第十一話【7月19日・金曜日】
食パンをオーブントースターに入れる。
フライパンにマーガリンを引き、多少温まったところでハムを入れて、塩とこしょうを男らしく振る。
うむ。良い匂いがしてきた。
「あっ、でもそうするとどうしよう! 私、朝苦手だから雪くんに朝ごはん作ってあげられない……」
「僕は元々食べない人だから、問題ない」
「でも体に悪いよ? ……私も食べないんだけどね」
「まあ、大丈夫じゃないか? 今まで体に何の影響もなかったし」
「ごめんね……」
「いいって。お互い食べない者同士、朝ごはんガン無視協定を結ぼう」
良い子のみんなは真似しちゃだめだぞ。
「ふふっ、何それ」
それから僕は焼いた食パンの上にマーガリンを塗り、塩こしょうの効いたマーガリン風味のハムを数枚乗せる。
床に座ってお皿を机に置くと、早速一口。
「……うん、美味い」
我ながら良い出来だ。
「良い匂いがする……」
台所でお皿を洗い始めたゆうが、こちらを振り向いてそうつぶやいた。
「ゆうも食べる?」
「食べたい……んだけど。我慢」
「ちょっとくらいなら太らないと思うけど」
「女の子の身体を侮ったらだめだよ? すぐに横に大きくなるんだから」
「へぇ、そう言うもんか」
それからあっという間に平らげると、フライパンを洗っているゆうのもとにお皿を持っていく。
「これ、お願いしていい」
「うん。任せて」
そんな彼女の言葉を聞き、学校鞄から宿題を取り出そうと踵を返したその時。
「あのさ、雪くん」
「ん?」
「今朝はありがとね」
「ん? 何が?」
「触ってくれて……ちょっと嬉しかったかも」
「えっ、なんで!?」
二つの意味を込めてそう疑問を上げた。
一つ目は、なぜそのことを知っているのか。
二つ目は、なぜ触られると嬉しいのか。
「……何でもない」
「そ、そうか」
後ろ姿しか見えていないが、ゆうの顔が赤くなっているような気がした。
それから僕とゆうは、古本市場に行って複数の小説と映画を購入。
家に帰宅し、見ている途中のアニメを視聴しつつ、夕方には晩御飯の買い物。
ゆうは焼きそばを作ってくれた。
その後更にアニメを見て行き、やがていい時間になってきたためベッドへ。
さて、今日もこの時間がやってきました。
二人で布団に入ってすぐ、裸のゆうが小さい声で話しかけてくる。
「今朝みたいに触ってくれていいよ?」
僕は彼女に背を向けたまま、
「……い、いや。それはまだ早いだろ」
「早いって言いつつ朝、手を出したくせに」
「あれは不可抗力だ。もうその話はやめてくれ」
「ふふっ」
告白……今がチャンスかな?
いや、なんか違うような気がする。
今はやめておこう。
そんなことを思っていると、突然ゆうが僕に抱きついてきた。
うわっ、やばい。
今マジで欲望が溢れそうになった。
我慢しろよ、僕。
ここで堤防が破壊されたら、止まらずに大災害になりかねない。
そう言いつつ、裸姿のゆうを頭で思い浮かべてしまう。
「……雪くん」
ゆうが耳元でつぶやいてきた。
「どうした?」
「雪くんの心臓、バクバクしてるね」
「そりゃー生きてるからな」
「ふふっ……音が普段より大きい」
「もうからかうのはやめてくれ。僕はもう寝るぞ」
「おやすみ。バクバク雪くん」
「おう、おやすみ。淫乱ゆうちゃん」
「ちょっと、それどういう意味?」
「僕はもう寝たから返答できない」
「起きてるじゃん」
「いや、寝てる」
「返事できてるもん」
「寝てる」
「……ふんっ。もう知らない」
そう言いつつも、ゆうは僕に抱きついてきているままだった。




