三つのなぞなぞ(1/3)
「これだ」
岩の壁に沿ってゴツゴツした地面をしばらく歩いていると、先頭にいたズガイ船長が壁のある一点を指差しました。そこには、カギと同じ形の金平糖型のくぼみがついています。
「これはカギ穴なんだ。ここに石をはめると、洞窟が現われるって仕組みさ」
「でも船長、どの石をはめたらいいんですか?」
石は全部で三つ。青色と黄色と赤色のものがあります。
その質問に、ズガイ船長は困ったような声を出しました。
「分からねえ。でも、間違った石をはめると大変なことになるはずだ。宝が消えちまうとかな」
「そ、そんな!」
「だが、ここにヒントがある」
ズガイ船長がくぼみの隣に指先を向けます。岩の壁にプレートがついていました。そこに文字が刻まれています。
『勇気がある者よ。この先に進みたければ、私の問いに答えなさい。
ケガにあって、大ケガにない
ムードにあって、雰囲気にない
理解にあって、了解にない
さあ、答えはなーんだ?』
「せ、船長、これって……」
ガイコツたちが後ずさりします。ズガイ船長は重々しく、「そう、なぞなぞだ」と言いました。
「う、うわああ!」
ガイコツたちが情けない声を上げます。ジュンはびっくりして、「どうしたの?」と聞きました。
「オレたちは、なぞなぞなんかやったことねえんだよ!」
「頭を使うゲームは苦手なんだ! 脳みそがないからな!」
ガイコツたちはしゅんとなってしまいました。
「どうしたもんか……」
いつもは頼りになるズガイ船長も参ってしまっているようです。このままでは先に進めそうもありません。ジュンはじっとプレートを覗き込みました。
ジュンは絵を描くのと同じくらい、本を読むのも好きでした。特に冒険小説は大のお気に入りです。そして、冒険小説の中には、謎解きをしないとお宝が手に入らないという内容のものも多いのです。
そんなストーリーのお話をたくさん読んできた自分なら、きっとこのなぞなぞを解くことができるんじゃないかとジュンは思いました。
「ケガ、ムード、理解。ケガ、ムード、理解。ケガ、ムード、理解……」
ジュンは何度も口の中で呟きました。そして、あることに気が付いて目を輝かせます。
「分かった! 『ある』ものは反対から読んだら、別の意味になるんだよ!」
「別の意味?」
近くにいたケンコウさんが腕組みします。
「ええと……『ケガ』は『崖』。『ムード』は『ドーム』。それで『理解』は……『いかり』」
ケンコウさんが飛び上がります。
「本当だ! ジュンの言ったとおりだ! おーい皆! ちょっと来てくれ!」
ケンコウさんがガイコツたちを集めます。皆は「何だ、何だ」と言いながら、近寄ってきました。
「ジュンがなぞなぞを解いたんだよ! ほらジュン、プレートに向かって答えを言うんだ!」
「分かった! えっと……『ある』ものは、ひっくり返したら別のものになる!」
すると、プレートが黄色に光り出しました。ガイコツたちが歓声をあげます。
「よし、黄色い石をはめてみろ!」
ズガイ船長が興奮しながら言いました。
トランクが開けられ、その中の黄色い石がくぼみにはめられます。すると、石の壁が動き出しました。
ズガイ船長の言ったとおり、現われたのは洞窟の入り口でした。しかも、レディ・ボーン号が丸々十そうは入れそうなくらい縦にも横にも大きいのです。
船長は上機嫌になって、「野郎ども! 船に戻れ!」と命令します。そして、ジュンの肩を叩きながら「さすがはオレ様が見込んだ男だ!」と言いました。
「はい!」
ジュンは体が熱くなるのを感じながら大きく頷きました。
レディ・ボーン号は帆をいっぱいに張って洞窟へ入っていきます。中は両端に少し人が歩けそうな地面があるだけで、大半は水に浸かっていました。
レディ・ボーン号はその水路を、大きな波を起こしながらずんずんと進んでいきます。
日の光は届きませんが、壁際には松明がいくつも灯されていたので、中はそこまで暗くはありませんでした。そこから発されている光が、洞窟の壁にちょっと不気味な影を描いています。
船体を眩しく輝かせるレディ・ボーン号は、そんな影を消し去るように前進し続けましたが、しばらくすると行き止まりが見えてきます。ガイコツたちは船を止め、また下船しました。
その壁にも、また金平糖の形のくぼみとプレートがついています。
『恐れを知らない者よ。この先に進みたければ、私の正体を当てなさい。
私は海の上にいます。
私は空の上にいます。
私はあなたの中にいます。
私は体がバラバラになっても平気です。
さて、私は誰でしょう?』
「またなぞなぞかあ……」
ジュンは首をひねりました。
「うーん……今度はちょっと難しいなあ……」
空の上にも海にもいて、自分たちの中にもいるものって何でしょう? しかも、体がバラバラになっても平気だそうです。
「おっ、さすがのなぞなぞ王も今回はお手上げか?」
ジュンが困っていると、ダイタイさんがおかしそうに笑いました。
「オレは分かっちゃったけど!」
「オレも!」
「オイラもー!」
皆次々と声を上げるものですから、ジュンはちょっと焦りました。もしかして、分かっていないのは自分だけなのでしょうか。
「おいおいジュン、お前はオレ様の海賊団の一員だろ。だったら答えられるはずだ」
ズガイ船長までそんなことを言い出します。ジュンは「うーん」とうなりながら、必死で頭を回転させました。
「僕が海賊団員だから答えられる……? それで、空にも海にも僕の体の中にもあって、バラバラになっても……あっ、そうか! 答えは『ガイコツ』だね!」
レディ・ボーン号は空も海も自由に移動できます。それに骨ならジュンの体の中にもありますし、ガイコツはバラバラになってしまっても平気なのです。
ジュンがプレートに向かって答えを告げると、板は青く光りました。船員が青い石をはめます。
するとまたしても壁が割れ、新しい道ができました。皆はレディ・ボーン号に乗って、そこを進みます。