盲目な俺と彼女
「何も見えないの」
彼女は閉じていた瞼を開けてそう言った。しかしそこにあったのは濁って決して何も写すことのない瞳。もう見慣れたものだ。
「知ってた」
「そうなの? なんだ、緊張してた私が馬鹿みたいじゃない」
俯く俺に目を閉じてケラケラと笑う彼女がどんな顔をしているかは分からないけど、きっと曇りのない顔してるのは分かった。
だからかな、また聞いてしまう。
「どうしてそんなに楽しそうに笑えるんだ? 」
少し広いこの部屋には不釣り合いな程小さく、自分ですら聞こえない様な声。だけど彼女はしっかりと聞こえていたらしく困ったようでいて嬉しそうに答えた。
「そんなの決まってんでしょ」
あぁ、知ってる。
「今が楽しいからな! 」
「そうか……」
無い胸を張りながらそう答える彼女が眩しくて眩しくて、未だに俺は顔を上げれないでいた。
それからはたわいもない話をして俺は帰った。光の指さない帰路でいつも思う。きっと明日も、明後日もこれからもずっと彼女の元に向かうのだろう。
だから……
「何も見えないの」
今日も繰り返す。