ジュンとゲンくん(1/1)
「あらあら、よく来たわねぇ!」
学校のお休みにジュンが家族とお母さんの実家に帰ると、玄関でおばあちゃんが出迎えてくれました。
「こんなに大きくなって! ええと、確かジュンちゃんは、この間のお誕生日で……」
十一歳になったよ、とジュンは言いかけました。けれど、隣のお母さんの腕から大きな泣き声が聞こえてきて、おばあちゃんはそっちに気を取られてしまいます。
「まあ、元気だねぇ、メイちゃんは!」
おばあちゃんは今年生まれたばかりのジュンの妹を、嬉しそうにあやし始めました。
「よしよし、メイちゃん。お母さんたちとお出かけ、よかったねぇ」
メイちゃんはギャンギャン泣いて、腕を振り回しています。お母さんは「今日はご機嫌ナナメね」と困ったような顔をしました。
「いいのよ、赤ちゃんはこれくらいわんぱくでないと!」
「でも、車の中でもずっとこんな調子で……。やっと寝付いたと思ったのに……」
自分を置いてけぼりにしてお話を始めてしまった二人の横で、ジュンは黙って立っていました。
すると、家の中から大きな声が聞こえてきます。
「おばあちゃん! 俺、遊びに行きたいよー!」
かかとを踏んだ靴を履いて玄関から顔を見せたのは、ジュンのいとこのゲンくんでした。ゲンくんもおばあちゃんの家に遊びに来ていたのです。
「あっ、ジュンだ!」
ゲンくんはジュンがいるのに気が付くと、楽しそうに走ってきます。
「ジュン、俺、今から公園に行くんだ! お前も来るだろ!? かけっこしようぜ!」
「え、ええと……」
ゲンくんはジュンと同じ歳です。でもゲンくんはジュンよりもずっと背が高くて、体も大きい子でした。ジュンはそんなゲンくんから目をそらします。
ジュンは足が速くありませんでした。かけっこなんかしても、すぐに負けてしまうに決まっています。
それに、ジュンは外で遊ぶよりも、家の中でお絵描きをしたり本を読んだりして過ごす方が好きだったのです。
「何だよ、その返事! ジュンは相変わらず大人しいなぁ! もっと俺みたいに堂々としてろよ! 何がしたいのか、はっきり言わないと分かんないだろ!」
ゲンくんはジュンの肩を軽く小突きました。その強い力に、ジュンはちょっとよろけてしまいます。
「よし、行くぞ、ジュン! 公園まで競争だ!」
ジュンはまだ公園へ行くとは言っていないのですが、ゲンくんは勝手に話を進めて、さっさと走って行きました。
ジュンはお母さんたちの方をチラリと見ます。二人は、「行かなくていいの?」とジュンに尋ねてきました。メイちゃんも、早く行ってこいと言いたげに大きな声で泣いています。
「う、うん……」
そんなふうに言われるとゲンくんと遊ばないといけないような気がして、ジュンも仕方なく走り出します。
けれど、おばあちゃんの家の庭を出ようとしたとき、何かが地面に落ちているのに気が付いて、ふと足を止めました。
「わあ……きれい!」
ジュンは目を輝かせます。それはジュンの小さな手のひらにすっぽりと収まってしまうくらいの大きさの、金平糖みたいな形をした薄い赤色の石だったのです。
「珍しい形と色……」
ジュンはその石をポケットに入れました。
外で遊ぶのもかけっこも好きではありませんでしたが、この石を見つけられたことで、そんな暗い気持ちも吹き飛びます。後でこの石の絵を描こうと思いながら、ジュンはゲンくんを追いかけて公園へと向かいました。