第二十八話【8月4日・日曜日】
朝ごはんを食べ終え、僕とゆうは二階の部屋でのんびりとしていた。
さっき二十分ほどぬいぐるみを探したのだが、結局見つかることはなかった。
マジでどこに行ったんだろうな。
どうにも、もうこの家にはないような気がしてきた。
だけど、あるはずなんだよ。
実際見つかってないんだけどな。
ま、こうして悩んでても仕方ない。
ちょっと気分転換でもするか。
「ゆう。暇だし散歩でも行く?」
ベッドに座って本を読んでいたゆうに尋ねてみると、彼女は少しの間が空いた後、
「……ん? 雪くんなんか言った?」
「あ、いや。暇だから散歩にでも行かないか?」
「うん、行きたい」
「てあれ? なんか顔赤いけど、どうしたの?」
微妙に目も眠そうに見える。
「……そうかな?」
「お酒でも飲んだ?」
「ううん、飲んでない」
「だよな。まあ、しんどかったら無理しなくてもいいから」
「……私、雪くんとお散歩行きたい」
「おう。じゃあ、行こっか」
スマホと財布を持ち、ゆうと一緒に家の外へ。
この辺りは、僕が住んでいるボロアパートの周りに比べるとかなり田舎で、あまり特徴的なものがない。
田んぼばかりである。
だがアスファルトの道路はあるため、そこをのんびり歩くと案外気持ちがいい。
歩き出すのと同時に、僕はゆうへと視線を向け、
「なんかいろいろとごめんね。うちの両親……というか主にお父さんがフレンドリーだから、ちょっとうざいでしょ?」
「そんなことないよ? 楽しい人だと思う」
「そう言ってもらえると助かる。けど、嫌だったら僕に言ってくれればいいから」
「うん、ありがとっ。……あ、雪くんあれなに?」
「どれ?」
ゆうが指さしている先には、細長い茶色の小屋があった。
「ああ、あれは牛舎だな。たどり着いたら牛に餌をあげてみるか」
「勝手にあげていいの?」
「大丈夫……だと思う」
「怒られないかな?」
「やっぱりやめとくか。……というか昔一度怒られたことあるし」
「…………そっか」
あれは僕が小学生のころだった。
くまのぬいぐるみを抱きかかえて牛小屋へ遊びに行き、わらを牛に食べさせていると、おじいさんが大きい声を出して追いかけてきた。
あれは怖かったな。
急いで逃げたもん。
「でも見るだけなら良いんだよね?」
「うん、大丈夫……だと思う」
見るだけならいいよな?
あれ以来おじいさんがトラウマになって、あまり近づかないようにしているんだけど。
のんびりと会話をしながら歩き続け、やがて牛舎に到着した。
牛舎にはたくさんの牛が並んでいて……その牛に餌をやっているおじいさんもいる。
あの人怖い。
おじいさんは僕たちを見るなり、近づいてきた。
やばくないか?
「ゆう、もう行こうか。また怒られるかもしれない」
「えっでも、あの人そんなに怖そうじゃないよ?」
人は見かけによらないからな。
僕は怒鳴られたことがあるぞ。
結局おじいさんが間近にやってくるまで、僕たちは動かなかった。
おじいさんは真顔でゆうに視線を向けると、
「どうだ? 牛に餌やってみるか?」
「良いんですか?」
「ああ。藁を口に近づけてやると、むしゃむしゃ食べてくれるから楽しいぞ」
「じゃあやります!」
そう言ってゆうは牛のもとへと走っていく。
おじいさんはそのあとを追い、僕はそのおじいさんの後ろを歩く。
あれ?
なんでゆうだけ?
怒るどころか、餌やりをさせてもらえるって。
もしかしてこのおじいさん、めちゃくちゃ女好きなんじゃないのか?
昔の僕は男の子だったから嫌われていたのかもしれない。
いや、そうに違いない。
なんじゃそりゃ。
結局この日、僕が餌やりをすることはなかった。
一応やろうとしてみたのだが、藁を手に持った瞬間、おじいさんから無言で睨まれたから止めた。
まあゆうは楽しんでたみたいだし、いいか。




