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第五話【7月16日・火曜日】

 少しして。


「雪くん。洗い物終わったよ」

「おっ、ありがとう」

「で、見るアニメは決まったの? さっきからずっと悩んでるみたいだけど」

「……うん。候補がいくつかあって、このなかからゆうに決めて欲しい」

「どれ?」


 隣に座ってきたゆうにスマホの画面を見せる。

 ゆうはほとんど間を空けることなく、ひとつを指さして、


「これっ!」


 即答だな。


「長編アニメだけどいいの?」

「うん。私こんな感じの絵が好き」

「CLANNA〇は僕も見たことがないからわからないけど、評価を見る限り後半がかなり泣けるらしい」

「えぇ……。私結構涙脆いから泣いちゃうかも」

「僕は泣かない自信あるかな。……で、もう見る?」

「うん」


 それから僕とゆうの二人は、一気に九話まで見た。

 キリが良かったからである。

 僕は一度伸びをして、コップに入ったサイダーを一口飲み、


「泣くとまではいかなかったけど、割と胸が熱くなったな」


 後半はこれよりもやばいんだろ?

 だとしたら耐えるのは難しいかもしれないな。

 いやでも、僕ならいけるか?

 て、あれ?

 ゆうからの返事がない。

 疑問に思い横を向くと、ティッシュで目元を抑えているゆうの姿。

 

「ど、どうしたの!?」

「……ゆ、雪くん。ぐすっ」

「めちゃくちゃ泣いてる……」

「だっていい話だったんだもん」

「まあ、確かにな」

「あまり泣き顔見ないで。恥ずかしいから」

「あ、ごめん」


 謝って後ろを向いた。

 それから数分ほど沈黙が続き、やがて背後から声が聞こえてくる。

 

「……あの、私もう寝るね」

「あ、うん。わかった」


 ゆうの方を見ないようにしたまま答えた直後、パサッという何かが落ちる音がした。

 

「ん? 今の音は?」

「私、服を着てたら眠れないから脱いでるの」

「なんだ、そんなことか……て、えぇ!? 何してんの!? さすがにそれはまずいと思うんだけど」

「大丈夫だよ。雪くんになら別に見られても」

「泣き顔は恥ずかしいのに、裸は大丈夫なのかよ」

「うん。問題なし」

「問題あるわ」

「じゃあ私はお先に」


 そう言って、ゆうが布団へと入っていくような音が聞こえる。


「……マジかよ」


 僕は小さくそうつぶやきつつ、ゆっくりと後ろを振り返って先程までゆうが座っていた場所を確認。

 すると、そこには僕が貸してあげていた衣服。

 元々下着はつけていなかったため、Tシャツと半ズボンのみが床に落ちている。

 

「はぁ」


 ため息を吐きつつもその衣服たちを机の上に置いて部屋の電気を消すと、僕は床に寝転がる。

 絨毯の類がないため、普通に硬い。

 冬であれば耐え難いものだっただろうが、今は夏のため眠れないこともない。

 床に寝転がって二分ほど経った頃だろうか。

 

「あれ、雪くん?」


 不意にベッドの方からそんな声が聞こえてきた。

 

「どうした? 眠れないのか?」

「ううん、そうじゃなくて。雪くんもう寝るの?」

「まあ、うん。いい時間だし」

「じゃあ一緒に寝ようよ」


 なんだって?

 

「……は、裸の女の子と一緒に!?」

「そう……なるね。でも私は気にしないから」

「僕が気にするんだよ」

「本当に何も気にしなくていいよ。……それに私だけがベッドで寝るなんて申し訳ないし」

「いや、僕は男だから大丈夫だ。床でも問題ない」

「だめっ! じゃあ私が床で寝る」

「それこそだめだ。女の子を床で寝させるなんて」

「じゃあ一緒に寝ようよ。もし雪くん一人だけ床で寝るようなら、私もその隣で寝るからね」


 う~ん、このままじゃ埒が明かないな。

 でもいくら何でも、会って一日目でベッドを共にするってどうなんだよ。

 絶対に不味いよな。

 だがしかし向こうは了承してくれているわけだし、千載一遇のチャンスであることも事実。

 もしかするとこんな機会は二度とこないかもしれない。

 よし、決めた。

 とりあえず同じベッドで寝るには寝るけど、あまり引っ付かないようにしよう。

 それなら何も問題ないはず。

 半ば自分を納得させるように内心でつぶやき、口を開く。

 

「わかった。だけど、なるべくお互い離れて寝ような。いろいろと不安だから」


 主に僕の理性が。

 

「うんわかった」

「なら、ゆうはなるべく奥の方に寄ってくれ」

「……は~い」


 あまり納得していないような返事だったが、僕は特に反論することなく手探りでベッドへと向かった。

 そしてゆっくりと同じ布団のなかへ。

 さきほどゆうが寝転がっていたからか、布団が妙に暖かい。

 というか、横から微かに熱気が伝わってくる。

 これが肌の温もり……。

 それから僕は緊張して眠れないだろうと思っていたのだが、そんな内心とは裏腹に慣れないことばかりの一日で体は相当疲れていたらしく、わりと早めに眠りについた。

 わりとと言ったのは、何度かどさくさに紛れて生肌に触れてみようと考えてしまったからである。

 少し悩んだ後、結局理性が勝ちそのまま眠気に身を任せたのであった。

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