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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第三話 冒険者リオナ

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3.8 見守る覚悟と……

 少し長めの文章量です


・-・-・-・-・


 リオナと別行動を始めた翌日。ネイサンはアルフォンスと一緒にコンコアドラン森林砂漠の砂漠へ来ていた。

「アルは白魔術師だから、無理はするなよ」

「わかってるって。でも、途中まではよろしく」

 リオナの情報提供により、キャクタスフラワーの攻略情報も明らかになった。

 ドロップ品の一つとして、願いを助けるレイジネスシードがある。これまでどんな条件下で落ちるか不明だった。キャクタスフラワーは、時々花を咲かせる。その開花状態の時に倒すと、攻撃した瞬間に叫んだことを手助けする種としてドロップするらしい。

 アルフォンスの願いは。

「リオナと並んだ時に丁度良い身長になりますように!!」

 ドロップ品は確率で落ちる。そして時間経過でもその確率は変わってしまう。回復専門のアルフォンスが倒すには、ネイサンが事前にダメージを与えてないといけない。

 それに加え、一度咲いたからと言ってずっと咲いている訳ではないというのがややこしかった。討伐しても、その直前に花を閉じてしまうこともある。


 普段はそれほど動く必要がないアルフォンスは、宿につくなりすぐに寝た。

「あの、今日はどうでしたか」

「初日は、収穫なしだった」

「そうですか……アルフォンス様は回復職だから、時間がかかっちゃいますよね」

「リオナ嬢!」

 アルフォンスの状態を聞いてすぐに去ってしまうリオナを、ネイサンはうっかり呼び止めてしまった。アルフォンスから時間を与えられている。早く答えを出さないといけない。

「……その、リオナ嬢は今日一日どうだった?」

「はい! ノキアの街から行ける範囲で、稼げる場所――コンコアドラン森林砂漠の森林へ行っていました。あ、もちろんアルフォンス様の願い事は聞いていないですよ? わたしは深夜に動いていたので」

「深夜!? リオナ嬢、それは危険だ」

「シャドウルが危ないですけど、それは新月か満月の深夜にしか出ないので問題ないです」

「いや、それも懸念材料だけど、そうじゃなくて、リオナ嬢は女の子なんだから。深夜に出歩くなんて、何かあったらどうするんだ」

「そうですよねぇ……でも、深夜だと人もいないので討伐が捗りますよ。今は冒険者になれたから、ショールも正規の量でドロップしますし」

「いや、そういうことじゃなくて……人がいないなら余計に、森に潜む夜盗とか生息している鉱魔とか、襲われても助けを呼べないじゃないか」

「なるほど! 確かに、それは盲点でした。基本的に鉱魔は鉱物眼で弱点が見えるので問題ないですが、人だと怖いですね……。冒険者カードって、仮に盗まれても本人以外は使えませんよね?」

「そういう心配でもなくて……」

「ではどういう……あ、もしかして、わたしが女だから、ということですか? それこそ、問題ないですよ。アルフォンス様に治してもらいましたけど、貧相すぎる体ですもん。魅力なんてないですよ」

「いや、そこは自慢するところじゃない。リオナ嬢は可愛いから、十分魅力的に見えると思う」

「へぇー。世の中にはそういう好みの人もいるんですねぇ」

 明日は一応人の気配にも気をつけますね、とリオナは去って行った。


 翌日も、そのまた翌日も、リオナはアルフォンスの様子を聞きに来た。その時にまた深夜にテンプティテンプティを討伐しに行っていると聞いたから、四日目からはネイサンが心配して一緒について行くことに。

 ブライス様は心配性ですねぇ。そんな風に笑うリオナと一晩一緒にいた。そして、早朝にドロップ品を換金する時に驚愕する。

 ショールといえば、買い取り価格は一万ガルドだった。しかしリオナは鉱石から光石へと研磨する力を持つ。通常は買い取り後に研磨師に渡され、光石となる。その工程が無くなるだけで、買い取り価値は二倍に跳ね上がるというのだ。

