八十のお話
「この時計でね、少しだけど元の世界を見ることができるの…親にも…会える…」
「え……」
時計の針はカチカチとゆっくり、静かに動いている。
「多分…一分…くらい…。それでもいいなら…使って…」
「……うん」
私はその時計を受け取った。
うさぎは寂しい目で私を見ている。
「いってらっしゃい…」
「わっ!!」
うさぎの言葉と共に時計は白い光を放った。私はその光に飲み込まれた。
痛い…頭…、肩が岩みたいに重い……胸が張り裂けそうなくらい苦しい…
ぼんやり見える…本当にぼんやり…。なんだろう…ここ…
オレンジ色と…灰色…?
『…い……で……』
聞き覚えのある声…
目の前に薄っすら誰か見えた。
お母さん…?
地面に崩れ落ち、泣きながら何か言っている。また、私…悪い事しちゃった…?
『お願い……お願い……』
何を願っているの?なんで泣いているの?聞きたいけれど声が出ない。
『許してくれなくていい……それが当たり前……私は許されない事をした…。大事な大事な自分の子供に…怒ってばっかりで……今まで何もしてあげられなかった…』
私は今、どうなっているの?全てがぼやけていて何も分からない…
『私がちゃんとしていれば…蒼馬も死なずにすんだかもしれない……全部私のせいなの…。お願い…戻ってきて……私のことずっと大嫌いでいい……それが当たり前なの…なんて言っていいか分からない……ねぇ…お願い……』
『生きて…』
私はまた白い光に飲み込まれる。
「…あ……」
目を覚ますと私は真っ白な細い廊下にいた。うさぎはいなくなり懐中時計もなくなっている。
「お母さん…」
帰らなきゃ…
私はすぐに立ち上がり、歩き出す。
もういいよ、自分。何も考えなくて……。考えるのは、無事に元の世界へ帰ってから……
「…」
T字の分かれ道。私はなんとなく左を選んで進む。
「あ…」
可愛い花柄の扉を見つけた。私はそっと扉を開け、中を覗く。
「廊下…?」
広く真っ白な床と壁、窓もあって明るい。私は静かに扉の外へ出て辺りを見回した。
「誰も…いない…」
ゆっくり、音を立てないように歩き、近くの窓から外を見る。多分三階くらいの高さだ。
元の世界へ帰る扉はお城の奥…きっと一階…いや、もしかしたら地下があるかもしれない…。階段を探そう。私は右の方へ歩き出す。
「曲がったら…いきなり刺されたり…しないよね…」
ゆっくりゆっくり、警戒しながら角を曲がる。
「…ふぅ……」
よかった。何もなくて……
「あれ…?」
前の方に見覚えのある人が歩いている。
白い立派な帽子、薄紫色の髪、高級感のある服を着た背の高い人……
「リアン!!」
帽子屋のリアンだ。私が名前を呼ぶと、リアンは振り向いてパァッと笑顔を見せてくれた。私は走ってリアンの元へ行った。
「どうしてこんなところに!?」
「ん〜?たまたま〜!」
リアンは私をぎゅっと抱きしめてくれた。フワッと薔薇と紅茶のいい香りがした。
「みぃはなんでここに?王子様はどうしたの?」
「そうだ、ねぇリアン助けて!奥の扉の場所を教えて!!」
リアンはフッと微笑んで私の頭を撫でた。
「どうしてそんなもの探すの?それより見てこれ〜」
そう言ってリアンは、胸のポケットから可愛い包紙のキャンディを取り出し私に見せた。
「可愛いでしょ〜、美味しいから食べてみて〜」
リアンは私にキャンディを渡した。何味だろうか気になるが、今はそれどころじゃない。
「後で食べるよ、ねぇお願い教えて」
「えぇ〜ヤダ〜、先に食べて〜」
そう言いながら、リアンは私の手の上のキャンディを取り、包紙から中身を出した。キャンディは血のような赤、イチゴ味とかじゃなそうだ…本当に血の味がしそうであまり食べたくない。
「はい、あ〜ん」
「いやっ、ちょっ…待って…」
私が食べるのを拒むと、リアンは突然私の顎を掴み壁に押さえつけた。
「リ…リアン?痛いよ…」
「ごめんね〜、ほら、口開けて」
これは絶対食べたら死ぬやつだ…
私はすぐに分かってしまった。絶対に食べたら死ぬ…
私が口をぎゅっと閉じて抵抗すると、リアンは頬をムギュッとしてくる。無理矢理口を開かせる気だ。
「ね〜食べてよぉ〜、美味しいから!あっ、毒なんて入ってないのよ」
嘘だ、絶対嘘だ…
どうする…逃げられない…
変なところ後で直します。




