六十六のお話
扉を閉めると、ギギィ!!と、大きな音が出た。音楽室の扉は昔から閉まりにくいのだ。
「……」
一番奥に飾られている、四枚の音楽家の肖像画が額縁だけになっている。
それより、いつもなら三十台ほど綺麗に並んでいるはずの机と椅子が、教室の中心に一つだけになっている。
私は音楽準備室の扉のところへ行ってみた。
「…」
鍵がかかっていて、中に入ることはできないみたいだ。
仕方なく、音楽室内で何か探そうと振り返ると、奥の四つの額縁が変化していた。
「…!?」
左から、藤原、副島、井上、東村だ。
その写真には、とんでもなく恐ろしいラクガキがされている。
私はとても怖くなり、早く音楽室を出ようとしたが、なぜか鍵がかかっていて出ることができない。
「どうしよ…何で…!」
必死で引っ張るが、やはり鍵がかかっていて開かない。
『大丈夫だよ…』
「!?」
後ろから声が聞こえ、私は咄嗟に振り返った。
そこには…
『みぃ…』
肖像画の前に、クセのある茶髪、どこか寂しげな目の男、私の兄が立っていた。
私の頭の中は真っ白になった。
『久しぶりだね…』
「ぁ…ぁ……」
声が出ない。
何も考えることができない…
『僕、待ってるんだよ?ずっとお城で。早く来てほしいな』
兄は私に近づいてくる。
『いっぱい話したいことがある、チェシャ猫も一緒にね』
「!?」
突如、兄の体はドロドロに溶け、あの時見たドス黒い色の液体になった。
そう、あれは闇だ。
私の脳は、大きな危険を感じてやっと動き出した。早く逃げないと、扉を開けないと!!
「うっ!!開いて!!」
引いても押してもダメなら、もう壊すしかない。私はすぐ側にあった椅子の脚を掴み、大きく振り上げた。そして、思い切り扉へ振り下ろす。闇はゆっくり近づいてきている。
「お願い!!開いて!!開いて!!!」
何度も何度も椅子を振り下ろすと、ガシャンと大きな音を立てて、ついに扉は壊れた。私はすぐさま走り出す。
助けなんて来ない。そんな事は分かっている。私は階段を下り、三階の教室に隠れた。
「はぁ…はぁ…」
扉…壊してしまった…。私にそんな力あったんだ…。火事場の馬鹿力ってやつかな…
私は呼吸を整え、隠れていた教卓の下から出た。闇の追ってきている気配はない。
「あれ…よく見たらここ…」
見覚えのある美術の授業で描いた作品、時計の横のクラスのスローガンが書いてある大きな紙…
間違いない、三年八組の教室だ。
「私の机だ…」
一番端の窓側が私の席だ。
私は自分の席まで歩いていった。
「…ん?」
引き出しに何か入っている。私はそれを取り出した。
「…スケッチブック?」
表紙に何も書いてない白い紙が貼られている。
ページをめくると、クレヨンでラクガキがされていた。黒で「おかしのもり」と書かれている。次のページは「きりのもり」、その次は「大きなオレンジのはな」と書いてあった。どうやら、不思議の世界の場所の名前みたいだ。
「…」
真ん中らへんのページに、私のじゃない字で「しにがみはこわい」と、書いてある。
きっと兄の字だ。
次のページに「みぃをきずつける人はきらい」と赤いクレヨンで書いてある。
「…ん?」
私は背後から視線を感じ、ゆっくり振り返る。誰もいない。
…いや、さっきまではなかった紙が地面に落ちている。
私はそれを拾い上げる。
『死神はいちゃいけない存在。死神は君を傷つける。』
そう書いてあった。
誰が書いたか分からない。
「あ…」
裏にも何か書いてあった。
『私には、あなたしかいない。あなたのそばにいたい。』
表の字より、少し綺麗な字でそう書いてあった。私はなんとなく死神さんが書いたんじゃないかな、と思った。
死神さんが私を傷つけるのは、私がお願いしているからで、死神さんは何も悪くない。私のせいで、死神さんは兄やチェシャ猫に嫌われてしまっている。
「わっ…」
紙は一瞬で焼けてなくなってしまった。その灰はふわふわと教室の外へ飛んでいく。
私も一緒に教室の外へ出た。
変なところ多いです…すみません。後で直します。




