうなんて悪いよ」

「アル。リオナ嬢の提案に乗っとけ。どうせ今は資金がゼロなんだから」

「うっ。それを指摘されると痛い。まあ、でも確かに、リオナが初めて誰かに選んだ服をプレゼントしてくれるんだもんね。うん、リオナ。会計をお願いしてもいいかな」

「はい! ではお会計してきます!」

 リオナはアルフォンスに服を直してもらったため、自分の分はいいかと考えた。だからさっさと会計を済ませてしまったのだが。

 リオナの服を選ぶ機会を逃した。そうアルフォンスが気づいたのは、店を出てからだった。




 四話が始まりました。

 が、夏の暑さで思うように進められず、話のストック分がなくなってきました^^;

 そのため、変則的な投稿の仕方をしていきます。またお付き合いいただけると幸いです。

 気が向いたらブックマーク登録をしていただけると、作者が喜びで小刻みに震えます。

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