流れ星に願うこと(2/3)
「おーい、助けてくれー」
弱々しい声が聞こえてきたのは、やっと廊下に人気がなくなった頃のことでした。皆に続いて甲板に出ようとしていたジュンは、何だろうと思って声のした方を振り返ります。そして、ぎょっとなってしまいました。
廊下のあちこちに、骨が散らばっていたのです。声は、その中の頭の骨から発されているようです。
「まったく……派手にやっちまって……」
ズガイ船長は仕方なさそうにその骨を拾い始めました。
「せ、船長、こ、これ、大丈夫なんですか……?」
ジュンはオロオロとしながらもズガイ船長の手伝いをします。船長は「もちろんだ」と頷きました。
「ガイコツの体っていうのは案外不便なもんでな。油断すると、すぐにバラけるんだ。……これ、どこの骨だ?」
ズガイ船長は床に骨を並べながら首をひねっています。
「しかも自力じゃ直せねえんだよ。……適当じゃダメか?」
「ダメですよー! 格好悪いじゃないですか!」
頭の上に手の骨を乗せられたガイコツは、情けない声を上げます。
ジュンも手を貸して、ズガイ船長と一緒に骨を直していきます。それが終わる頃には、二人とも少しくたびれていました。人間の体の骨というのは意外と複雑な構造になっていたのだと、ジュンは初めて知りました。
「ありがとよ、ジュン。助かりました、船長!」
体を直してもらったガイコツがお礼を言いました。
「よし、それなら早速、流れ星を見に行こうぜ!」
ガイコツはジュンの手を引いてかけ出します。「元気な奴め」とズガイ船長が呆れたように言いました。
「ジュン! お前の場所、取っておいてやったぜ!」
レディ・ボーン号の甲板は、寝袋にくるまったガイコツだらけになっていました。彼らを踏まないように気をつけながら、ジュンは手招きしている掃除仲間のダイタイさんの方へ向かいます。
「見えねえなあ」
「まだ真夜中まで時間があるからじゃねえか?」
「よし、それならしりとりでもして待っていようぜ! オレからスタートな! ……ガイコツ海賊団! ……あっ、負けた!」
「お前ら、うるさいぞ」
わいわい騒いでいるガイコツたちに、ズガイ船長が文句を言います。
「そんなにギャアギャアしてたら、流れ星だって恥ずかしがって出てこられなくなるだろ。暇つぶしなら、もっと静かな遊びにしておけよ」
「静かな遊び? お絵描きとか?」
「でもオレ、絵なんか描けませんよー」
「僕、得意だよ」
ジュンは控えめに会話に入っていきました。皆が「本当か!?」と盛り上がります。誰かが「スケッチブックと色えんぴつと絵の具を持ってこようぜ!」と言いました。
「で、何を描くんだ?」
道具を用意してもらったジュンは、寝袋から出ました。ガイコツ柄の表紙を見つめながらちょっと考え、「皆の絵にするよ」と言います。
ジュンは黒い色えんぴつを手に取って、真っ白なページにペン先を滑らせました。まずは、隣にいたダイタイさんを描くことにします。
「オレ、モデルなんてやるの初めてだよ!」
ダイタイさんは嬉しそうな声で両手を体の前で組んで、強そうなポーズを取りました。
「ズルいぞ!」
「次、オレの番!」
ガイコツたちはワイワイとはしゃぎます。
何だかさっきよりもうるさくなってしまったように思いますが、ズガイ船長もジュンの絵には興味があるのか、「ほう、上手いじゃないか」と言ってスケッチブックを覗き込んできました。
おばあちゃんの家ではゲンくんの遊びに付き合っていたために、絵を描く時間が取れなかったことをジュンは残念に思っていました。なので突然自分の好きなことをする機会をもらえたことに喜び、皆のリクエストに応えながら次々と絵を描いていきます。
「腕の骨は太めに描いてくれ!」
「オレの体は、金ピカで頼むぜ!」
ちょっと無茶なことを言ってくるガイコツたちもいましたが、ジュンはできるだけ言われたとおりにしようとします。金色の絵の具はなかったので黄色で塗って、周りにキラキラしたマークを描いてごまかしておきました。
そんなふうに頑張っていたジュンでしたが、ふとあることに気が付きました。描いても描いても「次はオレの番!」と言い出す人が減らないのです。気になってこの船に乗っている人数を尋ねてみると、「二百人くらいかな」と言われてしまいました。
二百人! これは、かなりの大仕事になりそうです。
「あっ、見えた!」
ふと楽しげな声が上がったのは、もう三十人分くらい絵を描いて、ジュンの腕が疲れ始めたときのことでした。
空に一筋の光の線が浮かび上がったのです。待ちに待った流れ星でした。