六十九のお話
頭の中に鳴り響く、午後五時のチャイム。歪んだ音は、私の、あの時の記憶を見せる。
『…やっときたぜ』
私の目の前に、副島、藤原、東村、井上が立っている。
東村は赤い灯油缶を持っている。
『あのさ、……もう、死んでくれない?』
ズバッと私の心を切り裂くように、副島がそう言った。
『いや、なんかさ…。もう色々嫌なのよね。なんか…あんたに、あんたのお兄さん私たちが殺したみたいに思われてるのも…』
副島は淡々と話す。他の三人は私を睨んでいたり、おどおど下を向いていたり…
『まぁ、もう卒業までもう少しだけどさ…。私たち、あんたと違って中学校ライフを楽しみたいのよ。あんたがいるとなんか、…もう、ホント鬱陶しいのよ』
存在が鬱陶しい…か…
私はお前らに害を与えたことはない。
『もお、そんなんどーでもいいから、ほら、灯油とかライターとか持ってきてやったからさ、ここで自殺してくれね?』
東村が灯油缶を私と4人の前に置く。ライターは井上が持っている。
こいつらは…本物の悪魔だ…。よくそんな事が言えるな…
『ほら、突然の火事に巻き込まれて死にました〜とかできるじゃん?自殺っていう自殺だったら、俺らなんかまた言われんじゃん?それに、お前生きてても楽しくないだろ?』
…あぁ、私に何か言い返せる根性があったらな…
私はどうして何も言えない?どうして?ねえ、どうしてよ?どうしてどうして!!?
なぜ人と違う?なぜ自分の意見をはっきり言えない?私は…どうしてこんな風に生まれてきたんだ…?
…たしかに、あいつの言うよう私は生きてても楽しくない。それどころか生きていると辛いことばかり…。このまま死ぬのも悪くないかもしれない。だけど、奴らに言われて死ぬのはごめんだ。
『早く死んで、兄ちゃんに会えるといいな。兄ちゃん多分、早くおいで〜って待ってるよ〜』
ほら、言い返しなよ。兄はそんな事望んでないって…
兄は待ってない。兄は、私に強く生きてほしいと言ったんだ。
こんなに早く兄のところへ行けば、私は兄に怒られてしまう。
『ボーっとしてねぇで、さっさと灯油全部かぶって火ぃつけな。あ、俺らが出ていってから火はつけろよ?巻き込まれたくないから。逃げるのはナシだぜ』
私がいつ自殺すると言った?…いや、自殺しないとも声を出して言っていないなぁ…
ホント、何ボーっと突っ立ってんだよ自分。バカじゃないの?オラ、言え。言いたいこと言え。
頭の中でごちゃごちゃ言ったってなんの意味もない。虚しいだけだ。
なんだよあの憎たらしい顔。お前らが死ねや…
『なぁ、早く灯油かぶれよ』
嫌だね。
東村が灯油缶を持ち上げた。
私の言葉は喉の辺りで膨らんで、そのままスゥっと声にならず消えてしまう。
心はズタズタに切り刻まれ、ストレスで出来た土砂降りの雨が傷に滲みる。
ボーっと立ってる自分の背中が見える。
『ほら!』
その灯油をお前らにぶっかけて、すぐに火をつけ燃やしてやりたい。
そんな事出来たらなぁ…神様…助けに来てくれないかなぁ…
『ほら早くしろよ!!』
東村がそう叫ぶと、ビクッとした井上がライターを缶の小さな穴の中へ落としてしまった。
「!?」
『!?』
その瞬間、灯油缶はピカッと光った。そして…
「うっ……」
何も聞こえない。
…すごい…スローな世界だ…。
目の前にはあの憎たらしい4人、それと真ん中でゆっくり弾けようとする灯油缶。灯油缶にライター入れただけで爆発なんてするのか?まぁ、どうでもいいが……
私…死ぬの………?
死ぬ直前は、全てがスローになって見えると誰かが言っていた。すごく静か…静かすぎて怖いくらい…
あぁ、ごめんなさいお兄ちゃん……私は死んでしまうようです…
最期までダメな妹でごめんなさい……
「…ぁ……ぁぁ……」
やめろやめろやめろ!!!やめてくれ!!
嫌だ…嫌…嫌だ!!
私はどうなったの?死んだの?ねぇ…!!
「大丈夫…」
「…!?」
チェシャ…猫…
蹲る私の背中を優しく撫でてくれる。真っ暗な空間…ここはあの教室じゃない…
「……」
息が苦しい…うまく吸えない……。意味なく涙が出てくる。
「大丈夫…大丈夫…」
「…苦しいよ……どうしよ……私…私……」
今ここにいる私は何?魂?幽霊?
ドロドロに混乱した私の頭。普通に戻れるの?
「大丈夫…大丈夫です…」
チェシャ猫はそればっかり、全然大丈夫じゃないよ…
「私……死んでるの……?」
青ざめた顔の出雲はチェシャ猫に尋ねた。
変なところ多いです…すみません…後で直します…




