第十二話【7月20日・土曜日】
目が覚めると、ゆうが僕を強く抱きしめていた。
顔を僕の胸に押し付けてきている。
いつの間にか向き合っていたみたいだ。
ベッドから出られない。
だが、幸せだ。
僕は勇気を出してゆうの背中に手を回し、抱きしめる。
それからどのくらいの時間が経っただろうか。
冷房がついているのにも関わらず、密着していたためにだんだん熱くなってきた。
自分の背中に汗をかいている実感がある。
そしてそれはゆうも同じらしく、額から一滴の汗が伝ってきた。
それでも起きる様子のない、ゆう。
「全く、どれだけ寝る気だよ」
苦笑してそうつぶやきつつ、ゆうから離れてベッドから降りると、台所で歯磨きを済ませる。
その後床に座って机に向かい、とりあえず宿題をしようと数学のワークを取り出して早速一ページ目から解き始める。
案外目が覚めてすぐの方が集中できるものである。
頭が覚醒してくると、スマホとか本の誘惑に負けそうになるからな。
最初の方は簡単な問題が並んでいるため、かなり良いペースで進んでいたが、だんだん難易度が上がってくると、当然解くスピードは遅くなる。
教科書で公式を確認しながら計算して、答えを枠のなかに記入。
そんな作業を繰り返していくこと三十分。
「……んんっ」
ベッドの方からそんな声が聞こえてきた。
向くと、ゆうがちょっとだけ目を開けている。
「ゆう。おはよう」
「……ん? あ、雪くん! そういえば今日から夏休みだったね」
「ああ」
「おはよう~」
そう言いながらゆうはベッドから降り、僕と同じように台所へと向かって、僕と同じように歯ブラシに手を伸ばす。
そして僕と同じように歯磨き粉をつけ、そこで僕は違和感に気づいた。
……あれ?
「なぁ、ゆう?」
僕が問いかけると、ゆうは歯ブラシを口へ入れたままこちらを振り向き、
「どうしたの?」
「いや、それ僕の歯ブラシなんだけど」
「えっ……そうだけど?」
何その知ってて使っています、みたいな反応。
て、ちょっと待てよ。
今気づいたけど、よく考えたらこの家に歯ブラシってひとつしかないよな?
ゆうの分買ってなかったわ。
「えっと、今までそれで歯磨きしてたの?」
「うん」
マジか。
いや、僕は別にいいんだけどさ。
女の子はそういうの嫌なんじゃないかな……みたいなイメージがあったけど、この反応からして嫌ではないっぽいな。
好きな男子の歯ブラシって、こんな軽く使えるもんなの?
僕は若干動揺しつつも、
「そ、そうか。……まあ、ずっとこのままというわけにはいかないし、もう少し時間が経ったら日用品でも買いに行くか」
「あっ、行きたい!」
「決まりだな」
というわけで、午前十時頃まで一緒にアニメを見たり、会話をしたりして時間を潰した。
ザクザク。
僕たちが住んでいる地方にあるドラッグストアのチェーン店である。
医療品だけでなく化粧品、生活雑貨を扱っており、便利なお店だ。
場所はボロアパートから徒歩十五分と少し遠いが、散歩にもなってちょうどいい。
お店に入るなり、生活雑貨のコーナーへと向かう。
「さぁゆう。好きなのを選んでいいぞ」
「えっとね……じゃあこれ」
黒色の歯ブラシを指さして、ゆうが即決した。
「黒色は僕のやつと被るから、別の色にしないか?」
「えぇー。じゃあ、このピンクかな」
ゆうが手に取ったのは、たくさんある種類のなかでも一番安いものだった。
僕に気を使っているのだろうか。
それを受け取ると、かごに入れる。
「あっ、雪くん。私ちょっとお菓子見てきてもいい?」
「わかった。じゃあ僕は適当にその辺を見てるから」
「うん」
頷くなり、ゆうはすぐに走り去っていく。
まるで子供みたいだ。
そんなに欲しいお菓子でもあるのか?
さてと、僕はこれからどうしよう。
安売りの冷凍食品でも見に行くかな。
そう考えて歩き出す。
とは言っても、どこに冷凍食品があるのかわからない。
まあ適当に歩いていれば見つかるだろう。
幸い、このお店はそんなに広くないし。
少しの間、棚と棚の間を歩いていると、
「……ごくっ」




