八のお話
小さく「クスクス」と誰かが笑っている。
誰も喋ることなく進んで行く。
「…あれ…」
副島が前を指差した。何かがトボトボ歩いている。あれは…
「うさぎ…」
後ろ姿しか見えない。長い耳だけが血のように赤い喪服のような格好の二足歩行うさぎだ。薔薇の広場にいたウェイトレスうさぎと大きさは一緒くらいだ。うさぎは手に持った懐中時計をチラチラ見ながら歩いている。
「時間…、…」
うさぎはぶつぶつ何か言っているが声が小さくて聞き取れない。私たちはうさぎに気づかれないようついて行った。
しばらく歩くとうさぎがぴたっと立ち止まった。私たちも慌てて立ち止まる。
「そ……、……んだ……、…っと………」
うさぎはずっと何か言っている。その声はとても懐かしく、寂しい感じの声だ。あの声に似ている。
「ごめんね、……き…く………て…」
最後にそう呟きスウっと消えた。
「なんだ…あれ…」
東村がうさぎがいた場所より少し先の何かを指差した。そこには妙にカラフルで不気味な門があった。
4人は走って近づく。
「あ…、なにこれ。『この中で一番我慢強いのはだ〜れ?』だって」
何かを見つけた副島が書かれた文を読み上げた。
「我慢強い?何で?」
「わかんないよ、東村とかじゃない?」
「俺?」
3人で話し合いが進んで行く。この中で一番我慢強いのは私と思うがな。なにも言わないでおこう。
「じゃあ、東村でいいね」
「うん」
ガチャリ
門の鍵が開く音が聞こえた。東村が門を押すとギィギィと嫌な音を立てて開いた。門の奥を覗くと、そこはカラフルで賑やかな世界だった。しかしどこか気味が悪く時々色が無い場所がある。
「怖い…」
副島がポツリと呟く。4人は門を潜り立ち止まった。
大きな大きなメリーゴーランド、大量の小さな観覧車、短い輪の上を走るつまらないジェットコースター、遊園地のような場所だ。人や動物の姿はなく、変なアトラクションだけが無意味に動いている。
「どんだけ観覧車あるんだよ…」
東村が呆れたように呟いた。観覧車か、最近乗ってないなぁ。最後に乗ったのはいつだろう、誰と乗ったんだろう。全然思い出せないなぁ。
「何か動いてない?」
副島が中くらいの観覧車の後ろの小さな観覧車を指差した。何かが動いている。
4人は慎重に近づいた。
「…風船…だな…」
観覧車に巻きついて、ゆらゆら揺れていたのは水色の猫の顔のような風船だった。あの木に引っかかっていたストラップに似ている。
水色の猫……、思い出せない。私はこれを知っている。
「うわっ!!」
副島が触ろうとしたら風船はパチンと割れた。そして中から紙が一枚出てきて地面に落ちた。副島がそれを拾い上げる。
「……わ…何これ…」
紙にはクレヨンで絵が描いてあった。紫の何かと黒い何か、真ん中に笑った女の子だ。これって…
「……」
私が小さい頃描いた絵じゃん。皆んなめっちゃ見てるじゃん。恥ずかしい。何でこんなところにあるのさ!?やめてよ!!
出雲はチラッと3人の顔を見てみた。東村と副島は不思議そうに見ていた。だが藤原の様子がおかしい。
「…っ……」
「なお、どしたん?体調…悪い?」
顔が真っ青で呼吸が乱れている。何かあったのだろうか…、私の絵が気持ち悪すぎたのだろうか…。
「何でも…ないよ…」
「いや…でも…」
副島はそれ以上何も言わなかった。
「遊んでいかないのですか?」
チェシャ猫が現れた。チェシャ猫はさっき観覧車に巻きついていた風船を片手に五つほど持っていた。
「遊ぶってお前、やっぱ頭おかしいわ…」
「おかしくないですよ?」
薄っすら笑ったチェシャ猫は普通に返す。東村は舌打ちして向こうを向いた。
「これから…どこへ行けばいいの?」
私はチェシャ猫に聞いてみる。またお城を目指して歩けみたいなことを言われるのだろうか。
「そうですね…、灰色の薔薇を探すといいんじゃないですか?誰かがいい情報をくれるかもしれません」
意外にもいい事を教えてくれた。
「それじゃあ、頑張ってくださいね」
またチェシャ猫はどこかへ行こうとする。
「あ…待って…」
なぜか私は呼び止めてしまった。チェシャ猫は薄っすら笑って振り返る。
「あの…どこへ…行くの?いっつも…」
私は慌てて適当な質問をした。チェシャ猫の長くて黒い前髪の隙間から少しだけ見える目がとても優しく笑った。
「どこへも、行きませんよ?ずっとあなたのそばにいますよ…」
チェシャ猫は私だけを見てそう言った。そしてすぐに消えてしまった。
不思議だ。なんだろう、すごく懐かしい気がする。
「あーあ、意味わかんねー。何だっけ?灰色の薔薇探せばいいのか?」
「そうじゃないの?」
東村と副島が話す。藤原は副島の腕にしがみついている。
4人は灰色の薔薇を探しながら歩き出した。
変なところあったらすみません。あとで色々直します。




