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流れ星に願うこと(1/3)

「ヨーソロ

 ヨーソロ

 進め 幽霊船

 オレたちゃ 泣く子も黙る ガイコツ海賊団!

 七つの海を駆けてゆけ ヨーソロ!」


 甲板に船員たちの歌声が響きます。


「言われてた場所のモップかけ、終わったよ」


 ジュンは掃除をしている他のガイコツに向かって言いました。


「ご苦労さん」


 返事をしたのはぞうきんを絞っていたガイコツ――ダイタイさんです。


「じゃあ次は、この辺りを頼む。何せこのレディ・ボーン号は広いからな。百年かかったって掃除しきれない」


「おいおい、オレたちには年月なんて関係ないだろう」


「それもそうか」


 他のガイコツの言葉に、ダイタイさんは頭に手をやります。ジュンはクスクスと笑いながら、手に持っていたモップをバケツに浸しました。そして、皆が歌っている『ガイコツ海賊団の歌』のリズムに合わせて、床を磨き始めます。


 海賊船に乗せられて初めは怯えていたジュンでしたが、しばらくすると、そんな気持ちは消えてしまいました。


 というのも、このガイコツ海賊団の乗組員たちは怖い幽霊なんかじゃなくて、気のいい人ばかりだとすぐに分かったからです。


「おーい、ジュン。ちょっと休憩しよう!」


 甲板の端っこにテーブルを持ってきたケンコウさんというガイコツが、ジュンを手招きします。


 ジュンは他の掃除仲間に断りを入れて、ケンコウさんのところへ行きました。


「おっ、一休み中か?」


 大砲係のキヌタさんもやって来て、ジュンの隣の椅子に腰掛けました。


「お前はまだチビだからな。あんまり熱心に働くと、倒れちまうよ」


 ケンコウさんはグラスを用意して、中にジュースを注いでくれました。ジュンはそれを飲みながら「平気だよ」と笑顔で言います。


 体を動かすのは好きではないジュンですが、この船の上で働くのは全然嫌ではありませんでした。きっと、見るものも聞くものも全てが新鮮で、ずっとワクワクしっぱなしだったからでしょう。ちょうど、冒険小説の登場人物になったような気分でした。


 月はすでに高くまで昇り、普段ジュンが寝る時間はとっくに過ぎていました。でも、ジュンはちっとも疲れを感じていません。


「このレディ・ボーン号の上では、不思議な時間が流れているんだ」


 ケンコウさんがそう言います。


「この船では、季節に関係なく快適な旅が楽しめるんだよ。それに夜でも航海できるように、船体が光るんだ。最新式の幽霊船だからな。すごいだろう?」


「幽霊船に古いとか新しいとかあるの?」


「当然だ! お化けだからってバカにするなよ!」


 キヌタさんに頭をコツンと叩かれてしまいました。ジュンは笑いながら、「ごめんなさい」と謝ります。


 時間が経つにつれ、もう少し長くこの幽霊船に乗っていたいというジュンの思いは強くなるばかりでした。他の船員と同じ服を用意してもらって皆と一緒に仕事をしているうちに、ジュンはすっかりこのガイコツ海賊団の一員になっていたのです。


「皆は今までどんな冒険をしてきたの?」


 もっともっとこの海賊団のことが知りたくなって、ジュンは尋ねます。ケンコウさんは、「そりゃあ色々だな」と腕組みしました。


「このレディ・ボーン号は、山でも海でも自由に行けるんだ。空にある工場から雲を作る機械をいただいたり、地下迷宮の財宝を探したり……」


「でも、これから俺たちがちょうだいするのは、もっとすごいお宝なんだぜ!」


 ついて来いよ、とキヌタさんが言います。案内されたのは、船の奥まったところにある部屋でした。


「うわ……すごい!」


 ジュンは思わず目を細めます。その部屋は金塊の山が置いてあったり、天井まで届くくらいに宝箱が積まれていたりするような宝物庫だったのです。


「皆オイラたちが手に入れたお宝さ!」


 ケンコウさんが自慢げに教えてくれます。


「でもたくさんありすぎて、時々窓の隙間とかから地上に落っこちたりするんだぜ」


「地上に……? もしかしてあの石も……?」


 ジュンは自分が拾ったおばあちゃんの家の庭に落ちていた石のことを思い出しました。


「そのとおりだ。この部屋の掃除当番が、うっかり落としちまったんだよ。慌てて取りに行こうとしたけど、先にお前に拾われちまったってわけさ」


「だから今度からはそんなことが起きないように、大事なものはここに入れることにしたんだ!」


 キヌタさんはそう言って、小さめのトランクを取り出します。中を開けると、入っていたのはあの赤い石でした。


 それだけではなく、青色と黄色のものも入っています。皆同じ金平糖みたいな形をしていました。


「船長が言ってただろう? この石は『お宝までの道を開くカギ』だって。つまり、この三つが揃って初めて、お宝は手に入るんだ!」


「その宝の名前は、『流れ星のかけら』! どんな願いも叶うっていうすげえシロモノさ! オイラたちが今向かってるのは、その『流れ星のかけら』が隠されてる無人島なんだ!」


「そんなのがあるんだ!」


 キヌタさんとケンコウさんの言葉に、ジュンは目を丸くしました。


「それって、本物の流れ星よりもすごいかもしれないね。知ってる? 今日の真夜中に流星群が見えるって話」


「そうなのか!?」


 キヌタさんとケンコウさんが、あごの骨を大きく鳴らしました。


「そいつは大変だ! こんなところで油売ってる場合じゃないぜ! 早く見に行かねえと!」


「まったくだ! ガイコツ海賊団は、珍しいものには目がないんだ!」


 そう言ってキヌタさんとケンコウさんは宝物庫から走って出て行きました。廊下から、二人の声が聞こえてきます。


「おーい皆! 今日は流れ星の日らしいぞ! 早く見ようぜ!」

「何、本当か!?」

「望遠鏡だ! 早くしろ!」

「寝袋持って行って、寝転がって見られるようにしようぜ!」

「賛成!」


 ドタドタという足音が辺りに響きます。ジュンが宝物庫の外に出てみると、船中からガイコツたちが集まったのではないかというくらい、廊下は渋滞していました。


「何の騒ぎだ」


 あんまり皆がうるさくしたものですから、ついにはズガイ船長までやって来ました。誰かが「今日は流れ星が見えるんですって!」と教えます。


「流れ星って……そんなことで必要以上に騒がしくするなよ。何事かと思ったじゃねえか」


 ズガイ船長がぼやきますが、誰の耳にも入っていません。ガイコツには耳なんてないので、当然かもしれませんが。

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