八十三のお話
「みっきー…帰っちゃったら…もう二度と私たちに会えないんだよ……」
「……うん…」
「みっきーが…帰っちゃったら私…私たち消えちゃうよ…?私たちなんて忘れられちゃうもん……」
モエカは必死で涙を堪え、震えた声でそう言った。
「…私は絶対忘れない。だから…あなたたちは消えないの。…ちょっとの間、事故で記憶なくしてたけど…ちゃんとみんなのこと思い出せた。こんなにたくさん…家族とよりたくさんの思い出を作った…この不思議の世界は、私の大事な大事な宝物…。だから…安心して…」
静まり返った調理室には、モエカの寂しい泣き声が響いた。
言いたいことはいっぱいあっても、それをうまく文にして口に出せない。自分の頭の悪さにつくづく呆れる。
「…ヤダ…ヤダヤダヤダァ!!!私、みっきーとずっと一緒にいたいよぉ!!やっと思い出してくれたのに……もう…お別れなんて…」
「…ごめんね…私がもっと早く思い出せてたら…」
モエカは何も言わず、ただただ涙を流して俯いている。
「あのー…、泣いてるとこ悪いんだけどさ、鍵の場所教えてくんない?」
アールが寂しい空気をぶち壊すようにそう言った。なんてやつだ…
「…なんだ貴様…」
モエカは涙拭き、鬼のような形相でアールを睨みつけた。アールは動揺することもなく、真顔でモエカを見ている。ヤバイことになりそうだ…
「鍵の場所、教えてって言ってんの」
「お前みたいなやつに教えるかよバーカ」
バチバチと二人の間に火花が見える気がする…
「はっ、実は鍵の場所知らないんだろ?ゴミ屋敷女め」
「知ってるに決まってんだろ!!このド変態吸血鬼が!!」
飛び交う二人の罵声。どんどん声が大きくなっていく。これでは外に声が漏れて居場所がバレてしまう…
「二人とも…」
「じゃあ言ってみな、腐れゲス泣き虫」
「んだとコラ、オメェなんかに言うもんか!!このクズアホマヌケ!!」
止めに入ることが出来ない…。私は死神さんをチラッと見た。死神さんはニヤニヤ笑いを堪えて二人を見ていた。
笑っている場合じゃないだろう!と私は心の中で叫んだ。
「やっぱ知らないんだ〜、料理長のくせに知らないんだ〜!そしてなんだその罵倒?語彙力ないかよ(笑)」
「うっせぇ知ってるわ馬鹿野郎!鍵は大鍋の下だよバァカ!!」
……
大鍋の…下…
モエカはハッとして口を押さえた。…もう遅い。怒りすぎて何も考えず、つい口走ってしまったようだ。
アールは勝ち誇ったような顔で私をチラッと見た後、ニヤッと意地悪く笑って焦るモエカを見た。
「大鍋の…下かぁ…大鍋の…下ねぇ…」
また意地悪くアールはニヤニヤしてモエカに言った。
その大鍋は多分モエカの後ろの棚の上にあるやつだろう。少し斜めになっている。
「料理長さんはとっても口が軽いんだねぇ〜、おバカさんは君の方だよ?そこに隠したのも料理長さんなの?おチビなのに手、届いたのぉ?あっ、踏み台を使ったのかぁ〜!おチビでおバカな料理長さん♪」
何が楽しいのかアールはモエカを罵る。モエカは顔を真っ赤にしてアールを睨んでいる。
「死ねクソ吸血鬼!!」
モエカは後ろのまな板に刺さった二丁の包丁を取り、アールめがけて勢いよく投げつけた。アールはそれをするりと簡単に避けた。モエカはそれにまた腹が立ったようでまな板も投げつけた。が、それもかわされてしまう。
「命中率低すぎやな、ガキンチョの攻撃だ」
「アールさん、早く鍵を」
遊ぶアールに死神さんは言った。アールは手でOKを作った。
「鍵は渡すもんか!!」
「もらってくよ」
「!?」
モエカが、大鍋の下の鍵を取ろうと手を伸ばした瞬間、アールはすぐさま肩を踏みつけ床に倒した。それと同時に死神さんが鍵を取った。
「貴様殺す!!殺してやる!!」
「うわ、あっぶねぇ」
モエカは落ちていた刺身包丁で、アールの足を突き刺そうとした。アールは間一髪、ジャンプでかわした。
「二人とも先に行きな〜、こいつは俺が止めとく」
「分かりました」
私は死神さんに手を引かれ、床に散らばったものを避けながら扉に向かう。
「待ってみっきー!!」
モエカは叫んだ。
「…ごめんね…」
それだけ言って私と死神さんは部屋を出た。本当に申し訳ない…。もっと色々お話ししたかった…
「お前のせいで……もっとみっきーとお話ししたかった!!」
「自分のせいだろバーカ」
調理室から二人の怒声と食器の割れる音、ガランガランと鍋の倒れる音が聞こえる。きっと中ではものすごい戦いが行われているのだろう。
変なところ後で直します…




