四十六のお話
「…ぅ…」
気がつけば、私は小学校の教室で椅子に座っていた。机の上には筆箱とノートが置いてある。筆箱には、あの水色の猫のストラップがついている。教室には私以外誰もいない。
アハハハハ…!
どこからか聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。話し声もする。これは…藤原と副島?笑い声は東村だろうか。私が座ってボーっとしていると、4人が入ってきた。
「うわー!出雲やん!」
「またぼっちー!」
突然入ってきて、突然嫌な事を言ってきた。何も言い返すことのできない私はただ作り笑いをした。4人は近づいてくる。
「マジキモい、何笑ってんの?」
副島の嫌味な声。笑う他の3人。自分でもなぜ笑っているかなんて分からない。逆に泣きたい気分だ。でも、何も言い返せないから笑うしかないのだろう。
「お前のにーちゃんマジウザいんだけど、いちいち俺らに文句言いあがって」
本当に私に兄がいるのか?なぜその兄はコイツらに文句を?
私はどうにか思い出そうと、少し下を向いた。私の…兄…
ダメだ。本当に何も思い出せない。どうしてだろう。兄だぞ、家族だぞ!このポンコツ脳みそ!頭の中で愚痴を言いう。
「うわー、何これダサ」
井上が私の筆箱についたストラップを取った。
「やめて!返して!」
よくわからないけど、体が勝手に動いた。井上からストラップを取り返そうとしたが、副島に突き飛ばされて尻餅をついた。
「ばっかじゃねーの、こんなもん俺が捨ててやるよ」
そう言って井上は走って教室を出た。笑いながら3人もついていく。私も急いで後を追う。
「待ってよ、返して!!」
「ついてくんなよキモいんだよ!!」
一体どこまで逃げるんだ。いい加減にしてほしい。
夏の暑い日差しが降り注ぐ中、川沿いの道を私は必死に走っていく。
「返してって!!」
井上は「嫌だ」と言って川の方へ下りていった。そして川の近くで止まった。まさか…
「そんなに欲しいなら、泳いで取ってこいよ!!」
そう言って井上はストラップを川に投げてしまった。笑う4人…私は…
ザッバン!!
深い川に飛び込んだ。もちろん泳げない。だけど、必死に手足を動かしてストラップを探す。
自分はなんてバカなんだ…。川は流れるもの。ここは流れが速い。もうストラップもどこかへ流されてしまっただろう。私も川の流れには勝てない。どんどん岸から離れていく。4人の不愉快な笑い声。誰か……!!
ザバン!!
誰かが川に飛び込む音が聞こえた。でも、4人は岸の上。…
「お兄ちゃん!!」
私の口からその言葉が飛び出した。口を開けばガバガバと水が入ってくる。苦しい…死んでしまう…
「しっかりして!みぃ!!」
水の中で私の体は強く引っ張られた。そして誰かの腕に息ができるよう支えられた。
茶色い髪、焦げ茶色の澄んだ瞳。柔らかくて優しい声…
「お…兄ちゃん…」
名前が思い出せない。私の…大好きな兄だ。いつも私を守ってくれる優しい優しい兄だ。
忘れてしまった自分を今すぐ叩き斬りたい気分になる。
「大丈夫、頑張るんだ!」
私はギュッと兄にしがみついた。物凄い速さで私と兄は流されていく。
「マジお前ウザい!!死んでしまえ!!」
岸の方から東村の声が聞こえた。そして、私たちの近くに石がいくつも飛んできた。私は驚いて岸の方を見た。
拾った石を私たちに投げつける東村、笑って見ている井上と副島、少しだけ心配そうに見ている藤原。
私は思った。どうして私の近くにはこんな酷い人間が沢山いるんだ、と。アイツらを、人間だなんて思えない。虫、ゴミ以下の存在だ。
「みぃ、大丈夫だから…!」
苦しそうに兄は言う。私は涙を堪えて頷いた。きっともうすぐ岸に上がれる。そう、少しの希望を持って兄に掴まっている。
「うあっ!?」
兄は大きな岩に背中から思い切りぶつかった。その瞬間、私はその岩に乗せられた。
「お…お兄…ちゃん…血…が…」
鋭く尖った岩が、兄の背中に突き刺さったようだ。これは助からないかもしれない…私はそう思った。血は泳ぐように川の中に広がる。私は兄の右手を掴み、ここへ引き上げようとしたが…
「ハハ…、みぃ、手を離して」
兄は力なくそう呟き、私の方に重たい体を向けた。
「僕は大丈夫だよ、ちょっと流れて旅行しようと思う」
「い…嫌だ!!旅行なんて嘘だ!死んじゃうよ!!」
私は必死に兄の手を引っ張る。だが、小さな私の力では引き上げる事ができない。
「みぃ、もし僕がいなくなっても…しっかり生きるんだよ。君はすごく強くていい子だから…」
「嫌だ嫌だ!そんな事…言わないで…私悪い子だもん!強くなんてないもん!」
私は悪くて弱い子。悪口言われても、何も言い返せない。ママを、すぐに怒らせたり、困らせたりする。勇気も根性も何もない、本当にダメな子だから。
「違う!みぃはいい子だよ!…だから…だから…」
手が離れてしまう。非力な自分を心から呪った。どうして、大事な物も守れないの?どうして、大事な、大事な兄を助けられないの…?
「強く…生きるんだ…。僕たちは、ずっと君を見守ってる…」
手が…離れてしまった。最後に見えた、兄の幸せそうな顔。でも、どこか深くに潜む闇が見えた気がした。私の頭の中は、拳銃で撃ち抜かれたように真っ白になった。苦しいのも、辛いのも、怖いのも……全部なくなった。心にぽっかり空いた穴。何をしても塞がらないだろう。
これは違うよ、きっと…きっと悪い夢。私の記憶じゃないよ…
本当に雑でごめんなさい。後で直します。




