五十のお話
「彼女がいいと言っているので、もう塗らなくて大丈夫ですよ」
トランプうさぎたちはまだガタガタ震えている。相当チェシャ猫が怖いようだ。
「行きましょう」
「あ、…うん」
チェシャ猫はすぐに歩き出した。私はトランプうさぎたちに「邪魔してごめんね!」と言ってチェシャ猫後を追った。
「ねえ、チェシャ猫はなんでトランプのうさぎに怖がられてるの?」
「…わかりません。いつのまにか怖がられてました。猫だからですかね」
うさぎは猫が怖いのか…。でも、昔うさぎも一緒に遊んだ気が………
「あ…」
待って、よく思い出せ自分。あの時見た夢、あの大きな木の下で見た夢だ。私がチェシャ猫と、影の男の子とうさぎたちとかくれんぼして遊んだ夢…。あれは、夢じゃないんだ。私の昔の記憶なんだ。
突然私は思い出した。不思議な感覚だ。私の記憶、思い出、本当にあった事。だから、チェシャ猫はあの時私の夢の話の続きが分かったんだ…
「どうしました?」
いつもの薄っすら笑いでチェシャ猫は聞いた。私は少し面白くって笑いそうになった。
なぜ今この記憶が戻ったかはわからないが、とても嬉しい。できれば、もっとたくさん、楽しい記憶が戻ってきてほしい。
夕焼け色に染まる白い薔薇は、ゆらゆらと優しい風に吹かれ揺れている。甘い香りに包まれる道を私たちは歩く。
「本当に…元の世界に戻れるのかな…」
私は小さく呟いた。何日ここで過ごしたのだろう。時間がない世界だからよく分からないが…
「戻らなくて…いいじゃないですか」
チェシャ猫は、独り言のようにそう言った。
たしかに、…私も…戻りたくない…。戻るのが…怖い。
「戻りたくないね」
「…えぇ、戻らないでくださいよ」
このまま、ずっとここにいるのもいいかもしれない。私はそう思いながらチェシャ猫と歩く。
「…またトンネル…」
薔薇の庭の奥に、三つのトンネルを見つけた。左から黒、灰、白の丸が上に描かれている。どれを覗いても中は真っ暗で何も見えない。
「ねえ、チェシャ猫…あれ?」
今まで隣にいたはずのチェシャ猫が、また突然いなくなっている。近くの薔薇の木の後ろを探しても、どこにもいない。名前を呼んでも返事がない。なぜいつも突然いなくなってしまうのだ。私は諦めて三つのトンネルの前まで戻ってきた。
「どうしよ…どれに入るんだろ…」
間違ったものに入ってしまったら、一生出られなくなるとか…、怪物が襲ってきたりとか…。私は怖くてトンネルの前で立ち尽くしていた。でも、いつまでもこうしてはいられない。
「…」
私は足元に落ちていた木の枝を拾い、地面にまっすぐ立てた。そして手を離し、枝を倒した。倒れた枝は灰色のトンネルを指している。
「真ん中か…何もいませんように…」
私は深く深呼吸をして、トンネルの中へ足を踏み入れた。
どこまでも暗闇が続いている。私は後ろを振り返らないようにまっすぐ進む。頭がズキズキと痛むが、我慢して早歩きで進んでいく。
「ん?」
目の前に小さなロウソクの灯りが見えた。ロウソクは細長い台の上に乗っていて、他にも何か置いてある。私は台のところまで走った。
「…スープ?」
台の上には、可愛い平べったい皿に注がれた一杯のコンソメスープと、「飲んでね!」と書かれた紙があった。スープからはまだ湯気が出ていて、出来立てのようにも見える。
「なんか怖いなぁ…」
見た目は何の変哲もないコンソメスープだ。だけど、誰が作ったかも分からないものを飲むのはちょっと怖い。もしかしたら毒が入っているかもしれないから。
私がスープを飲むのをためらっていると、紙に書いてある文字がいつの間にか変わっている事に気がついた。「毒なんて入ってないよ!美味しい美味しいスープだよ!早く飲んでね!」と、書かれている。
「ん〜……」
私は目を凝らしてスープを見た。そして、スプーンで少しすくって飲んでみた。
「…!!」
本当にとても美味しいスープだ。私が作るものなんて比べ物にならない。怪しんでいた自分がバカらしく思える。私はスープを全部飲んでしまった。
「美味しかった〜」
私は手を合わせ、ご馳走さまと言った。すると、紙に書かれた文字がまた変わった。
「よかったよかった!!お粗末さまでした!!」
不思議な紙だな、と思いながら私はまた前へ進み出した。
「…?」
何だろう。身体が変な感じだ。私は足を止めた。
「うっ!!」
苦しい、まさかさっきのスープ、やはり毒入りだったのか!?
私は地面に座り込み、手をついた。不思議な感覚に包まれ、自分の身体が大きくなっている事に気がついた。元の大きさに戻れたのだ。
「あ〜…びっくりした…。でも…よかった…」
アリスの物語では、大きくなったり縮んだりするのはよくある事。だが、自分がいざ体験してみるととても怖いものだ。私は立ち上がり、ドレスを叩く。そういえば、ドレスも一緒に大きくなってくれている。私はそこに一番安心した。
変なところ多いです。すみません。後で直します。




