六十のお話
「行きますよ」
チェシャ猫は私の腕を掴み、強引に立たせた。
そしてそのまま引っ張られていく。
「嫌!!離して!!」
チェシャ猫は無視して進む。
「ねえ、お願い!!」
「離したら、また逃げるでしょう?」
行きたくない…怖い…
誰か助けて……!!
『あ〜らら、チェシャ猫…嫌われてるじゃないですか』
突風と共に聞き覚えのある声が聞こえた。
前に立っていたのは、真っ黒な服の彼、死神さんだった。
「死神さん!!」
死神さんはニコッと笑って私を見た。
チェシャ猫はとても不機嫌な顔になる。
「彼女…嫌がってますよ?あなたの事」
「そうですね。嫉妬狂が何の用です?」
とてつもなく仲の悪い二人。
殺意の渦巻く不穏な空気。
「お城には…行かせませんよ…。美月さん…さぁこっちへ」
死神さんの方へ行きたいが、チェシャ猫が手を離してくれない。
「あんな奴の言うことを聞いてはいけません」
握られた手に力が入る。
「もっと嫌われますよ?いいんですか…?手を離してあげてください」
死神さんは、後ろに隠し持っていた銀のナイフをチェシャ猫の左肩めがけて振り下ろす。
チェシャ猫はそれを可憐に避けた。私を掴むチェシャ猫の手は離れた。
「向こうへ走ってください、早く!!」
私は死神さんに強く背中を押され、言われた方向へ走り出した。
「死神ぃ……」
「追わせません」
死神さんがチェシャ猫を足止めしてくれている間に、出来るだけ遠くへ逃げなくては…
このまままっすぐでいいのか、どこまで走ればいいのか、分からないがひたすら全力で走る。
「なぜ邪魔をするのです?」
「彼女が…ここにいる事を望んでいないからです…」
不吉な風は二人の間を通り抜けてゆく。
チェシャ猫にいつもの薄っすら笑いはない。
「はぁ、はぁ…」
いつの間にか、森の中は真っ暗になっていた。光っているのは足元の小さなキノコだけだ。
私は疲れて走るのをやめ、ゆっくり歩いている。
「死神さん…」
私は死神さんが心配でたまらない。
ニセウミガメのように殺されてしまったら……
「…」
また涙が出そうになる。だが、それを堪え私は前へ進む。
『どうして…』
「!?」
久しぶりにあの声が聞こえた。
頭の中に話しかけてくるあの声…
『待ってる、ずっと待ってるのに…』
「……あなたは誰なの」
優しくてどこか切ない声。
私は質問する。
「あなたが…王子様…?」
ズキンと頭が痛んだ。
『そうさ、僕は王子だよ…』
驚いて私は足を止めた。
一瞬脳内が真っ白になる。
『君を待ってるんだ、お城に…お城に早くおいで…』
「待って…」
声はスゥっと消えてしまった。
王子様…
「美月さん…」
後ろから死神さんの声がした。
振り返ると彼はちゃんとそこにいた。
「死神…さん…よかった……無事で……」
ホッとしてガクンと地面に崩れ落ちた。死神さんは私の背中を支えてくれる。
「大丈夫…」
暗闇の中で仄かに光るキノコを眺めていると、とても眠たくなってきた。
でも、我慢してバチっと自分の頬を叩く。
「あのね、今王子様の声を聞いたの…」
死神さんは少し焦っているようにも見える。
「私…一体どうすればいいのかな…お城に行ったら…どうなるの…?」
「…」
言ってもいいのか…
「お…お城に…行けば…」
ダメだ…でも、このままでは…
『ねぇ!!お菓子!!お菓子ちょーだい!!』
「うわっ!?」
「!?」
突然変な声が聞こえ、私たちは驚いた。
「お菓子!!お菓子ぃ!!」
「あ、コイツ…」
ピンク色の餅…饅頭?とにかくヘンテコでウザい顔面から手足とうさぎの耳が生えたようなあの生き物だ。また、お菓子を求めてここへやってきたようだ。
「何ですかこれ?」
死神さんは「お菓子ぃ!お菓子ぃ!!」と転がり暴れ回る変な奴を見て言った。とにかくコイツはウザい。
「死神さん…それ投げ飛ばして」
「えぇ!?」
そうしない限り、永遠とついてくるウザい奴。こんなうるさく騒がれたら、チェシャ猫に居場所がバレてしまう…
「ちょ…コイツ危ないです…噛まれますよ!!」
どうにか捕まえようと死神さんは頑張るが、ウザいうさぎはその手に噛みつこうとする。
「おーかーしぃぃ!!」
『黙れ、このキモうさ』
「ふぎゅっ!!」
「え?」
うさぎの潰れる音。死神さんは何もしていない。私も何もしていない。
「やぁ、みぃと死神くん」
「アール!」
現れたのは吸血鬼のアールだった。どうしてここに?
「いや〜、みぃ大変だね」
「何でここが分かったの?」
アールは気絶したうさぎの耳を掴み持ち上げた。
「コイツを使ったのさ。コイツ、みぃんとこに走ってくから」
何でだろう。いつもお菓子を持っていると思われているのだろうか…
まぁ、うさぎはどうでもいい。一体何が大変なんだろう?
色々雑でごめんなさい。変なところ後で直します。




