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第十九話【7月24日・水曜日】

「雪くん! 迷惑じゃなければ、今日雪くんと公園で遊びたい」


 目が覚めて三十分ほど宿題をしていると、ベッドから起きてきたゆうが突然そんなことを言ってきた。

 

「いきなりどうしたんだ? まあ僕は別にいいけど」

「ちょっと昔の夢を見ちゃって。……なんか公園で遊びたくなったの」


 ああ、そういうことね。

 どうせ家に籠ってても暇だし。

 ちょうどこのアパートの近くには公園がある。

 

「よしわかった。じゃあ、お弁当でも持って遊びに行こう」

「あっ、それいいね。……私が雪くんの分のお弁当も作るから、ちょっと待ってて」

「さんきゅー」

「雪くん何食べたい?」

「ゆうが作るものなら何でも食べたいけど……しいて言うなら、たまご焼きかな?」

「わかった! 任せて」


 なんか楽しくなってきたぞ。

 さて、僕も準備をするか。

 でも何を用意すればいいんだ?

 必要なものは、スマホ、財布、お弁当。

 あとは……特にないな。

 というわけで、ゆうがお弁当を作っている間に少しでも宿題を終わらせておくことにする。

 

 

 

 

 アパートから徒歩十分の場所にある公園。

 ここはさして広いわけではない。

 ブランコ。

 砂場。

 滑り台。

 幸か不幸か子どもたちは一人もおらず、静まり返っている。

 どうせ最近の子は、家でスマホやゲームばかりしているのだろう。

 周りには木が生えており、どこにでもあるような公園だ。

 そう、特に珍しくもなんともない公園なのだが、ゆうは目を輝かせて、

 

「うわぁ。アパートの近くにこんな良い所があったんだね」

「まあ、確かに自然に囲まれていて、落ち着くよな」

「私、ブランコに乗ってくる~」


 そう言ってゆうは走り出した。

 

「転ばないようにな」


 まるで子供のようなはしゃぎっぷりだ。

 夜に僕を誘惑してくるゆうと同一人物とは思えない。

 そういえば、昔はよく僕も公園で遊んでたっけ。

 一緒に遊ぶ同級生はいなかったが、くまのぬいぐるみと一緒だったから特に寂しいとは思わなかった。

 懐かしいなぁ。

 あのぬいぐるみ……まだ実家にあるはずだよな?

 捨ててないし。

 久しぶりに会いたい。

 ゆうに告白して正式に付き合い始めたら、一緒に実家へ行くか。

 で、その時にぬいぐるみを探して、久しぶりに遊ぶとしよう。

 僕が一番好きだったあのくまちゃんを、ぜひゆうにも紹介したい。

 そんなことを思いつつ、僕はゆうのあとを追ってブランコへと移動した。

 

「雪くん。こっちこっち」

「ブランコなんて久しぶりだな」

「雪くん。後ろから押してくれない?」

「おう」


 ブランコに乗っている彼女の後ろに回ると、背中に手を当てて押す。

 

「うわぁ、気持ちいい」

「まだまだこれからだぞ」

「もっと押して!」


 ブランコがこちらへと戻ってくるたび、背中を押して加速させていく。

 少しして。

 上がる角度が60度を超えたあたりから僕の方が怖くなってきたため、押すのを止める。

 それから隣のブランコに座ってゆうの方を向くと、

 

「楽しいか?」

「うん、楽しい」

「それはよかった」

「あとで雪くんも押してあげよっか?」

「いや、僕は良いよ。怖いし」

「ふふっ、男の子のくせに」

「べ、別にいいだろ」


 ゆうは、本当に楽しそうな笑みを浮かべている。

 一切の曇りもない。

 天気で例えるのであれば、快晴。

 そんなゆうが好きだ。

 出会った初日に一目惚れをした時よりも、更に【好き】が大きくなっている。

 ゆうと出会って、僕はずっと幸せだ。

 果たしてこんなに幸せでいいのだろうか。

 一生ゆうと過ごせたら、他に何もいらない。

 ……最近の僕、いつもゆうのことばかり考えてるな。

 そんな考えを振り切るように、

 

「よし、ゆう。次は滑り台に行こう」

「ちょっと待って! すぐには止まれないよ」


 ゆうが乗っているブランコは、まだ凄まじい速度で動いている。


「ははっ、先に行ってるからな」

「あっ、ずるい」

「嘘だって」

 

 僕はブランコから降りると、横から手を使ってゆうのブランコを減速させていく。

 案外時間がかかった。

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