三つのなぞなぞ(2/3)
間もなく、最後の壁が見えてきました。
「へへっ、またくぼみとなぞなぞか」
船を降りて壁を見つめた乗組員たちは、余裕の笑いを浮かべています。
「でも、こんなものはもう解かなくてもいいよな。だって残ってるのは、赤い石だけなんだから。これをはめたらいいんだろ?」
「まあ待て」
トランクから赤い石を取り出そうとする部下を、ズガイ船長は止めました。
「物事には順序ってもんがあるんだよ。さあ、最後の問題を見てみようじゃないか」
『宝を望む者よ。この先に進みたければ、正しい答えを導きなさい。
最初の問題に出てきた『あるもの』の先頭の文字を取ると、何になる?』
ガイコツたちはあごに手を当てます。
「ええと……どんな問題だったっけ?」
「確か、『ケガにあって、大ケガにない。ムードにあって、雰囲気にない。理解にあって、了解にない』だったか?」
「その先頭の文字だろ? えっと……ケガ、ムード、理解、だから……『けむり』だ。……答えは『けむり』!」
ガイコツがそう叫ぶと、プレートが赤く光りました。皆は盛り上がります。
「何だ、やっぱり赤じゃないか」
「簡単ななぞなぞだったな」
「まったくだ。二番目のは自己紹介しただけだったしな」
ガイコツはワイワイ言いながらくぼみの方へ向かっていきます。
けれどジュンは何か引っかかるものを感じて、プレートをじっと見つめていました。
確かに最初の問題で出てきた『あるもの』の先頭の文字を取ると、『けむり』になります。
でも、そんな簡単ななぞなぞを最後に持ってくるでしょうか? それにガイコツたちの言うとおり、石は全部で三個しかないんだから、わざわざ問題を解かなくても先に進むことはできるはずです。
それなのにあえてなぞなぞを出すのには、理由があるのではないでしょうか。例えば……これは引っかけ問題だったりするとか。
ジュンは最初のプレートに書かれていた言葉を思い出します。
『勇気がある者よ。この先に進みたければ、私の問いに答えなさい。
ケガにあって、大ケガにない
ムードにあって、雰囲気にない
理解にあって、了解にない
さあ、答えはなーんだ?』
その瞬間にジュンはあることに気が付いて、飛び上がりました。そしてガイコツの手から赤い石を奪い取ります。
「おいジュン、何するんだ!」
ガイコツたちは驚いていているようでした。ジュンは石を固く握りながら、「だまされないで!」と叫びます。
「皆惜しかったけど、本当の答えはちょっと違うんだ! 正しい答えは『けむり』じゃなくて、『ゆけむり』だよ!」
「はあ!? ゆけむり!?」
ガイコツたちは訳が分からないといった声を出しました。
「何でだよ! 『ゆ』なんて、どこから出てきたんだ!?」
「最初のプレートの言葉を思い出して! 『勇気がある者よ』って書かれてたでしょう? あれも『あるもの』なんだよ! ……そうだよね? 答えは『ゆけむり』だ!」
ジュンがプレートに向かってそう言うと、板は今度は紫色に光りました。ガイコツたちは顔を見合わせます。
「ジュン、やっぱり間違ってるよ」
「そうだそうだ。だって残ってるのは赤い石だけなんだぜ」
「紫の石なんか、どこにもないだろ」
ガイコツたちの言いたいことももっともです。けれどジュンはこの答えが正しいと直感していたので、「ないなら作ればいいんだよ」と彼らに言いました。
ジュンは船員に頼んで、レディ・ボーン号の中から絵の具を持ってきてもらいます。
「まさかジュン、石を紫で塗るつもりか?」
ジュンのやりたいことに気が付いたケンコウさんが、口元に手を当てました。けれど、ケースに入っていた絵の具を見て、困ったような声を出します。
「ジュン……この絵の具の中には紫色はないぞ」
「ううん。心配ないよ」
ジュンは青い絵の具を取り出しました。
「あのね、赤い色に青色を混ぜると紫になるんだ。だからきっと、この赤い石を青色で塗ったら紫色に変わるよ」
ジュンの言葉に、ガイコツたちはしんとなってしまいました。どうやら皆、ジュンの答えを信じるべきかどうか迷っているようです。
自分は間違っていないと思いつつも、皆のそんな反応を見ているうちに、ジュンも段々と不安になってきました。
だって、もしこれが正解でなかったのなら、お宝への道が閉ざされてしまうかもしれないのです。
けれど、ズガイ船長の発した声に、知らず知らずのうちにうつむいていたジュンは顔を上げました。
「皆、オレ様はジュンの言うとおりにする方がいいと思う」
ズガイ船長は、ジュンの肩に手を置きます。
「こいつはこの海賊団で一番チビだが、度胸がある頭のいい奴だ。こいつがいなかったら、オレ様たちは洞窟の中にも入れなかっただろう」
ズガイ船長の言葉に、皆ハッとしたようです。そして、次々と声を上げました。
「確かに! 船長は正しいぜ!」
「オレはジュンを信じるぞ!」
「オレもだ! さあ、早く石に色を塗ってくれ!」
皆、ジュンの提案に賛成し始めました。仲間たちからの確かな信頼を感じて、ジュンは気持ちが軽くなっていくのを感じます。そして、自分が出した答えは間違っていないという自信がまた戻ってきました。
ジュンはパレットに青い絵の具を出して、それを筆の先につけます。その筆先を石の上に滑らせました。
すると新しく色がついたところが、たちまちのうちに紫色に光り出したではありませんか。ガイコツたちは「おおっ!」と歓声を上げました。
「すごいぞ、ジュン!」
「よし、このまま隙間なく色をつけていこうぜ!」
ガイコツたちに促されるまま、ジュンは筆を走らせ続けます。手が青い絵の具で汚れていきましたが、そんなことは少しも気になりません。
やがて、ジュンは石の全ての面に色を塗り終わりました。さっきまで赤かった石は、すっかり紫色に変わっています。
「じゃあ、いくよ?」
ジュンはその石を持ってくぼみの前に立ち、皆の方を振り返って尋ねました。ガイコツたちは慎重な仕草で頷いてみせます。
ジュンは皆の期待を肌で感じながら、紫の石をくぼみにはめました。
すると……。
「動いた! 壁が動いたぞ!」
岩が二つに割れ、最後の道が開きます。ガイコツたちは喜びを爆発させました。
「さすがだな、ジュン!」
「ありがとよ! 宝が見つかったら、お前が一番先に願い事をしてもいいぜ!」
ガイコツたちはジュンの肩を強く叩きます。ジュンは誇らしい気持ちでいっぱいになりました。
「宝はもう目の前だ! 船に戻るぞ、野郎ども!」
ズガイ船長が指示を出します。皆は「アイアイサー!」と言いながらそれに従いました。