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第八話【7月18日・木曜日】

 目が覚めると、ゆうの顔がめちゃくちゃ至近距離にあった。

 もう少し近ければ唇が触れ合っていたであろう距離。

 彼女の鼻息が妙に温かい。

 僕は一瞬驚きつつ、ふと今ならキスできるのではないかという考えを起こしてしまう。

 やってみたい。

 いや、でもファーストキスはお互いの気持ちが一致している状態でしたい……よな。

 だから我慢だ。

 顔を近づけようとするんじゃない、雪!

 そう自分に言い聞かせ、ベッドから出る。

 それから歯磨きとトイレを済ませ、そのまま学校へと向かった。

 

 

 

 

 学校へ到着すると、もうすでに僕の席には陽介が座っていた。

 彼は僕の姿に気づくなり、爽やかな笑顔を浮かべ、

 

「グッドモーニング、雪~」

「おう、おはよう」

「今日の放課後はカラオケどう?」


 陽介がそう尋ねてきた。

 二日連続で断るのも申し訳ないけど。

 よく考えたらあまりお金に余裕はないんだよな。

 なんせゆうがいるし。

 

「悪い。ちょっと事情があってアセットのバッファがあまりなくて厳しい感じかな」

「つまり、ガールフレンドでもできたってこと?」


 その言葉に一瞬動揺してしまう。

 なんでこいつわかったんだよ。

 いや、正確には違うんだけどさ。

 そっち系であることに間違いはない。

 

「……違う」

「嘘は良くないよ? 雪。本当のことを言わないならエスカレしちゃおっかな~」

「誰に何を報告するんだよ。……いや、そんなことよりさ、今日の体育って何するんだろうな」

「イシューをずらすのはだめだよ。俺に隠し事はなしだ。さぁ、言ってごらん」


 なんか面倒くせぇ。

 普段のお前の方が論点ずらしまくってるだろ。

 なんで僕はだめなんだよ。

 けど実際、陽介は妙に鋭いところがあるからな。

 下手な嘘を言ってもすぐにバレてしまうだろう。

 仕方ないから、ありのままに話すとしよう。

 ありのままに生きようとしたアリは、ありのままだったってよく言うし。

 自分で何言ってるかわからねぇ。


「女の子……であることは間違いない、かな?」

「えっ、それはファクトかい?」

「まあ、うん」

「それで、今日のphysical educationは、選択授業の最終日らしいよ?」


 なんの話?

 あぁ、さっき僕が尋ねた体育の質問の答えか。

 すごい論点のずらし方だな。

 ありがたいと言えばありがたいけど。

 

「へぇ、じゃあ今日も一緒に組もうよ」

「もちろん! どうせ俺も雪以外と組む相手いないしね。で、どんな子?」


 は? ……あぁ、さっきの話に戻ったのか。

 めちゃくちゃだな。

 

「ま、結構僕好み」

「え~、俺よりも先にガールフレンド作るなんて、羨ましいなぁ~」

「いや、まだ付き合って──」

「──そうなるとさ。今後雪のプライオリティは、俺よりもその子の方が高いってことになるわけじゃん?」


 話を遮るんじゃねぇよ。


「……」

「だとしたらちょっと寂しいけど……親友がハッピーになってくれるなら、それはそれでいいかも」


 なんか良いことを言っている。

 ちょっと陽介がかっこよく見えてきたぞ。

 いや、こいつは元々黙ってたらイケメンなんだけどな。

 

「あ、ありがとう」


 少し照れくさいと思いつつも素直にお礼を言うと、陽介は突然目をキラリと光らせ、


「ジャストアイディアがあるんだけど、聞いてくれない?」

「なんだ?」

「アニメの音声をイヤホンで聞きながら漫画を読むっていう作業をパラで行ったら、少ない時間で二つ同時に物語が楽しめると思わない?」


 いきなり何の話だよ。

 

 そんなこんなで陽介と疲れる会話をした後、授業が始まった。

 一限目は数学。

 普段から真面目に授業を聞いている僕は、毎回試験で六割ほど正解することができているほどの成績だ。

 つまり突発して良いわけではないけど、決して馬鹿じゃない。

 ちなみに陽介は、ずっと上位をキープしている。

 あいつマジで何なんだよ。

 授業中ずっと寝てるくせに。

 いつ勉強してんの?

 陽介って、人と会話をすること以外は全て完璧だよな。

 イケメンだし。

 頭いいし。

 喧嘩強いし。

 対して僕は、普通の見た目に、普通の頭脳、喧嘩は……したことがないからわからない。

 あれ? 決して悪くないはずなのに、自信がなくなってきたぞ?

 それはさておき、ちょっと気になることがあるんだよな。

 黒板に書かれている数式を眺めつつ、僕は考え事をしていく。

 そう、ゆうの件についてだ。

 かわいい女の子と一緒にいられることに関しては、嬉しいのだが……やはり幼馴染ではないような気がする。

 もう何度も思い出そうと試みてはいるのだが、ゆうという名前の女子は記憶の片隅にも存在していない。

 もちろん僕が忘れているだけという可能性もないことはないのだが、ここまで記憶にないことなんてあるのだろうか。

 だけど他人だとしたら、それはそれでおかしいと思う。

 どこか懐かしいような気がするという根拠のない感覚もあるのだが、普通見ず知らずの男子高校生に同棲まがいのことを頼むか?

 知り合いならともかく、一度も会話をしたことがない男子にそんなことをするのはあり得ない。

 でも現にゆうという女の子は僕の部屋に泊まっているわけで。

 ……どういうことだ?

 初めて会った時、ゆうは僕の名前を知っていた。

 現代の日本において、人の名前を調べる手段はいくらでもあるため、それは大して難しいことではない。

 つまり僕が見知らぬうちに記憶障害でも起こしていない限り、ゆうは他人である可能性が高い。

 あまり犯人探しというか、粗探しはしたくないんだけど、正直一緒に住んでいる以上どうしても気になる。

 ……じゃあ今日の夜にでも、思い切って聞いてみるか。

 おそらく彼女は嫌がるだろうけど、それでもきちんと知っておきたい。

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