第32話 見えざる闇の刃
シュテルはその姿を見て更に楽しくなった。そして、初めてこの戦いにおいて充実感を感じる。
「ミウ、やっと本気を出したな。じゃあ俺も本気を出すよ」
シュテルはそう言ってバッグの中から8本の針を取り出す。そして、それをランダムに投げた。その針は闘技場に散らばるように刺さり、何処でも逃げられるようになる。
しかし、これは避難用でも逃走用でもない。攻撃用だ。そして、シュテルはニヤリと笑って本気を出す。
「俺も本気を出す。”召喚・悪魔・覇王状態”」
その刹那、シュテルの体が黒い影に包まれる。そして、その中から現れたのは闇の覇王となったシュテルだった。
「お前が本気を出したんだ。俺も出さなきゃ無礼だろ?」
シュテルはそう言って剣を握りしめた。辺りにはいくつかのマーキングが着いた針が突き刺さっている。そして、それと同時にこれまで戦ってきて動いた場所なども確認した。
「……ま、トラップなんかないけどそれっぽいことして置いてもいいよな」
シュテルは誰にも聞こえないように小さく呟く。そして、シュテルは走りだした。ミウはそれを見てシュテルを殺そうとする。
強大なエネルギーを蓄えた灼熱の大剣は向かってくるシュテルをロックオンした。反撃の成功率は100%。このままシュテルが突っ込めば、ミウの強力な一撃が炸裂する。
しかし、シュテルは向かっていく。全てを悟ったような目でミウを見つめながら突き進んでいく。そして、ミウの大剣が目の前に迫ってきた。この刃がシュテルを切り裂けば、そこでシュテルの負けが決まる。そして、この距離は避けられない。ミウはそう確信して剣を振り下ろす。
そんな時だった。シュテルの姿が消える。剣は空振りし、誰もいない虚空を切り裂く。地面に亀裂が走った。それと同時に会場に衝撃が走る。
「「「ザワザワ……」」」
「「「ザワザワ……」」」
あちこちで人々がざわめく。ミウはそのざわめきがシュテルが消えたからだと思っていた。だから、直ぐに思考を巡らし振り返ろうとする。しかし、何故か体は動かない。と、言うより、振り向けない。強い力で押さえつけられているかのようだ。
「クッ……!」
ミウは慌ててその場から離れようとした。しかし、その時初めて自分の体力が減っていることに気がつく。しかも、既に半分に到達していた。
「嘘……!?私の……負け……!?」
ミウはその事実に驚愕し言葉につまる。そんな時、背後から声がした。
「腹、見てみな」
シュテルの声だ。ミウはその声に従って目を向ける。すると、そこには黒い剣がミウの腹を貫くように突き刺さっていた。
「っ!?」
「気づくのが遅かったな。俺の勝ちだ」
シュテルはそう言って剣を引き抜く。そして、鞘に収めた。すると、頭の上にWinと出てくる。どうやらこれがPvPに勝利した時表示されるもののようだ。ミウを見ると、同じように頭の上にLoseと出ている。
シュテルは何事も無かったかのように振り返り、歩き出した。そして、闘技場内から出る。観客達は、今ここで何が起こったのか理解出来ていなかったが、少しして大歓声を上げた。
(何が起こったの……!?)
