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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第二話 研磨師への第一歩

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2.4 失態の結果④

少し長めの文章量です


「オルゴーラ様、戻りました」

「ああ? あの嘘くさい男を籠絡……これはこれは、ブライス様ではありませんか! こうして来ていただいたということは、オルゴーラ工房へ出資して下さるということでしょうか」

 手を擦りながら近づいてきたオルゴーラは、かなり鼻息が荒い。不躾な視線を這わせ、ブライスの周囲を見る。そして、アルフォンスに気づいたようだ。

「ブライス様? このチビ……いえ、この子供はどなたでしょうか」

 オルゴーラの言葉にぶち切れそうになったアルフォンスをブライスが止める。冷静さを装えるようになったアルフォンスが、背負っていた容量箱から布の袋を取り出した。

 布の袋は限界を迎えていたらしい。ドンッと机に置かれた瞬間、ビリッと裂けて中に入っていた大鉄貨がじゃらじゃらとこぼれ落ちる。

「金! 金だあ!! お前ら、触るんじゃねえ!」

 オルゴーラが這い蹲るように大鉄貨をかき集める。居合わせた徒弟達が集めることに協力しようとしたが、がめついオルゴーラからの指示を受けて作業室へ逃げるように去って行く。

 代わりに出てきたのは、オトコルだ。

「師匠、一体何の騒ぎで……リオナ! 出資者を連れてきてくれたんだ!」

 まるで感動の再会だというように、オトコルがリオナに近づく。しかしそれを、アルフォンスが許さない。リオナとオトコルの間に立ち、オトコルを睨み上げる。

 そんなアルフォンスの態度を見て何か思ったのか、降参するように小さく両手を挙げて後退した。

「この金は、リオナを引き取るための結納金だ。百万ガルドある」

「ひゃ、百万!?」

 金額を聞いた瞬間、オルゴーラはかき集めたばかりの大鉄貨を自らの頭上に降らせるようにばらまく。そして青紙幣や黒紙幣もばらまき、まるで(かね)の海を泳ぐようにはしゃいでいる。

 そんなオルゴーラを見て引いているリオナを現実に引き戻したのは、オトコルだ。

「リ、リオナ。結納金だなんて、騙されているよ。おかしいな、リオナが騙されないように僕が見ていたはずだけど……リオナ。工房を出て行くなんて、嘘だよね?」

「いいえ。わたしはアルフォンス様たちと行きます」

「リオナみたいな子は、師匠の下でしか生きられない。他の誰にだって、関心を持たれるわけがないんだ」

 やけにリオナを止めにかかってくる。何かあるのかと考えていたら、腕を組んでオトコルの話を聞いていたアルフォンスが問う。

「お前が言いたいことはそれだけか」

「それだけって、どういうことだい?」

「もしお前が、万が一にでもリオナを好いているというのなら、決闘を申し込んででも奪っていくつもりだった。そうではないと理解したが、相違ないか」

 ピリッとした、緊張感を覚える空気になった。リオナへの対応と違い、アルフォンスはまるで統治者のような雰囲気を醸し出している。

 体格的には、オトコルの方が大きい。しかし、アルフォンスの態度に敵に回してはいけないと察したらしい。にっこりと作り笑いを浮かべる。

「え、ええ、そうですとも! まさか、僕がリオナを好いているだなんて、ありえませんよ」

「そうか。それならいい。リオナ、荷物を纏めてくれるか」

「あ、はい。すぐに戻ります」

 リオナは寝床になっている倉庫へ行き、寝藁の近くに置いてあったマラシェイを持つ。

(……鞄は、どこにあるんだろう……)

 リオナを運んでくれたとき、ブライスが鞄も手渡したと言っていた。だからてっきりリオナの寝床付近に置かれていると思っていた。

(……いつもみたいに換金してくれていたとしても、鞄はいつも寝藁に置かれているのに)

