七十八のお話
「みぃ、その服すっごく似合うよね〜」
「え…えへへ」
自分ではこんなフワフワの可愛い服、絶対に似合わないと思っていたので、そう言ってもらえるととても嬉しい。
「お兄ちゃんもすごく似合ってる〜、本物の王子様みたい」
「アハハ、そう?嬉しいなぁ〜」
なんだかとても眠くなってきた気がする。兄に会えたから心が落ち着いたのかな?
私は目をこすり紅茶を一口飲んだ。
「ねぇ、私が元の世界に帰っても、またお兄ちゃんに会えるの?」
私がそう聞くと、兄は驚いた顔をした。
「みぃ……帰りたい?」
「うぅ…、帰りたいじゃなくて……なんか、お母さんが待ってるって言われて……」
兄はひどく悲しい顔になった。一体どうしたのだろう?
私は眠たさを必死に堪えて兄を見る。
「嫌…ダメだ…。帰らないで…」
「ど…どう…して…?」
「みぃ、またお母さんに傷つけられる…お母さんは待ってなんてない!それに…あっちの世界には恐ろしいやつがもっとたくさんいる…!!」
声を荒げる兄はバッと立ち上がった。私も驚いてすぐに立ち上がった。
「お…お兄ちゃん…?どうしたの?」
「みぃ…また会えなくなるよ…」
私はどうしたらいいのだろう…
「ねぇ、僕もっとお話したいよ…みぃ…ずっとこの世界にいてよ…」
「うぁ…えぇと…、私もここにいたいけど……」
ダメだ、眠たさとか色々あって頭が痛くてクラクラする。本当にどうしたらいいのだろう…
『みぃよ、本当の世界に戻りなさい』
「…だ、誰?」
突然、お爺ちゃんのような声が後ろから聞こえた。振り返ると、そこには大きな鏡があった。まさかここから声が?
『君はこの世界にいるべきではない。しっかり生きなくてはいけない…、それに、お母さんが待っている。お母さんは、君に伝えたいことが山ほどあるようじゃ!!もう、昔のお母さんじゃない!君の兄は…』
「黙れジジィ!!」
「!?」
兄は隣に置いてあった大きな騎士の置物から剣を奪い、鏡に思い切り振り下ろした。鏡はガシャァアンと大きな音を立てて壊れてしまった。あのお爺ちゃんの声は聞こえなくなってしまった。
「…お兄ちゃん…」
「みぃ…お願いだ…、ずっと…ここにいてよ…」
兄は剣を持って近づいてくる。
「待って、危ないよそれ…。お兄ちゃん落ち着いて…」
兄は立ち止まり、私を寂しそうな目で見た。
割れた鏡はキラキラと光を反射している。
「あんなジィさんの話聞いちゃダメ…、あの親が変わってる訳ない…」
でも、私はあの部屋で母親の声を聞いた。その声は昔の恐ろしい声ではなかった。とても、何かを後悔して悲しんでいる声だった。
「私…帰らなきゃいけない…」
「ダメだ!!もう…あんな場所で傷つく必要なんてないじゃないか!!ここで…ここで楽しく暮らそうよ?」
「でも…」
「君がここへ来れば、母さんもすぐにここへ来るよ!」
「どういう…こと?」
もうよく分からない。何が何だかもう、本当に分からないよ…
「君が本当にこっちの世界に来れば、母さんもすぐにこっちへ来るって事だよ…」
「本当にこの世界に来るって……死んじゃうって…こと…?」
兄は目を逸らした。やっぱり…
「ごめんね…お兄ちゃん。私、ずっとお兄ちゃんと一緒にいたい。でもさ…お兄ちゃん言ったじゃん。私に強く生きてって…」
「…」
「私さ…頑張ろうと思うの…。どんなに辛いことがあっても…」
兄の目から涙が溢れ出した。ポツンと一人、とてもとても悲しい涙。見たくないよ…そんな顔…
私だって…本当はここでずっとお兄ちゃんと一緒に楽しく暮らしたいよ…でも…
「嫌だ!!絶対に帰さない!!」
「!?」
兄は私に向かって剣を大きく振り翳した。私は咄嗟に横の扉を開き部屋を出て走った。
このままじゃ殺される…殺されたらどうなるの?ここから永遠に出られなくなるの…?
もういい、私は何も考えずに兄と最初に出会った部屋を抜け出した。そして、広く長い廊下を走る。
「だれかっ…誰かぁ!!」
私の声だけが広い廊下に虚しく響き渡る。
お願いだ…、誰か…助けて…!!
あとで直します。




