第三十話【8月10日・土曜日】
ゆうの風邪は二日ほど続いた。
途中お母さんから病院に行った方がいいと言われたが、ゆうが頑なに拒否したため、行くことはなかった。
病院代の遠慮でもしていたのだろうか。
そんなに気を使わなくてもいいのに。
ゆうが治ってから数日間は実家でのんびりと過ごし、とうとう今日。
僕とゆうはボロアパートへと戻ってきていた。
夏休みの宿題もやらないといけないため、あまり向こうに長居するわけにはいかなかった。
くまのぬいぐるみが見つからなかったのは残念だが、その話をするとなぜかゆうが悲しそうにするため、口には出さないようにしている。
「ただいま~」
「ただいま。……三日ぶりくらいだけど、なんか懐かしく感じるな」
リビングへと入りながらつぶやいた。
「うん、やっぱりここが落ち着く」
「そうか?」
「なんていうか、私たちの部屋って感じがするし」
「まあ、そうだな。……それよりも、今後体調が悪くなったら、すぐに言ってくれればいいからな?」
ゆうは俯いてつぶやく。
「……わかった」
「それじゃあ、帰ってきたわけだけど、何する?」
「う~ん。あ、そういえば雪くんは宿題しなくてもいいの?」
「やらないといけない……な」
「じゃあ私はお昼ごはんの材料を買いに行ってくるから、雪くんは宿題してて」
「いいのか?」
「いいよ」
僕は学校鞄を手に取り、なかからワークを取り出した。
今日は現代文だ。
さて、夏休みも折り返しまできているし、気合い入れないとな。
あっ、そういえば……ゆうっていつまでこの部屋にいるんだろう。
「ゆう、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「ん?」
リビングから出る直前に、ゆうがこちらへ振り向いた。
「いつまで僕の部屋にお泊まりするのか、正確な日程って決まってるの?」
「え? ……えぇっと、うん。一応15日かな?」
「そっか。寂しくなるな。……けどまあ、会えなくなるわけじゃないし、今度は僕が会いに行ってもいいし。なんとでもなるか」
「……だね」
そうつぶやいて、ゆうは買い物へと出かけて行った。
明らかに無理している微笑みを一瞬僕へと見せて。
次の日。
8月11日、日曜日のことだった。
ゆうの喋り方がおかしくなった。
気づいたのは、朝ゆうが起きてすぐのこと。
「雪くん。お……はよう」
という感じで、最初はわざとやっているのかと思ったが、昼前になっても同じような症状が続いていたため尋ねてみると、朝から口が上手く回らないとのこと。
喋りたいことをすぐに声にできないらしい。
よくわからないけど、不安だ。
とてつもなく嫌な予感がする。
次の日。
8月12日、月曜日。
ゆうの指が上手く使えなくなった。
料理中に包丁を床に落としたり、食事中に箸を何度も落とし始めた。
この日から、料理は僕がするようになった。
どうしちゃったんだよ、ゆう。




