3.7 譲れない想い
少し長めの文章量です。
予約更新日時、間違えましたm(_ _)m。
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部屋を出ていったリオナを見送ったアルフォンスは、乳兄弟のネイサンを見る。
「何だ?」
「ぼくは、ネイサンには感謝している。産まれた頃からずっと友人でいてくれるし、十年前のあの日以降も変わらず傍にいてくれているから」
「何だよ、前置きなんて珍しいな」
「……正直、この話をすることでネイサンとの関係にヒビが入るかもしれない。でも、ネイサンとまだ一緒にいたいと思うから、黙ったままではいられない」
一呼吸置き、ネイサンの目を真っ直ぐに見つめて言う。
「ネイサンは、いつからリオナのことが好きなの?」
「はっ!? い、いや、何を言うんだ急に」
「まあ、確信したのはさっきなんだけど……ネイサンさ、リオナに研磨師の条件を思い出させたでしょ? ぼくは恥ずかしながら何も知らなかったけどさ、貼り紙をわざわざ見ていて、男の親族の可能性を伝えたでしょ。ここにいる二人はって、ぼくのことを引き合いに出して」
「そ、れは、別に……リオナ嬢は苦労していたみたいだし、ああやって言えばアルもそういう対象として可能性が広がるんじゃないかって」
「はい、アウト。ぼくももってことは、ネイサンもでしょ?」
「それは、言葉の綾で」
いつまでも認めようとしないネイサンに、アルフォンスは苛立つ。
「一番むかつくのはさ、ネイサンが自分の幸せを考えてくれないことだよ。父上や母上がまだご存命だった頃から、ぼくの友人として宛がわれてさ。いつでもぼくのことを最優先にしてくれる」
「それは、そうだろう。アルは王子なんだから」
「それも。ネイサンは十年前のあの日のことがあるから、ぼくの身分がばれないようにしてくれている。受付嬢のお姉さんに話したのもそれでしょ? でもさ、ぼくはリオナには話してもいいと思ってるんだ」
「だが……もし、リオナ嬢にアルの身分がばれたら、距離を置かれないか。ずっと一途に思ってきたのに」
「それだよ、それ。仮にぼくの身分のせいでリオナに距離を置かれたらさ、その先はぼく自身の問題なわけ。どんな身分でも一緒にいたいって思ってもらえるように、努力するだけ」
どうだ、ぼくの決意がわかったかと、アルフォンスは腕を組んで胸を張る。
そんなアルフォンスを見て、ネイサンは観念したように頭を抱えた。
「…………正直、アルと同じ気持ちかどうかはわからない。ただ、リオナ嬢のことは好ましいと思う」
「ネイサンは世話焼きだからなー。苦労している子はほっとけないよね」
「世話焼き? 別にそんなつもりはないが」
ネイサンが顔を上げ、アルフォンスはからかうような笑みを浮かべる。
「リオナを助けるときにさ、補助魔法使ってもらったじゃん? その後三日静養って言ったって、一日寝れば多少は魔力が回復するじゃん? それなのに魔力切れになったら大変だからって、今後の体のことを考えると自然回復の方が良いって、リオナが研修でいない間ずっと世話してくれたじゃん。今までだってさ、ぼくが白魔術師を選択するって伝えていたから、戦闘とかその他色々なことができる赤魔術師を選んだでしょ。世話焼きだよ。ネイサン母さんだよ」
「いや、それはさすがに止めろ。世話焼きなのは自覚なかったが、母さんは嫌だ」
「ははっ。気になるの、そこなんだ」
アルフォンスが笑うと、ネイサンも笑う。
笑い合った後、アルフォンスは落ちこむように目を伏せる。
「……正直さ、ぼくとネイサンじゃ、勝ち目はないと思ってる。見た目も、男としての包容力も、ネイサンには適わない。リオナを想う気持ちは、絶対に負けないけどね」
「そんなことないだろう。リオナ嬢は、おれといるよりもアルといる方が自然体でいる気がする」
ネイサンの言葉を聞き、アルフォンスは机の上にぐでっと体を倒す。
「たぶんね、異性として意識されていないからだよ。背の高さもリオナとそんなに変わらないし、結納金の流れでぼくの意思を伝えてみたけど断られたし」
「そ、それは……まあ、結納金という言葉すら知らなかったから仕方ないんじゃないか」
「慰めはいらない。ぼくは後悔しているんだ。リオナをカールト隧道で見かけた後、思い出にすがって本物のリオナを偽物だって決めつけてたし……。あの時、もしぼくが助けたって言えていたら、今頃はネイサンの立ち位置にいたかもしれないのに」
「おれの、立ち位置?」
「あれ、ネイサンともあろう男が気づいていない? リオナさ、何かとネイサンを頼っているよね」
「それは、たまたまだろう。アルは結納金だけしか容量箱に入らなくて、それ以外の資金はおれが用意しているから」
「それもあるけど、何か困ったときにネイサンを見るんだ。ぼくが暴走した時なんて特にね」
「そうだった、か……?」
「そうなの! それでさ、やっぱりぼくとしては、リオナに異性として意識してほしいわけ」
「まあ、それはそうだろうな」
「それで、リオナの好みはわからないけど……リオナってさ、ネイサンみたいな男が好みなんじゃないかって思うんだ」
「それは、違うだろう。何を根拠にそんなことを言うんだ」
「リオナがさ、受付嬢のお姉さんとネイサンをお似合いだって言ったんだ」
「それは」
「反論しなくてもわかってるから。確かに、あの受付嬢のお姉さんは美人だと思う。リオナとは違う方向のね。でも、そこでネイサンだよ。あのお姉さんと並んでお似合い、ということは、ネイサンを美男だと思っているんじゃないかって」
「それは……飛躍しすぎだろう」
「そうかもしれないけど……ぼくは美男とは言えないからね。どちらかといえば、愛玩系? それはそれでどこかに需要はあるかもしれないけど、別にほしくないし。ぼくは、リオナがいい」
「それは、本人に伝えろ。ここで言うな、聞かされたこっちが恥ずかしい」
「そうそう。ぼくの気持ちだけど、明確な言葉はまだ伝えないつもりだよ。態度は、まあ……大目に見てもらいたいけど」
「は!? なんで」
「ぼくは、ネイサンと対等でありたい。先に気持ちを伝えれば、リオナはぼくを意識してくれるかもしれない。でも、それはネイサンの気持ちを蔑ろにすることになる」
「そ、れは……別に、おれに構わなくても」
「構うよ。リオナは大好きだけど、ネイサンの事だって大好きだから。あ、言っておくけど友人としてだから! ネイサンが照れるとぼくまで恥ずかしくなるじゃん!」
バシッと、照れ隠しでネイサンの背中を叩く。
「言ったでしょ? ネイサンの幸せを考えているって」
「それにしたって……おれの、自分自身ですらまだよくわかっていない気持ちを待つなんて」
「ぼくは十年前、リオナの笑顔に心を鷲掴みにされた。気持ちを自覚するなんて、想像するよりも突然だよ」
恋する気持ちに戸惑ったら、いつでも相談に乗るよ。おどけるように言って、アルフォンスはキャクタスフラワーからのドロップ品、レイジネスシードを取りたい理由も伝えた。
「……本気か?」
「ネイサンは知っているでしょ? ぼくだって昔は、その当時の年の割には大きかったって」
「それにしたって……」
「ネイサンにはまたお世話になるけど、よろしく!」
それから。
リオナと別行動を初めて八日目。アルフォンスは念願の、レイジネスシードを手に入れた。そして願いを叶えるために二日耐え、ようやくリオナと合流することになる。
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