五神
いにしえより世界は争いに満ちていた。
降りしきる蓮華の嵐は世の中を壊し、万遍なく生命を奪った。
水に住まう生物でさえ息ができない大洋や。虫がさざめく木々は命乾びた樹海へと。花が咲きこぼれる大地は枯れ果て文明すら崩壊した。金の概念すらなくなった。全て奪い合った。
もう誰もが無理だと思った……その時だった。
願いを受け入れてくれたのか、天より降臨されし四柱の神様が現れた。
──このままでは空しい。ならば我らが力を添えよう、と。
東の青龍は一月二月三月と春を作り、天の恵みである雨を降ろしては大地に繁栄を齎した。木々は再生し花は咲き乱れてと、それはもう大いに賑わった。
南の朱雀は四月五月六月と夏を作り、その炎で枯れ果てた生命に芽を吹き込み華を再燃させた。さらに強靭な翼で大凶を追い払い幸運を呼び寄せた。たいへん感謝した。
西の白虎は七月八月九月と秋を作り、文化を開花させた。『近代文明』や子宝と、はたまた世に満ちた蓮素すらも正常へと戻した。感動のあまりに涙した。
北の玄武は十月十一月十二月と冬を作り、穢れた水を浄化しては飲めるようになるまでと恵みを与えた。果てには病気や災難を防ぎ健康にまで手を伸ばした。拝んでは祈り倒した。
──前のようにはならないでくださいと想う人もいれば、ずっと居てくださいと乞う人もいれば──
喜んでは万謝を叫び、雫拭いては崇め奉った。それは人の正の感情だった。
──もう充分ですと。『争い』を起こしますからと。
人が持つ正の感情よりも負の感情の方が多かった。
よって争いは止まらない。それこそが人という生き物の性であり、なんと悲しいことだろうか。
しかし、それを見越したのか四神の王が舞い降りた。
──仁をもって義をなす。義によって仁を尽くす。
麒麟はそう言った。生きた虫さえ殺す事なく香る草さえ踏むことなく、麒麟はなによりも優しかった。慈悲深かった。
──倅を命じて調和を成そう。
そして四つの公は作られた。
春を司る青龍は東のチロン家へと。
夏を司る朱雀は南の『チューチエ』家へと
秋を司る白虎は西のイフー家へと。
冬を司る玄武は北のショワン家へと。
かくして四季を彩り暦は生まれ東西南北はできたのである。
そして麒麟は春夏秋冬の王として、全てが住まう中心『アストラン』王国に君臨した。
──そのアストランにちょっと大きなお菓子屋さんがあることは、当時の人が知る由もない。