第二十五話【8月3日・土曜日】
リビングへと降りてみると、お母さんも探すのを手伝ってくれているらしく、テレビの下の棚を覗き込んでいた。
ゆうは……出窓を眺めている。
外を見つめているのだろうか。
「お~い、ゆう。見つかった?」
そう尋ねてみると、ゆうはこちらを振り向いて首を左右に振り、
「ううん、どこにも。今雪くんのお母さんにも手伝ってもらってるんだけど」
「そうか」
僕はお母さんの後ろへ行き、
「そういえばお父さんは?」
「あの人なら今お風呂に入っていますよ。……それより、ちゃんと自分の部屋も探してみたの?」
「間違いなく探したよ。クローゼットのなかまで全部」
「でも、それならいったいどこに……。あれは雪の大切なぬいぐるみだってわかってたから、捨ててないし」
「じゃああるはずだよな」
「そうよね。まあとりあえず私は洗い物に戻るから、お父さんがきたら聞いてみましょ」
「うん」
お母さんは台所へと戻っていく。
さて、どうしたものか。
僕はゆうのもとへ向かい、
「手伝ってもらってごめんね。いったん休憩しよっか」
「……うん。私お茶入れるね」
「いいよ、今日はあくまでお客さんなんだし、僕が入れるよ」
「でもっ」
「ゆうはソファに座ってテレビでも見てて」
「う、うん。わかった」
それから少しして。
ゆうと二人でソファに座ってニュース番組を眺めていると、お父さんがお風呂から上がってきた。
お父さんの身体からは湯気が出ている。
僕はコップを机の上に置くとその場に立ち上がって、
「お父さん。僕が昔よく遊んでたくまのぬいぐるみ知らない?」
「……ん? あれか。いきなりどうしたんだ?」
「いや、久しぶりに見たいなと思って探してたんだけど、どこにもなくてさ」
「俺は知らんが……もう二階の物置は調べたのか?」
「うん」
「じゃあ……雪の部屋」
「探した」
「このリビング」
「探した」
「その他全部の場所」
「探し……てない場所はまだある」
「じゃあ頑張れ」
「手伝ってくれないのかよ」
「俺はゆうちゃんと話したいんだよ」
「お母さん! お父さんがゆうを狙ってるよ~!」
大きな声でそう言ってみると、台所の方から殺気を感じた。
「なんですって?」
「おい雪! お母さんになんてこと言うんだよ。ただでさえ今日は生理で機嫌が悪いんだから、刺激するようなこと言うな」
「あなた、殺しますよ?」
「…………て、おい! 冗談だよな? 頼むから泡のついた包丁を持ったまま近づいてこないでくれ」
「大丈夫ですよ。ちょっと頸動脈を斬るだけですから」
「それ、全然大丈夫じゃないからな?」
「うふふ」
「おいおい、目が本気じゃねぇか。やめろ! ゆうちゃんが怖がるだろ」
「ねぇ、ゆうちゃん。ちょっとそこの変態を抑えておいてくれるかしら」
「……プッ。わかりました」
ゆうは笑いを堪えるようにしつつ、逃げようとしているお父さんの前に立ち塞がる。
お父さんはさすがにゆうを突き飛ばしてまでは進めないらしく、おとなしくその場に立ち止まった。
さてと、ゆうも楽しそうにしているわけだし、僕は別の所を探しに行くか。
両親の寝室以外な。
今日の話を聞く限り、あまり行かない方がいいような気がする。
親が使ったゴミ箱の中身なんて見たくないしな。




