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第九話【7月18日・木曜日】

 家に帰宅。

 

「雪くん。おかえり~」

「ただいま」


 リビングに入ってそう返答しつつ、机の上を確認。

 今日の夕飯は……おぉ、洋風か。

 バターが塗ってある食パン。

 卵とハムを焼いたもの。

 そしてココア。

 

「今日はね、ちょっと節約してみたの」


 まあ確かに食パンも卵も比較的安いしな。

 それはありがたい。

 

「食パンなんて久しぶりに食べるような気がする。……すごく美味しそう」

「ほんとっ?」

「ああ。もしかしたら高校生になって一人暮らしを始めて以降、一度も食べてないかも」

「そっか。じゃあ作ってよかった」


 僕は床に座って「いただきます」と言うなり、早速食パンに齧りついた。

 サクッという食感に、バターの塩気。

 

「あぁ、美味い」

「私もいただきま~す」


 ゆうは箸を使ってハムを口へと運んでいく。

 そんな彼女の姿を見て、僕はふと学校の授業中に考えていたことを思い出す。

 ゆうの正体について。

 早速聞いてみよう。

 

「あのさ、ゆう?」

「ん? どうしたの?」

「今日ずっと悩んでいたんだけどさ。……その、やっぱり僕とゆうって幼馴染じゃないと思うんだよ。おそらく二日前が初対面だよね?」

 

 そんな僕の質問により、若干空気が重くなる。

 やはりゆうは自分のことは喋ってくれないだろうか。

 あまり詮索されたくないみたいだし。

 だけど一緒に過ごす以上、どうしても知っておきたい。

 ゆえにここで引くわけにはいかない。

 事情があるのであれば、別に他人でも構わない。

 ただ真実が知りたいだけだ。

 ゆうは三十秒ほど下を向いて黙っていた後、不意に何かを決心したような顔つきでこちらを見ると口を開く。

 

「……あのね! 聞いて欲しいの」

 

 僕はただ頷いた。

 

「今まで嘘ついてごめんっ。私、実は雪くんの幼馴染じゃない」

「……やっぱりか」

「もちろんいつまでも隠しておけるとは思ってなかったから、いずれ打ち明けようとは思ってたんだけど……」

「それで、結局ゆうは全くの他人だったってことになるのかな?」


 するとゆうは再び下を向き、顎に手を当てる。

 

「……う~ん。えっとね……その……」


 それから一分ほど経っても、ゆうからの返答がくることはなかった。

 僕は一度ため息をつき、笑顔を作ると、

 

「話したくないならいいよ。とりあえず幼馴染ではないとわかっただけでもよかったから」

「……ほんとにごめんね。……どうしても知られたくない事情があって」

「気にしないで」


 今回はこの辺でいいだろう。

 そもそも二日間一緒に過ごしてみた感じ、ゆうは悪い奴じゃない。

 むしろ気が利くし、一緒にいて楽しい。

 よく考えると、泊める理由はそれだけでいいじゃないか。

 ただひとつ気がかりなのは、出会った初日からずっと懐かしいような気がしてならないことだ。

 

 

 

 

 それから僕とゆうは同じ部屋で時を過ごし、やがてベッドへと寝転がる。

 相変わらず裸のゆう。

 なぜかもうすでに抱きついてきている。

 同世代のかわいい女の子が密着してくるのは非常に嬉しいのだが、すごくムラムラする。

 年頃の男子高校生にこれはきついな。

 

「ねぇ、雪くん。この光景を誰かに見られたら友達に見えるのかな?」

「間違いなくそれ以上だろ」


 下手をしたら恋人を超えている。

 

「ふふっ。そうだよね」

「あのさ、ゆう。今まで誰かと付き合ったことって、ある?」

「ううん、ないけど。どうしたの?」

「いや、なんとなく気になっただけ」

「ふ~ん」

 

 それから五分ほどだろうか。

 かなり長い沈黙が流れた。

 というかゆうが眠りについたと思い始めていた、その時。


「……雪くん。好きだよ」


 ほとんど吐息だけの声が微かに聞こえてきた。

 今……なんて?

 まあ、ここ二日間の言動からしてなんとなくそうなんじゃないかと思っていたけど、あらためて言葉に出して言われるとすごく恥ずかしいな。

 えっと、どう答えよう。

 僕も……好き、とか?

 いや、今はやめとこう。

 もちろんゆうのことは好きだけど、言葉として伝えるのであればもっとちゃんとした所で伝えたい。

 少なくとも、ゆうに言われたから流れで返したって感じにはしたくない。

 この選択が正しいのかどうかはわからないけど、もし言葉で気持ちを伝えることになったら、その時は告白もしたいよな。

 花火大会とか、夜の海岸がいいかも。

 で、それから恋人になって、その夜には……。

 顔が熱くなってきたため、それ以上考えるのを止める。

 とにかくここは寝たふりだ。

 少しの間寝たふりをしていると本当に睡魔が襲ってきたため、僕はそのまま眠りにつく。

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