三つのなぞなぞ(3/3)
ジュンもレディ・ボーン号へ向かおうとします。でも自分の手に青い絵の具がついているのを見て、乗船する前に汚れを落とそうと思い、水路に手を浸しました。
ぱちゃん
そのとき、海面から水音がしました。ジュンは思わずそちらに視線を向けます。
その瞬間、水中にいる巨大な何かと目が合いました。ジュンは驚いて、その場に尻もちをついてしまいます。
「ジュン、どうした?」
近くを通りかかったガイコツが尋ねてきました。
ジュンは訳を話そうとしますが、声が震えて上手く言葉が出てきません。その代わりに、あの目玉の方を指差しました。
「……うん? 別に何にもないじゃないか」
けれど、水の中を見たガイコツは不思議そうな声を出します。そんなはずはないと、ジュンはもう一度だけ、恐々と海の中を覗きました。
でも、ガイコツの言うとおり、そこには何もありませんでした。
(……見間違いかな?)
ジュンは何だか変な気分になりました。でも、あの目玉のことを思い出すと怖くてたまらなくなってしまうので、それ以上は深く考えることができません。
「ごめんね。僕の勘違いだよ」
ジュンは首を振って船へと向かいます。あの目玉のことは早く忘れてしまおうと必死になっていました。
「野郎ども! いかりを上げろ!」
全員が船に乗り込んだ後、ズガイ船長が拳を高く上げて命令を下します。
「お宝の流れ星のかけらは、もう目の前だ! 全力で……」
ドォン! という音と一緒に船が激しく横に揺れ、ジュンは床を転がりました。船首の方から、巨大な生き物がぬっと姿を現わします。その大きな目玉は、さっきジュンが海の中で見たのと同じものでした。
「クラーケンだ!」
誰かがそう叫ぶのが聞こえます。
聞いていたとおり、クラーケンはタコの化け物でした。しかもその体はジュンたちが乗っているレディ・ボーン号よりも大きく、ぬらぬらと水をしたたらせる黒い皮ふは、ゴムのように分厚そうです。
動きも素早くて、船はあっという間にクラーケンの腕に絡め取られてしまいました。
「は、早く避難を!」
「うわぁ! こっちへ来るな!」
突然の化け物の登場に、甲板の上ではガイコツたちがパニックを起こしていました。
「せ、船長! 船の底に穴が!」
ダイタイさんが絶望的な声を上げます。ズガイ船長はマストに捕まりながら、「慌てるな!」と怒鳴りました。
「すぐに浮上するんだ! 水から離れたら、やつも追っては来れん!」
けれどクラーケンの力が強すぎて、振り払うことができません。ジュンは頭から海水を被ってしまい、手すりにしっかりと掴まりながらゲホゲホと咳き込みます。
レディ・ボーン号のあちこちから、ミシミシという悲鳴に似た音が上がり始めました。ガイコツたちは、「早く大砲をぶっ放してクラーケンを追い払え!」と大砲係のキヌタさんに向かって叫びます。
それに対し、キヌタさんも叫び返しました。
「ダメだ! やつに大砲を壊された! これじゃあ戦えねえ!」
マストがボキリと音を立て、甲板の上に落ちてきました。それの下敷きになったガイコツたちが絶叫します。
「船長! このままじゃ、船ごとバラバラにされちゃいます!」
「くっ……ジュン!」
船長が大声でジュンの名前を呼びました。
「ジュン、船から降りて、急いで流れ星のかけらを取ってくるんだ!」
「えっ!?」
意外なことを言われ、ジュンは固まりました。
「ど、どうして……?」
「もちろん、こいつを撃退するためだ! このままじゃ全滅だからな! 流れ星のかけらに願うんだ! クラーケンをやっつけたい、と!」
「で、でも、なんで僕が……」
そんな大役を任せられるなんて思ってもみなくて、ジュンはうろたえます。
「他の人じゃダメなの……?」
「当たり前だ! この海賊団の中で一番チビで目立たないのはお前だ! お前ならクラーケンに気が付かれずに、宝のある場所まで行けるはずだ!」
「そ、そんな……無理ですよ!」
恐ろしい目つきで船の上を睨んでいるクラーケンを見て、ジュンは青い顔で首を横に振りました。
「だって僕、足も遅いし、あ、あんな化け物を出し抜くなんて、できっこないですよ! それに、それに……!」
さらに船体が激しく揺れます。ことさらに大きな破壊音が響いて、船は真ん中から二つに折れてしまいました。
同時に、急速に体が浮き上がる感覚がします。クラーケンが船を持ち上げたのです。
「そ、総員、退艦!」
ズガイ船長が怒鳴りました。けれど皆がそれを実行に移す前に、クラーケンはレディ・ボーン号を放り投げてしまいます。
船は洞窟の天井にぶつかり、粉々に砕けてしまいました。そのまま落下していきます。ジュンも船から放り出され、水路へと落ちていきました。