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第一話【7月16日・火曜日】

もう書き終えているので、テンポよく投稿していこうと思います!

(ゝω・´ )

 僕が茶髪の少女と出会ったのは、暑い時期の七月中旬には珍しい雨の日のことだった。


「えっ……」


 中学生ほどに見える少女が、ボロアパートの二階へと続いている階段にずぶ濡れで座っていた。

 目を閉じて、階段の手すりへともたれかかっている。

 濡れているせいで着ている水色のワンピースが肌に張り付いているのは、少し離れていても鮮明にわかった。

 普通ではない。

 まさか服を着たまま雨をシャワー代わりにしていたわけではないだろう。

 仮にそうだったとしても、びしょ濡れのまま眠っていたら風邪を引いてしまう。


「とにかく起こそう」


 僕は傘を閉じて階段を上がると、彼女の華奢な肩を揺らしながら声をかける。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 すると少女はゆっくりと目を開け、

 

「う、うぅ……ん? あっ!」


 僕と目を合わせるなり急に笑顔になった。

 その様子を不思議に思い、僕が「どうしたの?」と尋ねると、彼女は首を傾げ、

 

「君……南条(なんじょう)(ゆき)くん……だよね?」


 南条雪。僕の本名だ。

 知っているということは、知り合いか?

 いやでも見覚えはない。

 

「……どうして僕の名前を?」

「私のこと覚えてない? 幼馴染の……ゆう、だけど」


 幼馴染のゆう。

 そんな子いたか?

 

「……えぇっと、苗字は?」

「それより……ちょっと話したいことがあってね。とりあえず家のなかに入れてもらえないかな……なんて」


 ゆうと名乗る少女はそう言って下を向いた。

 

「あっ、ごめん! 確かにそんなずぶ濡れで風邪を引いたら大変だよな。えっと、一人で歩けそう?」

「うん、大丈夫」


 そう答えておぼつかない足取りでその場に立ち上がると、彼女は一度僕に頭を下げて口を開く。

 

「突然変なお願いしちゃってごめんなさい。けど、今日はどうしても雪くんに会いたくてきたの」

「ぼ、僕に会いたくて!?」

「うん」

「と、とりあえず話はあとで聞くから、僕の部屋に行こうか」


 動揺を隠すように彼女を追い越すと、そのまま階段を上がって一番端っこにある部屋へと移動した。

 家賃が格安なだけあり、この部屋はかなり狭い。

 浴室と、トイレと、リビングがあるくらいだ。

 けど学校まで徒歩で五分で行けるため、それなりに良物件だと思う。

 そもそも両親に無理を言って一人暮らしをさせてもらっているため、文句を言える立場じゃないんだけどな。

 玄関に入るなり、僕はひとつのドアを指さして口を開く。

 

「あそこが浴室だから、とりあえずシャワーをどうぞ。僕は何か着られそうな服を探しておくから」

「ごめん。ありがとう」


 彼女はそう言い、クロックスを脱いで真っすぐ浴室へと向かう。

 ……このクロックス、明らかにサイズが大きい。

 足のサイズと合っていないのは確かだ。

 何か訳ありなのは間違いないだろう。

 それはともかく、

 

「女の子が着られそうな服を用意しないとな」


 リビングへ向かいつつ、僕はふと考えてしまう。

 あの子かわいかったな。

 前髪は目の少し上あたりで真っすぐ整えられており、好きなタイプそのものだ。

 それでいて僕の幼馴染だというのだから、最高である。

 だがそれは本当に幼馴染であればの話だ。

 正直ピンときていない。

 基本的に幼稚園の頃の同級生までうっすらと覚えてはいるが、ゆうという名前の女の子がいた覚えはない。

 だけど、どうしてだろう。

 ゆうを見ていると、どこか懐かしいような気がする。

 

「となると、幼稚園へ入学する以前に出会っている。もしくは……あの子が偽名を使っている?」


 そこまで言って、僕は考えるのを止めた。

 あまり人を疑うのはよくない。

 ましてや自分好みの女の子が、何か下心を持って近づいてきたなんて思いたくなかった。

 

「まあ単純に僕が忘れているだけかもしれないけどな」


 それもこれも、あとで彼女に直接話を聞いてみればわかることだ。

 僕は部屋のエアコンをつけた後で、クローゼットから彼女が着られそうなTシャツとズボンを用意し、浴室へと向かう。

 すると、シャワーの流れる音が擦りガラスの扉越しに聞こえてきた。

 なるべく変なことを考えないようにしつつ、

 

「ゆうさん。服ここに置いておくから」

「あ、ありがとう」


 その返事だけを聞いて、僕は浴室をあとにする。

 ラッキーハプニングは特に起こらなかった。

 ま、現実はこんなものだろう。

 それよりも、彼女に何か食べ物を作ってあげるか。

 あんな所に座って待っていたのだから、きっとお腹が空いているだろう。

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