第二十三話【8月3日・土曜日】
辺りがもうすっかりオレンジ色に染まり始めていた頃。
実家に到着した。
ごく普通の二階建ての一軒家だ。
はぁ、それにしても。
車での移動はものすごく疲れた。
徒歩の方が楽だったんじゃないだろうか。
道中でお母さんと話したのだが、結局誤解が晴れることはなかった。
だって、事実だしな。
裸で抱き合ってるし。
キスだってしてるし。
最後には、「今度からは二人ともちゃんと服を着て寝るように」とのことで話し合いは終了した。
僕はともかく、ゆうは絶対守らないだろうな。
それよりも、お父さんが三股をかけていたことの方が驚きだ。
これで僕の性欲が強いのも頷ける。
むしろ我慢している分、僕はすごいのではないだろうか。
ハイエナが草だけを食べて生きていくくらいには偉業だと言えるはずだ。
「で、ここが僕の部屋だけど、狭くてごめんね」
ドアを開けながら、後ろにいるゆうへとそう告げた。
実家の自室は、ボロアパートのリビングよりも狭い。
勉強机やベッドはそのまま残っているようだ。
「ううん、私は全然。雪くんと一緒ならどこでもいいよ」
「……ありがとう。僕もゆうと一緒にいられたら押し入れのなかでも過ごせそうだ」
「ふふっ。雪くん……好き」
「僕もだよ」
雰囲気に流され、僕とゆうはその場でキスをした。
「お~い、雪。帰ってすぐで悪いが、ちょっとリビングの掃除…………すまん、邪魔したな。お母さんにはちゃんと説明しておくから、ごゆっくり」
お父さんがそう言いながら、廊下を引き返していく。
僕は慌てて唇を離し、
「ちょっと待ってくれ! 掃除をすればいいんだよな! 了解しました」
「安心しろ。お母さんに誤解を与えるような言い方をするだけだ」
「安心できねぇ」
「雪よ……お前、大人になったな」
「うっ……」
どう返していいかわからず、僕はお父さんを追い越して先にリビングへと移動し、お母さんのもとへと急ぐ。
「お母さん。で、何を手伝えばいい?」
「そうね……まずは布巾で机を拭いてくれるかしら?」
「わかった」
そこで追いついてきたお父さんが、リビングへと入ってきながら、
「なぁ、お母さん。さっき雪が──」
「──お母さんっ! 布巾ってどこにあるかな!?」
「なんですか、いきなりそんな大声をあげて。……布巾なら台所にあるわよ」
お父さんはにやにやとした表情で、
「さっき雪が部屋の前──」
「──ああー! あった。じゃあこれを水で濡らして机を拭けばいいんだな?」
「さっきから騒々しいわよ。静かになさい」
お父さんは顎に手を当て、
「雪とゆうちゃんが──」
「──よ~し、水で濡らしてと!! これでOK。さぁ拭き始めよう。すぐに済ませるから待ってて」
「雪。しつこく言わせないでちょうだい」
とそこでお父さんが大声で、
「雪がキスしてた!!」
「おぉっと、布巾が水分を含んだことによって……て、さすがにこれは隠せねぇ」
「…………」
少しの沈黙の後、お母さんは僕を一瞥し、それからお父さんの方を向くと、
「服さえ着ていれば、キスをしていても別に構いません。……それで、息子をからかうのはそんなに楽しいですか? 性欲猿」
「……えっ? なんで俺が怒られてんの?」
「好きな者同士が愛情を行動で示すのは当たり前でしょう。雪はあなたとは違って、ちゃんと考えて行動しているみたいですし」
そうだそうだ。
「いや、昔は俺だってお母さんとは避妊くらい」
「じゃあ私はどうして結婚前に子どもを授かっていたんでしょうね」
「……それはだな。ゴムが不良品だったんだろ」
「私が覚えている限り、一度として避妊具を使用された記憶はありませんけど」
なんだと!?
見損なったぞ、我が父よ。
「……はい。……そうですね」
「とにかく、あなたに雪をからかう資格は一ミリもないですから」
「すみませんでした……雪も、悪かったな」
と、そこでタイミングを見計らったかのようにゆうがリビングへとやってきて、
「あの~。私にもお手伝いできることはありますか?」
「あらゆうちゃん。じゃあ私と一緒にお料理を作りましょ」
「あ、はい! わかりました」
「それとひとつ。……雪はともかく、もしあの性欲猿が襲ってくるようなことがあれば、すぐに大きな声を出して私に知らせてね」
「は、はい」
ゆうの頷きを見て、お父さんは後頭部を掻きながら、
「なぁ、ゆうちゃん。お母さんの言うことは別に聞かなくていいか──」
「──お黙り!」
「はい、申し訳ございません」