ミウは心の中でそう叫び、心の中で泣く。それを見ていた両親が、そんなミウのそばまでやって来た。
「凄かったねぇ……あの攻撃。まさに、『見えざる刃』って感じだったね」
「そうね。それに、技だけでなくタイミングも完璧だったわ。かなりギリギリを責めたのでしょうね」
シュテルの両親はそんなことを言って楽しそうに笑う。
「……ごめんなさい……」
「なんで謝るの?」
「だって……私……三帝王なのに……!」
「仕方ないさ。あの男はかなり強かったから。だいぶ研究したんじゃないかな?」
両親はそう言ってミウを慰める。そして、優しく微笑みミウを連れて歩き始めた。それまで観客席では、『凄かったぞ!』や『まさかあの男が勝つとはな!』や『俺、アイツの誹謗中傷しちまった……!後で報復に来られないかな……?』などシュテルを賞賛する声が多かったが、ミウが退場し始めるとミウを賞賛する声が多く上がった。
2人は大きな歓声に包まれながらその場を後にした。
一方その頃、フィナム達は……シュテルが勝利したのを見て喜んでいた。それと同時に分析までする。
「いやはや、シュテルは凄いな」
「本当にそうですね!」
ルビーがフィナムの言葉に嬉しそうに答える。フィナムはそんなルビーを見て微笑むと、今度はディープダークに言った。
「なぁ、ディープはシュテルが何をしたか見えたかい?」
「いいえ、全く。想像は着きますが、全く見えませんでしたよ」
「そうか……ルビーはどうだ?」
「う〜ん……私にはシュテル様が背後に立って一撃で倒したとしか見えませんでしたけど……」
「やっぱりそう見えたよね。でも、あれを一撃で貫くのは難しいかな。ミウが使ってた防具は神器クラスだからね。いくらシュテルの剣が強くても、それを一撃で貫くのは容易な事じゃないよ」
「え!?じゃ、じゃあなんで一撃で貫けたのですか!?」
「実はね、あれは一撃じゃないんだ。見えない速度で連続で攻撃したからああなったんだ。よく見たら、ミウの鎧の至る所に傷がついていただろ?」
「確かにそうでした……」
「シュテルのあの力……ここにいてそれに気づいた人は少なくとも5人……3帝王と僕とディープ……もし、この中にシュテルの強さに気づく人がいたら……ま、考えても無駄なことは考えないでいいね。とりあえずシュテルの所に行こう」
フィナムはそう呟いて少し観客席を見渡した。そして、シュテルが居る待機部屋まで向かい始める。その後を追ってディープとルビーも席を立った。
そして、その頃ミウ達はフィナムと同じことを話していた。シュテルのあの技を見て父が分析をする。
「……あの時、私は何が起こったのか全く分からなかったわ。だって、気がついたら負けてたんだもん」
「仕方ないさ。あの速さは分かってなければ見えないのが普通だよ」
父はそう言ってニヤリと笑った。そして、何か言おうとする。
父が何か言おうとしている時、それと全く同じタイミングでフィナムも全く同じことを言おうとしていた。突如ふりかえってルビー達を見てどこか嬉しそうに笑顔で言う。
「「「見えざる闇の刃……か」」」
『面白い。今度機会があれば俺が仇を打ってやろう』
「面白いね。今度僕も戦って見たいね」
場所は違えど2人は同じことを同じような表情で言った。
そして、フィナム達はシュテルのいる部屋の前に立つ。そして、扉を開けようとした時中で誰かと話すシュテルの声がした。フィナム達はそんなシュテルがいる部屋の扉を開け中を覗く。すると、そこではシュテルが男の人と話していた。
「まさかお前がここに来るとは思わなかったよ」
「何言ってんだ。シュテルがいなくなって心配したんだからな」
「悪かったな、ライモン」
シュテルはそんなことを話していた。
「シュテル、お疲れ様」
そんな2人の会話のちょっとした間にフィナムがそう声をかける。
「あ、お前らも来たのかよ」
シュテルはフィナムに向けてそんなことを言う。すると、ライモンがフィナムの存在に気づいた。
「ん?シュテルの知り合いか……って、世界4位のフィナム様じゃねぇか!」
ライモンはそう言って驚き椅子から転びおちる。そんなライモンに向かってフィナムは礼儀正しく挨拶をする。
「初めまして。私はフィナム。シュテルの師匠だ」
「師匠!?シュテル、お前、ビギナーじゃなかったのかよ!?」
「ビギナーだよ。まぁ、色々あってこうなったって感じだな」
「色々って……まぁいいや。お前が無事ならそれで良かったよ。またどこかで会おうな。あと、俺の店にも来いよ」
ライモンはそう言って部屋から出ていく。
「いい人だね」
「まぁな」
シュテルはそう言って微笑んだ。
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