 もう一度見てみたが寝藁以外にはない。ジェイコブからもらった鞄だから、簡単には諦められない。しかしアルフォンスたちを待たせてしまうのは良くないと判断した。

 倉庫から二人の元へ戻る。オルゴーラは未だに大量の金で放心状態、オトコルは何か隠し事をしているかのように挙動不審になっていた。

 オトコルの様子が気になり、工房を出る前に聞いてみる。

「オトコルさん。いつもわたしが持っていた鞄、知らないですか」

「鞄!? あ、ああ、あれね。いつもみたいに中身を換金した後で、ボッロボロだったから捨てておいたよ」

「えっ!?」

「どこに捨てた!!」

 オトコルの話を聞くや否や、リオナが驚くのと同じ時機に、アルフォンスがオトコルに迫った。身長差から難しいが、体格差がなければ胸倉を掴むような勢いだ。オトコルもたじろいでいる。

「リオナの大切な鞄を、どこに捨てた!!」

「く、厨の外にある、ごみ箱に」

 オトコルが指差しながら場所を言った瞬間、アルフォンスが駆け出して行った。

 リオナもすぐに追いかけたかったが、確認しなければいけないことがある。

「オトコルさん。鞄の中にあったドロップ品の量を、不思議に思いませんでしたか」

「不思議にっていうか……リオナが集めてもどうせ十分の一の価値になるから、大量に集めたのかと」

「そうですか。わかりました。今まで、手間をおかけしました。さようなら」

 確かに、今まで換金するときにオトコルに頼んでいた。しかし、今まで鞄一杯のドロップ品なんて集めたことはない。リオナが出ていこうと思っていたことなんて微塵も考えず、いつもよりも多い換金額をリオナに渡そうとも考えなかった。

 厨の方へ向かうリオナの後を、ブライスもついてくる。

「良かったのか」

「はい。今までお世話になったということで、納得します」

「リオナ嬢がそう言うならいいが」

 厨を抜けて外へ出る。そこではごみ箱を漁るアルフォンスと、ちょうどごみを回収しに来ていた業者がいた。見知ったリオナと目が合い、業者から助けを求められる。

「アルフォンス様。もう終わりにして下さい。生ごみも入っているので、アルフォンス様が汚れてしまいます」

「ぼくは、諦めないよ!」

 生ごみは、月に一度回収しに来る。回収費用を出し渋らなければもっと頻繁に来るが、支払いは工房主のオルゴーラがしていた。

 だから、生ごみが溜まっている。十箱以上のごみ箱を下から漁り、野菜屑が頭に乗ってもアルフォンスは気にしない。しかし、リオナは気にする。

 アルフォンスに駆け寄り、腕を掴む。

「もう、いいですから」

「駄目だ」

「どうして、そんなに必死なんですか」

「どうしてって、そんなこと、当たり前でしょ? リオナが言ってたこと、聞いた。亡くなっちゃった人からもらったんでしょ? リオナの声が、その人のことを良く思っていたってわかる。大切な人からもらったなら、大切な鞄だよ。それを失ったら、リオナが傷つく。だから、捜し出す」

「アルフォンス様……」

 アルフォンスだけに捜させてはだめだと、リオナもごみ箱を漁ろうとする。しかし、少し離れた場所にいたブライスから声をかけられた。

「二人とも。そっちのごみ箱じゃない。新しい方だ」

 ブライスが示したのは、最も厨に近い場所に置かれていたごみ箱。そこの一番上に、見覚えのある鞄が置かれていた。

「「あった--!!」」

 アルフォンスと声を合わせる。見つけたことが嬉しくて、お互いに抱きつき合う。

「感動しているところ悪いが、とりあえずごみを片づけるぞ」

 リオナとアルフォンスを離すように間に入ったブライスは、鼻をつまみながら散らかっているごみを拾っている。

 リオナが厨から箒を持ってきて集め、すぐにごみ箱へ戻す。そして業者に回収を頼み、オルゴーラ工房を後にした。




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