第十六話【7月21日・日曜日】
陽介と二人でカラオケボックスに行き、多少の会話をしつつもそれぞれ好きな曲を歌っていく。
話を聞く限り、どうやら陽介は二股の維持に成功しているらしい。
そのうち一人は会話が楽しくなさそうとか言っていたけど、当たり前だろ。
お前と馬が合う奴なんてそうそういねぇよ。
てかもう一人はそんなこと言い出さないのな。
「おっしゃ! 音程性格率90パーセント乗った!」
採点の分析画面を見て、僕は思わず歓喜の声を上げた。
音程を狙って歌ったため、それが良い成績だったのは嬉しい。
「おぉ、エクセレント~。それで雪、最近彼女とはどうだい?」
いきなりぶっこんでくるなぁ。
本当は彼女じゃないんだけど。
陽介相手に否定するのも面倒だし、そう言うことにしておくか。
……そろそろ告る予定なのは間違いないし。
「まぁ、良い感じ」
「シングルベッドでトゥギャザーって感じ?」
「何を意味して言ってんのかは知らないけど、変なことはしてないからな?」
「アジャイルだねぇ」
「何が早いんだよ! 手出してないって。陽介の方はそっち系どうなんだよ」
「片方とはもうヤッたけど」
真顔でとんでもないこと言いやがった。
「お前の方がアジャイルじゃねぇか」
「でもさ、もう一人のディフェンスが固くて、一緒のベッドにも入ってくれないんだよね」
「それ絶対会話が楽しくないって言っている方の女の子だろ」
「あぁ~。マジメランコリー」
「別れたら?」
「ダメだよ、雪! 男ってのは二股してこそ意味がある」
「あほだ、こいつ」
「さぁ、雪よ。僕の美声を聴け」
そう言って陽介が選曲したのは、MAP 〇F THE SOUL。
普通にこの曲知らねぇ。
「ただいま」
そう言いつつ靴を揃えていると、リビングの方から良い匂いが漂ってきた。
「おかえり~」
同時にそんな声が聞こえてくる。
移動すると、ゆうが台所で料理をしていた。
「遅くなってごめん」
「ううん。言ってた時間丁度だし、別に謝らなくてもいいよ。で今日はね、スーパーで豚肉が半額になってたから、野菜炒めだよ」
「おぉ、いいねぇ」
「先にシャワー浴びてくる? あとで私と一緒に入ってもいいけど」
いや、さすがにゆうの前で裸になるのは……。
ちょっとどころじゃなくて、かなり恥ずかしい。
普通女子の方が思うはずなんだけど。
「先に行ってこよう」
そう言い残し、僕はシャワー室へと向かった。
いつも通り全身を入念に洗い、再びリビングへ。
すると、もうすでに机の上には晩御飯が用意されていた。
「おぉ、いつも同じことばかり言ってるかもしれないけど、美味そう」
「さ、好きなとこ座って」
「おう」
僕はベッドの近くの床に座る。
「じゃあ私はここに座ろっと」
そう言ったかと思えば、ゆうはあらかじめ机の上に置かれていた茶碗と箸を持って、僕のすぐ隣へと移動してきた。
彼女は床へと座るなり、僕の方を向いて「ふふっ」と微笑んできた。
何この子。
めっちゃ可愛い。
僕は思わずゆうの頭を撫でてしまう。
サラサラだ。
ゆうは気持ちよさそうに目を閉じつつ、僕の肩に頭を乗せてきて、
「……雪くん。良い匂い」
まあ入念に洗ったからな。
それはさておき。
最近のゆうがめちゃくちゃ甘えてくるようになった件。
この部屋で始めるイチャイチャ生活。
この素晴らしいゆうに祝福を!
ゆうとこれ以上の関係を望んでいるのは間違っているだろうか。
無理やり有名なアニメのタイトルに寄せようとしたら、何言ってるのかよくわからなくなった。
そんなことが言いたいんじゃなくてな。
何が言いたいかというと。
最近のゆう、マジでかわいい。
よし、決めたぞ。
僕は今から一週間以内に、絶対ゆうに告白する。
今すぐとは言えない僕の度胸を責めないでください。
「……雪くん。どうしたの?」
「なんでもない。さぁ、食べようぜ」
「うん」
僕は初めに野菜炒めを一口。
「美味い!」
「ほんと? ありがとう」
「うん。こしょうの量も僕好みだし」
「あっ、気づいてくれた? 私ちょっと前から雪くんが使うこしょうの比率を計算してたの」
「マジか。……僕結構適当に振ってたんだけど」
「そうそう。適当に振ってるのがわかったから、多めに振れば間違いないかなって」
「なんじゃそりゃ」
「ふふっ」
野菜炒めをもう一口。
そして口のなかにおかずが残っているうちに、白米をかき込む。
最高。
「そういえば、今日はどうだった?」
ああ、カラオケのことか。
「うん、楽しかったよ。陽介って奴と二人で行ったんだけどさ、途中で点数勝負をしたり、一画面ずつ交互に歌ったり、いろいろとあったな」
「……いいなぁ」
ゆうがそうつぶやいた。
「じゃあ今度一緒に行こう」
「えっ、いいの?」
「ああ。とは言っても、今月はあまり余裕ないし、八月分のお金を送ってもらってからだけど」
「うん! ……ふふっ、楽しみ」