 リオナは、一日に一つ以上はショールを獲得するという。光石にするから、価値は一つ二万ガルド。であれば、アルフォンスの願いが叶うまでに日数がかかれば、ネイサンがリオナに出した金額分なんてすぐに稼げてしまうだろう。

 

 その予測は、当たった。翌日も深夜に行くと言うのでついて行こうとしたら、ギルド経由で女性の用心棒を雇ったと言われてしまった。



 始まりは、傲慢な考え方だった。顔が良い自覚はあるから、ネイサンが顔を近づければ楽だと。しかしネイサンの思惑通りにはいかず、それどころかつらい状況のはずなのに明るく振る舞うリオナから目が離せなくなった。

 そして次は、些細な気持ち。そう。それは例えるなら、子供の成長を喜ぶ親のような気持ちだ。子供なんていたことはないし、厳密に言えば全く違う関係性だが、そんな状態に近い。自分の手を離れることが、寂しいと感じるような。

「ネイサン、協力ありがとう。コツが掴めてきたから、もうちょっとだと思うんだ」

「あ、ああ……それなら良かった」

 十八歳でネイサンよりも二つ年下のアルフォンスも、ネイサンが討伐寸前まで手伝っているとはいえ、自分の目的のために動いている。自ら考え、行動し、四六時中世話をしなくても良くなっていく。

(おれは……)

 ネイサンのことを、アルフォンスは世話焼きという。そうかもしれないが、そうじゃない。何でも器用にこなせるが、そうすることで頼りにされるだろうという気持ちがある。

 そんな気持ちがあるから、リオナに頼られると嬉しいと思う。頼られなくなってしまうと、寂しいと思ってしまう。


 八日目。

 アルフォンスが、レイジネスシードを手に入れた。願いを助けるその種は、叶えたい願いに近い場所にあるほど効力を発揮する。

 アルフォンスの願いを、叶えるためには。

「本気か!? 体にどんな影響があるかもわからないのに……」

「まあね。でも、本当にぼくの願いが叶うなら、どんな苦しみだって耐え抜くよ」

 そう言ったアルフォンスは、レイジネスシードを飲み込んでしまった。

 それから丸一日。アルフォンスは急激な体の成長に伴う痛みに、時折悲鳴を上げるほど苦しんでいた。それでも、リオナとの関係性を目標に苦しみを耐え抜き、願いを叶えてしまった。

 苦しむアルフォンスのことをリオナが訪問した時に悟られないよう、遮音魔法をするぐらいしかできない。そんな自分が歯がゆいのと同時に、頼りにされなくなったらどうしようと思ってしまった。

(……アルが頑張っているのに、おれは、自分のことばかりだ……)


 リオナと別行動をして十日目。アルフォンスも回復し、宿を出られることになった。そして、リオナもその間に稼ぎ、出会ってからネイサンが立て替えていた分の金額全てを返済。さらに余分に蓄えることができ、もうネイサンが支払うことはなくなる。

 それがわかったとき、ネイサンは唐突に自分の気持ちに気づいた。

 リオナに返済を急がなくてもいいと言っていたのはなぜかと。

 アルフォンスとリオナの物理的距離が近い時、邪魔するような行動をしていたのはなぜかと。

 不遇な環境にあったが、基本的にリオナは技術がある。知識もあるし、社交性も高い。資金を提供するぐらいしか、ネイサンはリオナの手助けをできなかったのだ。

(おれの、幸せは……)

 姿が変わったアルフォンスから、リオナが目を離さない。その様子に少し胸を痛めつつ、ネイサンは次に行く場所の話題に乗った。


・-・-・-・-・

 第三話終了です。お休みをいただきまして、八月から再開したいと思います。ブックマーク登録をして待っていただけると幸いです。それではまた、再開後にお会いしましょう!

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