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僕だけの国

作者: SHIMA

とりあえずよろしくお願いします。

 ふぅ、と一息ついて珈琲を啜る。これが僕の憩いの時間だ。特に興味もないテレビをつける。またいつもの調子でコメンテーターが何か喚いてる。

 今日は知人と久しぶりに語らいながらお酒でも飲もうかと約束している。

 僕にだってお酒を飲む相手くらいはいる。ただ、語らいながらお酒を飲むと言ってもこの場にいるのは僕一人だ。相手は画面の向こうにいる。

 勘違いしないでほしいのは画面の向こうの相手というのは2次元のキャラクターなどではない。ちゃんと存在する人間だ。所謂オンライン飲みというものだ。

 さて、そろそろお酒の準備をしようかという時に携帯のアラームがなる。どうやらネットで注文していた品が届いたようだ。

 僕が何を注文していたかなんてそんなことはどうだっていい事だ。玄関を開けると荷物だけがしっかりと僕が開けるのを待っていた。

隣人の部屋からはいつも通り音楽番組の音が聞こえるし、正面にある家からは子供の声が聞こえる。楽しそうな声だ。

僕は荷物を拾い上げるといつも通りにサンダルを次に履きやすいよう向きを揃えて並べる。そう、いつも通りだ。

 今は世の中の流れ的にもできるだけ人との接触というものを避けるべき、となっている。

 なんでそうなったのか、一体何時から他人と会っていないのか、そんなこともとうに忘れてしまった。

仕事だって在宅でできる。話し相手だっている。運動不足も部屋でストレッチなどをしてれば気にならない。

少なくとも今のところ僕の生活に支障はきたしていない。それだけは確かだ。だから気にも止めていなかった。

ただ、改めて考えてみると漠然と不安になる気もする。

いつも話している相手は本当にそこにいるのか。テレビでいつも喚いているコメンテーターは存在するのか。どんな人がいつも荷物を届けてくれているのか。

当たり前すぎて考えたこともなかったようなことが脳を駆け巡り不安を掻き立てる。

不意に着信音が鳴った。いかん、もうそんな時間だったか。テレビ電話の画面にしていつものようにセットする。今日もちゃんと時間通り、やっぱりキチッとしたやつだな。

いつも通り会話は弾み楽しいひと時を過ごした。だがしかし、時折頭をよぎるさっきの不安。

ただいきなりお前は本当に存在するのかなどと聞いた日には頭がおかしくなったと思われるだろう。

そうだ、会ったことがないから不安になるんだ。家に行くか来てもらうかして実際に会えばそんな不安もなくなるだろう。

そこで僕は提案した。たまにはどちらかの家で会って飲まないか、と。

行くことは出来ないが来てくれれば構わないという返事が帰ってきた。

では次はそちらの家で、という約束をしてその日は通話を切った。

ああ、しまったな、家の場所を聞くのを忘れてしまった。まぁ明日聞けばいいか。

次の日私が電話をかけてみたがいよいよ出ることはなかった。何故だろう。いつも大体すぐに出たのに。たまたま忙しかったのだろうとメッセージだけいれておくことにした。

次の日、また次の日となっても返事が来ることはなかった。おかしい、そんなはずはない。僕は共通の知人に連絡をとってみることにした。

電話はすぐに繋がった。どうしたというので経緯を説明し連絡がとれなくなったと伝えたら不思議な答えが返ってきた。

そんな人は知らないというのだ。一瞬僕が酔っ払っているのではないかとも思ったが僕は今日一滴たりともアルコールは摂取していない。ありえないのだ。

一体どういうことなんだ。家に押しかけようとも場所を知らない。なぜあの時すぐに聞かなかったのか、僕は僕を呪った。

急に不安が押し寄せてくる。彼は最初からいなかったのではないか。だとすると共通の知人の彼もいないのか。さっきまで話していたのに。

ハッと我に帰った。そうだ今日は荷物が届く日だ。時間は指定していないがまだ届いていないということはこれから届くはず。

僕は急いで外に出た。荷物が1つ、そこにいた。同時に配達完了のアラームも鳴る。どういうことだ。

少し立ち尽くしていると不思議な感覚に包まれていく。

相変わらず隣人の部屋からは音楽番組が聞こえるし子供の楽しそうな声も聞こえる。だが変だ。本当にいつも通りに、いつも通り過ぎる。

記憶を必死に辿る。何気ない一瞬だったから今まで気にも留めなかったが、前回もその前も、それからもっと前からいつも聞こえる音楽は一緒だし、子供の声もいつもまったく同じトーンで同じように笑っている。

僕は隣人の部屋のインターホンを鳴らした。出てこない。ドアを叩いてみたが出てこない。

向かいの家にも同じように呼んでみたがまったく出てくる気配がない。



続く


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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