四十五のお話
「では…次の証人、前へ」
会場はうるさいまま、チェシャ猫は言った。次は料理長が前へ出た。
「…どうぞ」
料理長は証言台の前に立ち、下を向いて黙った。私は眠りネズミを抱きしめたまま見ていた。
「…うっるせー!!黙れ客ども!」
バンッと証言台を叩き、料理長は叫んだ。会場は少し静かになった。料理長は深呼吸をして話し始める。
「私は、優しいアリスが大事にしている物を、悪いアリスたちが盗んだという事を知ってる」
「なにぃ!?盗んだぁ!!?」
「有罪!有罪!早く死刑に!!」
証言台に立つ人たちが何か話すと、必ず会場は騒がしくなる。が、料理長が「静かにしろ客どもぉ!!全員ハンバーグにするぞ!!」と怒ったので、観客たちはすぐに静かになった。
「水色で猫の形のストラップ、優しいアリスが兄にもらった大事な大事な物だ」
私のストラップの事だ。これは兄にもらった物?…ダメだ、全く思い出せない。砂漠に落ちた一枚の写真を探すような感じで、私は記憶を探る。
「それからは分からない…うぅ…っ…!可哀想な優しいアリスぅぅ!!」
料理長は証言台の前で泣き出してしまった。そして、「私が殺してやるぅぅ!!」と言いながら、どこからか出した包丁を証言台に何度も突き刺した。
「ありがとうございます。証言台…壊さないでくださいね…」
「うぅ…」
料理長は元の場所に戻った。そして、体を丸めて泣いている。
「それでは…、最後の証人、前へ…」
チェシャ猫は静かにそう言った。私の隣にいたのは、帽子屋のリアンと料理長のモエカだけだ。最後の証人って…
「みぃ…前へ…」
眠りネズミが私の腕の中でそう言った。私が最後の証人?どうして…
「嫌だよ…行きたくない…。分からないよ…」
どうしていいか分からない。それに、記憶も何もないのに何を話せと?
「大丈夫…さあ…」
「……」
嫌だ、行きたくない。でも…、みんなを困らせてしまう…。
私は眠りネズミを離した。
「うん、…大丈夫だからね…みーんな…みぃの味方…」
「…うん」
私は覚悟を決め、立ち上がった。そして証言台へ向かって歩く。ワアッと客席がいつも以上に騒がしくなった。注目を浴びて、私は物凄く緊張した。とうとう私は、証言台の前までやってきた。
「どうぞ」
チェシャ猫は言った。チェシャ猫は私の記憶がない事を知っているはず。なのに、どうやって話せというのだ…
「さあ」
「…わっ、分からない…」
私は小さく呟くように言った。チェシャ猫はただじっと私を見ていた。
「悪いアリスをここへ!」
チェシャ猫は、後ろにいる食材係のネズミ、テリー、ミリー、イリーに命令した。ネズミたちは急いで後ろの大きな扉を開け、中に入っていった。そして…
「…!?」
ネズミたちは、銀の鎖に大の字で繋がれた副島を運んで来た。副島は眠ったようにぐったりと頭を垂れている。捕まってしまったのか…
「これは優しいアリスをいじめる悪いアリスの一人です」
副島は証言台と、裁判長の前の茶色い台のちょうど真ん中辺りに置かれた。一気に会場から物凄い罵声が飛んでくる。息が苦しくなるくらいの殺気も一緒に…
「殺せ!!早く処刑!!」
「殺せ殺せ!!ぐちゃぐちゃにしろー!!」
声に押しつぶされてしまいそうな感じだ。チェシャ猫はよく冷静に立っていられるな。
「優しいアリス、あなたは大事な物をたくさん奪われた。時間、自由、そして兄…この人間たちに、大事な物をたくさん奪われた!」
「わっ、分からないよ…分からない、分からないよ…」
私は痛む頭を抑えて、絞り出たような声で言った。思い出せない。記憶が隠されるんだ。まるで思い出すなって言ってるみたいに…!
「その、ストラップを…」
私の手に握られているストラップに気がついたチェシャ猫が言った。私は右手を広げてストラップを見た。
「まだ思い出せないなら、見てきてください…」
「うわっ!!」
突如ストラップは水色の強い光を放った。そして、私はそれに飲み込まれてしまった…
雑ですみません。後で変なところ直します。




