七十六のお話
カツカツと階段を上っていく。
もう、今度は逃げられない。もう、そろそろ覚悟を決めなくてはいけない。
大きく美しい、王子様の部屋に繋がる扉の前に再びやってきた。赤い扉は白い空間に物凄い存在感を放っている。
「大丈夫ですか?」
「……」
大丈夫…大丈夫。何かあったらまた走って逃げればいい。
大丈夫…大丈夫だから…
「…大丈夫……」
私がそう言うと、チェシャ猫は扉についた金の輪っかに手をかけた。
そして…ゆっくりと引く。
扉は静かに開いた。
「さぁ、どうぞ……」
私は大きく深呼吸して、ギュッと目を瞑った。
大丈夫、大丈夫と頭の中で何度も唱える。
そして、私は開いた扉の中に入った。
真っ白な大理石の床、正面にまっすぐ敷かれた赤い絨毯、その先に……
「…え………」
真っ赤なマントになぜか見覚えのあるおもちゃのような王冠、くせっ毛で茶髪の人が奥の大きな窓の外を眺めていた。あれは…
『…やっと…やっと会えた…』
その人はゆっくりと振り返り、私を見た。
綺麗な、澄んだ茶色い目、優しく微笑んだ口元……
「…お…おぉ……お兄……ちゃん……」
「うん…久しぶり…みぃ…」
兄だ…兄だ…私の兄、出雲蒼馬だ。
あれは偽物じゃない…本物の兄だ…
私の目からは大粒の涙が溢れ出した。怖いとか、緊張とかが全部吹き飛んだ。
「お兄ちゃん…!!」
「みぃ…」
私は兄の方へ走った。そして、思い切り抱きついた。
あぁ、懐かしい匂いだ。すごく落ち着く…
「アハハ、みぃは変わらないなぁ…」
「ごめんね、ごめんね!!私のせいで…私のせいで…!!」
「…みぃは悪くない…、ね?だから泣かないで…」
優しく私の頭を撫でてくれる。
あぁ、嬉しい。溢れ出す不思議な感情は私の涙を作っていく。そして、ホロホロと流れ落ちる。
「さあ、もう泣かないで!!今まで会えなかった分、いっぱいお話ししよう?」
「…うん!!」
兄は「いい子だ」と言ってもう一度頭を撫でてくれた。私は涙を拭いた。
「あっちで二人でお茶会しよう!美味しいケーキやクッキーもあるし!」
「うん!」
私たちは手を繋いで、この部屋から繋がっているお隣の部屋に移動した。
お隣の部屋は、中央に白く清潔感のある丸いテーブルと、向かい合った二つの椅子、壁にはたくさんの絵が飾られていた。結構小さな、居心地の良さそうな部屋だ。
「さあ座って!」
私は椅子に座る。とても座り心地が良い。テーブルの上には、もうたくさんのケーキやお菓子が置いてある。兄も椅子に座り、おしゃれなティーカップに紅茶を淹れてくれた。桃のいい香りがする。
「まさか…王子様がお兄ちゃんだったなんて…」
「アハハッ、ごめんね黙ってて。みぃを驚かせたかったんだ〜」
ニコニコと笑う兄を見たのも本当に久しぶりだ。私はあの優しい笑顔が大好きだ。
それから私たちは時間を忘れて楽しい会話をずっと続けた。本当に昔の、一番楽しかった時代に戻っている感じだ。この時間がずっと、永遠に続いたらな…
色々変です。後で直します。




