海賊に必要なもの(1/1)
「はあ、はあ……」
クラーケンがレディ・ボーン号を襲ってから、もうどれくらい経ったでしょう。船から投げ出されたジュンは疲れた手足を懸命に動かし、やっと岸に上がることができました。
少し呼吸が整ってきたジュンは、重たい体を引きずって、洞窟の壁際にうずくまります。
(僕のせいだ、僕の……)
寒くもないのに、ジュンはガタガタと震えていました。
(僕は気が付いていたのに。クラーケンが船を狙ってたって。なのに怖くて何にも見なかったフリをしちゃったから……だからこんなことになったんだ)
水路には船の残骸が漂い、ジュンのいる岸にも打ち上げられていました。それに混じって、船員たちの体の一部である骨も辺りに散らばっています。
ガイコツたちは自力では元に戻れません。海賊団は文字通り、バラバラになってしまったのです。
(僕がちゃんと話していれば、皆はもっと警戒していたはず……。きっとクラーケンにやられたりなんかしなかったのに……)
洞窟の中は微かに水音が響いている以外はとても静かで、まるで墓地のようでした。船は壊れ、仲間もいなくなったジュンは、そんな寂しい場所に一人きりになってしまったのです。
(僕……どうしたらいいんだろう……)
ジュンは唇を噛みました。
この洞窟中に散乱した皆の骨をかき集めて、ガイコツたちを元に戻してあげるべきでしょうか? でも、全部で二百人以上いるガイコツたちの骨を集めるなんて、きっと無理です。
それにガイコツたちが元に戻ったって、もう船はありません。彼らは海賊なのに船をなくしてしまったのです。
だけど、何もできないからといって、こんなところでぼんやりしているわけにもいきません。
だって、まだクラーケンが辺りをうろついているかもしれないのですから。あんな怪物に出くわしたら、今度はどんな目に遭わされるか分かりません。
恐怖と不安でいっぱいで、ジュンは泣きたいような気持ちになりました。顔をうつむけて、膝を抱えます。
その拍子に、岸に何枚かの紙が打ち上げられているのが見えました。何気なくその紙を手に取ったジュンは目を見開きます。
それは、流れ星を待つ間にジュンが皆に描いてあげた絵でした。
(ケンコウさん、ダイタイさん、キヌタさん……)
ジュンは色が落ちてしまった絵を一枚一枚、食い入るように見つめました。
彼らは皆、ジュンの大切な仲間たちです。ジュンが絵を描いてあげた人、そしてこれから描こうとしていた人たち皆が揃って、初めてガイコツ海賊団になれるのです。
ジュンは、自分もその一員だということを思い出しました。
「僕は……海賊……」
ジュンは呟きます。その瞬間に、ズガイ船長の言っていたことを思い出しました。
『海賊にとって一番大事なのは、船でも乗組員でもねえ。勇気だ。自分の欲しいものを実力で勝ち取る勇気だよ。それがあって、初めて一人前になれるのさ』
「海賊なら、自分の欲しいものは自分の力で手に入れないといけない」
ジュンは水面を漂う船の残骸を見つめます。
今何かできるのは自分しかいないと、ジュンははっきりと分かっていました。皆きっとジュンの助けを待っているはずです。
それなのに、こうしていつまでも洞窟の隅にうずくまっていてもいいのでしょうか? 仲間を見捨てるなんて、許されるのでしょうか? 一人前になりたいのなら、今こそ海賊に本当に必要なもの――『勇気』を出すときではないのでしょうか?
「ガイコツ海賊団の船員は、船長の命令に逆らったらダメなんだ……」
ズガイ船長は言っていました。「宝を取ってこい」と。
「船長の命令に対する答えは一つ」
ジュンはゆっくりと立ち上がりました。
さっきまでと違い、ジュンには自分が今から何をするべきか、はっきりと分かっていたのです。
「アイアイサー!」
そう叫ぶと、ジュンは駆け出しました。目指すのは、流れ星のかけらが眠っている洞窟の最深部です。