七十五のお話
『行こう行こう!!』
「ねぇ、…扉の場所…分かる人いたりする?」
ぬいぐるみたちは「へ?」と素っ頓狂な声を出した。まあ、そうなるだろうな。
『みぃ…場所分かんない?』
「うぅ…ごめんね…分かんないの…」
私が謝るとクマのデイが私の肩をポンと叩いた。顔を上げると目の前には大きな笑顔、見慣れた、大好きなクマのデイの可愛らしい顔があった。
『大丈夫!!みんなで探そう!みぃ、謝らないで!!』
他のぬいぐるみや家具たちもニコニコ笑顔だ。
…この子たちは…本当に優しい子たちなんだなぁ……。
「ありがとう…ありがとう…」
『えへへ、じゃあ、行こう!!ママも待ってるよ!』
「お母さん…が?」
『うん!』
どうして?あんなに私のこと嫌いなお母さんが?不思議なこともあるものだなぁ…
「どこへ行くんです?」
「!?」
『!?』
後ろから、冷たいチェシャ猫の声が聞こえた。
呆気なく見つかってしまった。もう、前に道はなく行き止まり。逃げることが出来ない。ぬいぐるみたちもとても怯えている。
「こんなところで…何を?」
「あぁ…えぇと…その…」
チェシャ猫は変わらずいつもの薄っすら笑い。怒っているのか、そうでないのか分からない。
「早く出ましょう、こんな汚いやつらの場所…」
「こっ…この子たちは汚くないよ!!」
なんてことを言うんだ。この子たちは私の宝物なのに…
「いいから…行きましょう」
「うわっ!?」
チェシャ猫は私の腕を掴み引っ張った。どうしよう…行きたくない、それにこの子たち…
『みっ…みぃに何するんだ!!離せ!!』
『そうだそうだ!!悪い猫め!!』
ぬいぐるみたちは次々チェシャ猫に飛びかかった。
「うるさい」
チェシャ猫はそれを物凄い力で跳ね飛ばした。ぬいぐるみは破れてワタが出たり、家具は足が折れたり、本は破けてしまったりと、悲惨なことになっている。
「なんてことするの!!」
私はチェシャ猫の手を振り払い、ぬいぐるみたちに駆け寄った。
クマのデイは腕がもげてしまっている。縫えばどうにかなりそうだが、ここには裁縫道具がない。
「デイ!しっかりして!!他のみんなも!!」
『うぅ…僕たちは大丈夫……みんな壊れても、直して貰えばいいんだから…。みぃ…僕たちのこと直してくれる?』
「直すよ!!裁縫…苦手だけど頑張るよ!!」
『…よかったぁ…』
デイはそのまま眠ったように動かなくなってしまった。デイだけじゃない、他のみんなもだ。死んでしまったわけではない。だけど…
「私の…大事なものなのに……なんでこんなことするの?」
私はチェシャ猫に尋ねた。チェシャ猫は不機嫌そうな顔で私を見た。
「こいつらは…汚い記憶を呼び起こす。あってはいけない、早く消し去らないと…」
「だっ…だめ!!絶対だめ!!そんなことしたら…チェシャ猫のこと大っ嫌いになるよ!!」
私がそう言うと、チェシャ猫は酷く動揺した。よく見ると、手が震えている。
「ご…ごめん…なさい……ごめんなさい…嫌わないで…嫌わないで……」
「えっ…えっ…待ってチェシャ猫どうしたの!?」
チェシャ猫は頭を抱えて蹲った。まるでお化けに怯える子供のようだ。
「嫌だ…ごめんなさい…ごめんなさい……」
「あわわ…ごめん!私言い過ぎちゃった、嫌いになったりしないから大丈夫!!安心して!!」
チェシャ猫はまだ蹲っている。
どうしたらいいのだろう。こんなチェシャ猫見たのは初めてだ。
「ごめんなさい…」
「大丈夫だから!!ねっ!!」
私がチェシャ猫の背中を撫でてやると、少しずつ落ち着いてきたようだ。
チェシャ猫はゆっくりと私の顔を見た。その顔は青ざめ、今にも死んでしまいそうな顔だった。
「…本当に…嫌われませんか…?本当に…」
「うん!!本当!!大丈夫だよ!!」
チェシャ猫は安心して私をぎゅっと抱きしめた。チェシャ猫って…こんな人だったか…?もっとクールで、冷静で…そんなイメージだった…。
「怖いんです…嫌わないで……」
「うん…大丈夫だよ…」
何がそんなに怖いんだろう。私なんかに嫌われても…別に何も変わらないんじゃ?私、チェシャ猫のこと、ちょっと怖いけど嫌ったりは絶対しないよ…
「でも…この子たち消すとか言わないでね?」
「…はい、分かりました」
よかった。これで一安心……
「…なんで…逃げたりしたんです?」
「うぅ…」
……王子様が怖かったから…いや、うん。それしかないよな…
「ごめんね…」
「大丈夫です…」
チェシャ猫はようやく落ち着いたようで、私を離した。そして立ち上がる。
「ねぇ…この子たち…」
「…今は…置いておいてください」
私は後ろに散らばった壊れてしまったぬいぐるみたちを見た。
ちゃんと直してあげるから…大丈夫…
「行きましょう…」
チェシャ猫は寂しい声でそう言い手を出した。私はその手をとり、一緒に部屋を出た。
やっぱり…逃げられなかった…
後で直します。




