第十話【7月19日・金曜日】
目が覚めると、僕はゆうの背中に手を回していた。
どうやら眠っている間に抱きついていたらしい。
彼女の身体から腕を避けていると、不意に布団のなかが視界に入ってきた。
決して大きくはないが、確かに存在している二つのふくらみ。
ちょっとくらいなら触ってもバレないんじゃ……。
そんな煩悩をかき消すように一度深呼吸をしたが、再び布団のなかへ目が行ってしまう。
その直後。
二つのうちの片方に手を伸ばしてしまった。
頂上付近がコリッとしており、その他の脂肪はびっくりするくらい柔らかい。
「……んっ」
目を閉じているゆうからそんな声が漏れたことにより、ようやく我に返り、僕は慌ててベッドから降りた。
身支度を整えつつも、いろいろと考え事をしていく。
くそっ、どうしちゃったんだよ僕。
触るつもりなんてなかったのに。
ここ数日間我慢していた気持ちが抑えきれなくなったのだろうか。
いや、ゆうがかわいすぎるからいけないんだ。
正直クラスメイトの女子相手とかだったら余裕で耐えられる自信がある。
でもゆうのあどけない感じを近くから見ているとだめなんだよ。
触れたい。
抱きしめたい。
唇を重ねたい。
僕が守ってあげたい。
そんな感情が溢れてくる。
言わずもがな、恋だろう。
初日に見た時、一目惚れをしていた自覚はある。
そして、ゆう自身も僕に好意を寄せてくれているみたいだ。
つまり触っても問題ないのではないかという考えが頭をよぎるが、すぐに振り払う。
それは良くない。
手を出す前にすることと言えば……告白だろ。
ちゃんと自分の気持ちを言葉で伝えないと。
話はそれからだ。
だから告白……してみるか。
ここまで積極的になれたのは初めてだ。
僕は本当にゆうのことが好きなんだろう。
容姿だけじゃない。
性格や普段の立ち振る舞いもすごく好き。
会話も弾むし。
ずっといたいと思う。
喜んで仕事をして、ゆうを養ってあげたい。
けど、それもこれも告白をしてからだ。
よしっ、近いうちに頑張るぞ。
学校へ行き、終業式を終えた。
「これで夏休みに関する連絡事項は以上だ。じゃあみんな羽目を外し過ぎないように、だが、楽しく過ごすんだぞ。自分の思ったことは何でもやっていいんだ。それが夏休みというものだ! ……俺は学校で仕事があるがな。……はぁ~」
そう言いつつ、担任の先生は教師をあとにした。
他の生徒たちはそれぞれ行動を開始する。
一目散に帰る者。
まだ机に残り、勉強をする者。
男女でいちゃいちゃしながら会話をしている者。
いや……羽目を外し過ぎないようにと言った直後に、自分の思ったことは何でもやっていいって。
矛盾してんじゃねぇか。
というか先生……お疲れ様です。
僕たち生徒はのんびりと過ごすんで、お仕事頑張ってください。
内心でそんなことを思いつつ鞄を手に取って帰ろうと廊下に出ると、後ろから陽介の声。
「スノウ~。サマーバケーション、タノシンデネ~」
「いや、最後の方英語になってないから。というか最初のスノウって、僕の名前のことか」
「それじゃあ雪。夏休みの間、リベラリズムで!」
自由に過ごせってことだよな?
言われなくても、楽しい長期休暇にするつもりだ。
なんせ僕には、ゆうがいるから。
「おう。そっちもな!」
「もちろんだよ。なんせ俺昨日、新しいガールフレンズができちゃったし」
ガールフレンズって。
まさかユ〇ミンの曲名ではあるまい。
「お前……複数ってことか?」
「そうそう! 夏休みだし、二股くらいOKだよね?」
「バレてしまえ」
そんなこんなで今日の学校は昼前に終わった。
僕は真っすぐボロアパートへと帰宅し、なかへと入る。
「ただいま~」
靴を揃えながら言うと、向こうの方から「えっ」という声が聞こえてきた。
リビングへ移動すると、そこではゆうが一人で食パンを食べていた。
彼女は驚きの表情を浮かべている。
「あれ? 今日ってもしかして終業式だった?」
「あ、うん。そうだけど……言ってなかったっけ?」
ゆうは一度頷き、
「ごめん……知らなかったから、昼ご飯用意できなかった」
「いいよ。食パンならニ、三分で焼けるし」
「そうじゃなくて、雪くんが帰ってくるのを知ってたら、おかず作ってたのに」
「……そういえば、ゆう一人の時ってあまり食べないの?」
「うん。あまり食べちゃうと太りそうだから。昼は抑えるようにしてるの」
「へぇ」
「あっ、ちょっと待ってて。昼ご飯用意するから」
そう言ってゆうが立ち上がろうとしたため、
「いいよ、食べてて。自分で作るから」
「えっ……でも」
「食べてる途中でしょ? 食パンって冷めたら美味しくなくなるし」
そう言いながら、冷蔵庫からハムとマーガリンを取り出す。
「……ごめんね」
「気にしないで。それよりも今日から夏休みだから」
「あっ、そうだね。じゃあこれからはずっと雪くんと一緒にいられるのかな?」
そうなんだけど。
改めて言葉にされるとすごい照れる。
「うん」
「そっか。嬉しい」
僕もだよ、と口に出す勇気が湧かなかった。
僕の甲斐性なし!




