3.5 介抱
正午過ぎ。
リオナは冒険者ギルドでアルフォンスが運ばれた場所を聞いた。ララはブライスと昼食に行っているようで、受付嬢たちが後で話を聞かなくちゃ! と賑わっている。
(ブライス様とララさん……美男美女なのでは!?)
身長差が丁度良い。魔術師同士できっと話も合う。何より、ブライスは恋人を欲しがっていた。
(アルフォンス様が捜していたわたしは見つかったし、ブライス様も伴侶を見つけたのかな)
これまで、周囲に同性がいなかった。だから誰かと恋愛の話なんてしたことがない。明日も研修があるし、ララから話を聞いてみようかなとうきうきしながら、アルフォンスの元へ行く。
アルフォンスは冒険者のため、ギルド内にある寝台へ運び込まれたそうだ。
「えぇと、受付がある所から入った廊下の三個先の扉……」
扉の数を数え、奥まった場所にあった部屋に行く。閉められていた扉を叩くと、中からアルフォンスの声がした。
「失礼します」
「リオナ! どうしたの?」
「アルフォンス様のお見舞いに来ました。体の調子はどうですか」
「ありがとう! リオナに心配されるなんて嬉しいよ! 体を無理に動かしたから、診断した医者によると全治三日だって。魔法で急激に治すよりも、静養して回復した方が体への負担も少なくなるみたい」
「三日……それは大変ですね。その間の食事はどうしますか」
「そうだねえ……体を休めることが一番の休養だから、ネイサンにお願いするかな。そういえば、ネイサンは?」
「ブライス様は、ララさんと昼食に行ったみたいです」
「えっ、あの二人ってそういうこと?」
「どうでしょう。お似合いだと思いますが」
そんな話をしていると、開けていたはずの扉を叩く音。振り返れば、眉間に皺を寄せたネイサンが壁に寄りかかるようにして立っていた。
「ブライス様! あれ? ララさんと昼食に行ったはずでは?」
「行ったけど。ちょっと話したいことがあっただけだから」
「ぼくはもうリオナを見つけたから、ネイサンも将来を考えても良いんだぞ?」
「……将来の相手は、おれが欲しいと思った時に見つけるさ」
ブライスが寝台へ近づいてきた。そして枕を背中に当てて起きていたアルフォンスの額を触る。
「少し熱っぽいか。まだおれの魔力も回復してないから、治癒の魔法をかけられない。明日のリオナ嬢の研修は留守番だな」
「ネイサンも行くのか?」
「アルは休養すれば回復するだろ? 今日みたいに不測の事態になったら人手がいる方がいいし、リオナ嬢について行くつもりだが」
「え、ネイサンだけずるい」
「ずるいって言ったって、仕方ないだろう」
「あの、ブライス様。本来研修は、研修生と監督者だけです。今日みたいなことはすごく珍しいと思います。アルフォンス様も動けませんし、アルフォンス様自身もブライス様に一緒にいてほしいと望んでいます」
「リ、リオナ……その言い方だと、何かちょっと違う気がする……」
「え、そうでしたか?」
「いや、うん……まあ、間違ってはいないんだけど」
アルフォンスはまだ何か言いたそうだ。しかし続く言葉はなく、今日の昼食について聞く。
「アルフォンス様。今日の昼食から、ブライス様に介抱してもらいますか」
「そうやって聞いてくれるってことは、リオナがしてくれるってこと!?」
「えぇと、はい……アルフォンス様に助けていただいたので、そのお礼も兼ねてと思いまして」
「是非に!! リオナにお願いしたい!」
「わかりました。では、昼食をお持ちしますね。食べやすいようにスープが良いでしょうか。体力を取り戻すためにお肉が良いでしょうか」
「両方!」
寝台から飛び出しそうな勢いで答えたアルフォンスの肩を、ブライスが押す。
「こら、アル。興奮するのはわかるが、落ち着け。今は体を休めろ」
「わかった! 落ち着く」
素直に答えつつ、左右に体を揺らしてそわそわとしている。そんなアルフォンスを見て、リオナも笑みを浮かべた。
「では、食事を取って来ますね」
「ちょっと待った。リオナ嬢、食事は有料だ。おれもついて行く」
「え、ネイサンだけずるい」
「すぐに戻る。アルは大人しくしてろ」
ブライスが先導し、食事処へ行く。ギルド内でも一応食事は準備できるらしいが、ブライスのこだわりが強かった。ギルドから少し歩いた場所にある店へ行く。
そこは携帯食も取り扱っている店で、持ち帰り用の容器もある。しかも、その店は容器を戻せば一ガルド分の小鉄貨一枚を返金してくれるのだそう。さらにさらに、男性店主の計らいで、リオナが戻しにくればさらに一ガルド多く返金してくれるらしい。
ブライスを見れば、その一ガルド多い分はリオナが持っていてもいいと。
(まずは一ガルド!)
思わぬ所で収入を得たリオナは、アルフォンスの元へ戻る足取りも弾む。上機嫌のままギルドの部屋へ行く。
「アルフォンス様、戻りました」
「お帰り。リオナ、何か良いことあったの?」
「はい!」
ブライスと行った店のことを話す。するとアルフォンスは、訝しむような目をした。
「……ネイサン?」
「肉入りのスープにしたぞ。ほら、リオナ嬢に食べさせてもらえ」
「……今は追求しないでおく。リオナが容器を返すとき、一緒に行ってあげて」
「それは勿論」
リオナにはアルフォンスが含ませた行間の思いには気づかなかった。アルフォンスとブライスは仲が良い。そう思っただけだ。
「アルフォンス様。温かい内に食べてください」
「ありがとう、リオナ」
ブライスから容器を受け取り、木匙でスープを掬う。移動の間も冷めずに湯気が出ているスープに、ふぅふぅと息を吹きかける。
「どうぞ」
アルフォンスの口元へスープを掬った木匙を運ぶ。ゆっくりと傾け、口の中へ流した。
「ありがとう、リオナ。美味しいよ」
「いえ、わたしは作っていないので。容器を返すときにアルフォンス様の感想を伝えておきますね」
「ねえ、リオナ。その肉団子ほしい」
「わかりました。少し大きいですけど、小さく切りますか」
「そのままでいいよ」
アルフォンスの求める肉団子を木匙に載せる。そして運んだが、やはり少し大きかったようだ。口に入れる際、端からスープが零れてしまった。
「ちょ、ちょっと待って下さいね」
何か拭くものをと焦っていると、ブライスがさっと取り出した手巾でアルフォンスの口元を拭いた。
「……ネイサンは何枚手巾を持っているの」
「偶然だ」
「しれっと言うけど、そんな偶然は不自然だよね? 午前中にも一枚出したし、どうして二枚も持っているの」
「あ、あのっ!」
仲が良いはずの二人が、険悪な雰囲気になってしまった。そんな気配を察知したリオナが、強引に二人の対話に入り込む。
「あの、わたしも手巾を持つようにしますから! 今は、アルフォンス様の昼食を優先しましょう!」
「ふふっ。そうだね。次はリオナに拭ってもらおうかな」
「その、大きめの具材はやはり小さくした方がいいと思うんです」
「わかった。次の肉団子はそうしてもらえるかな」
アルフォンスがにこやかな笑みを見せる。どうにか険悪になりそうな空気を変えられた。
安心したリオナは、またアルフォンスの口元に木匙を運ぶ。そうして昼食を終え、容器を返しに行った。




